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自己紹介。  作者: 無記名
4/13

第4話「追記」

その日は、少し帰りが遅かった。


特別忙しかったわけじゃない。


ただ、細かい用事が重なって、気づいたら時間が過ぎていた。


***


家の前に立つ。


見慣れたドア。


変わらないはずの景色。


***


「……」


***


鍵を開ける。


***


「ただいま」


***


中に入ると、いつもの空気がある。


何かが違うわけではない。


それでも、ほんの少しだけ、静かに感じた。


***


返事があった気がした。


***


「……」


***


はっきりとは覚えていない。


気のせいかもしれない。


***


リビングの方から、声がしたような気がする。


***


「……」


***


誰の声かは、考えなかった。


***


いつもある音だから。


***


靴を脱いで、部屋に向かう。


***


特に変わったことはない。


そう思う。


***


それでも、頭のどこかに、昨日のことが残っていた。


***


更新日時。


***


「……」


***


あれは、結局なんだったのか。


***


考えても答えは出ない。


***


部屋に入って、ドアを閉める。


***


静かになる。


***


「……」


***


スマートフォンを取り出す。


***


少しだけ迷う。


***


でも、結局開く。


***


小説のページ。


***


一覧画面。


***


恋愛小説。


「君が物語を奏でるなら」


***


閲覧数は、また増えている。


***


もう驚かない。


***


それよりも。


***


最終更新日時。


***


「……」


***


——数秒前。


***


「……」


***


小さく息を吐く。


***


「……またか」


***


昨日と同じだ。


***


見ている間に、更新されたことになっている。


***


「……」


***


画面をタップする。


***


作品ページが開く。


***


本文をスクロールする。


***


一話目。


二話目。


三話目。


***


変わっていない。


***


「……」


***


一番下までスクロールする。


***


空白。


***


「……」


***


指を止める。


***


昨日も、ここで少し違和感があった気がする。


***


「……」


***


もう一度、ゆっくりと画面を見直す。


***


最後の行。


***


その下。


***


「……」


***


ほんの少しだけ、スクロールが伸びる。


***


「……」


***


空白だったはずの場所。


***


そこに、何かある。


***


「……」


***


ゆっくりと、画面を下に動かす。


***


短い一文。


***


そこに、表示されている。


***


「……」


***


理解が、少し遅れる。


***


「……こんなの」


***


書いた覚えがない。


***


でも、そこにある。


***


文字は、自分の書き方だった。


改行の位置も、言い回しも、癖も。


見慣れている。


***


「……」


***


喉の奥が、少しだけ乾く。


***


画面に表示されている一文。


***


——今日は、帰りが少し遅かった。


***


「……は?」


***


思わず声が出る。


***


視線が、その一文から動かない。


***


「……」


***


ついさっきのことだ。


***


今日の出来事。


***


「……いや」


***


あり得ない。


***


そんなもの、書いていない。


***


そもそも、これは恋愛小説だ。


***


こんな一文が入るはずがない。


***


「……」


***


もう一度読む。


***


——今日は、帰りが少し遅かった。


***


事実だ。


***


間違いなく、事実。


***


「……」


***


画面を閉じようとする。


***


やめる。


***


もう一度、スクロールする。


***


その一文の、すぐ下。


***


空白。


***


それ以上は、何もない。


***


「……」


***


戻る。


***


一覧画面。


***


最終更新日時。


***


「……」


***


——数秒前。


***


「……」


***


もう一度、作品を開く。


***


さっきの一文。


***


消えていない。


***


そのまま、残っている。


***


「……」


***


しばらく、画面を見ていた。


***


何も起きない。


***


「……」


***


そのとき。


***


画面の一番下が、わずかに動いた。


***


「……」


***


スクロールしていないのに。


***


下に、ほんの少しだけ伸びる。


***


「……」


***


指が、勝手に画面を触る。


***


ゆっくりと、下に動かす。


***


空白だった場所。


***


そこに、もう一行。


***


「……」


***


増えている。


***


さっきは、なかった。


***


確実に、なかった。


***


表示された新しい一文。


***


——いま、部屋にいる。


***


「……」


***


息が、止まる。


***


画面から目が離せない。


***


「……」


***


さっきの出来事。


***


いまの状況。


***


そのまま、書かれている。


***


「……」


***


ゆっくりと、顔を上げる。


***


部屋の中。


***


何も変わらない。


***


机。


***


ベッド。


***


壁。


***


「……」


***


もう一度、画面を見る。


***


——今日は、帰りが少し遅かった。

——いま、部屋にいる。


***


「……」


***


喉が、ひりつく。


***


「……なんだこれ」


***


小さく呟く。


***


答えはない。


***


ただ。


***


画面の中に、自分が書いていないはずの文章がある。


***


それだけだ。


***


「……」


***


そのとき。


***


ほんの一瞬だけ。


***


画面の下が、また動いた。


***


「……」


***


新しい一文が、表示される。


***


「……」


***


——いま、見ている。


***


「……」


***


背中に、冷たいものが走る。

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