第3話「更新」
次の日も、特に変わったことはなかった。
朝起きて、支度をして、仕事に向かう。
いつもと同じ流れ。
昨日のことは、完全に忘れていたわけじゃないけど、強く意識するほどでもなかった。
閲覧数が増えていたことも、今となってはそれほど気になるものではない。
たまたま、そういう日だった。
そう考えれば、それで済む話だと思っていた。
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昼休み、なんとなくスマートフォンを取り出した。
特にやることがあったわけじゃない。
時間を潰すために、無意識に触っていただけだ。
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ふと、小説のページを開く。
これも、いつもの流れだった。
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一覧画面が表示される。
並んでいるタイトル。
変わらない。
その中にある、自分の作品。
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まず、目に入るのは閲覧数だった。
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「……」
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少しだけ、止まる。
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増えている。
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昨日の夜に見た数字よりも、さらに増えている。
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「……まあ」
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小さく息を吐く。
ここまでは、予想通りだ。
昨日の流れを考えれば、今日も多少は増えていてもおかしくない。
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問題は、その下だった。
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最終更新日時。
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「……」
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表示されている日付に、違和感があった。
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今日の日付になっている。
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「……は?」
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思わず、声が出そうになる。
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更新なんてしていない。
昨日も、今日も、何も触っていないはずだ。
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「……」
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見間違いかと思って、画面をよく見る。
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日付は変わらない。
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今日になっている。
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「……」
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一度、ページを閉じる。
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そして、もう一度開く。
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表示は同じだった。
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「……なんで」
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小さく呟く。
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頭の中で、いくつか理由を考える。
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表示の不具合。
キャッシュの問題。
アプリのバグ。
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それらしい言葉はいくつも浮かぶ。
どれも、あり得ない話ではない。
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「……まあ、そういうのか」
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無理やり納得する。
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実際、こういうことはたまにある。
表示がおかしくなることくらい、珍しくもない。
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それで終わりにするつもりだった。
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でも、少しだけ気になって、作品ページを開いた。
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本文が表示される。
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一話目。
二話目。
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スクロールする。
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どこも変わっていない。
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見覚えのある文章。
書いた記憶もある。
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「……だよな」
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小さく安心する。
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内容は変わっていない。
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更新されているわけじゃない。
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ただ、表示がおかしいだけ。
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そう思うことにする。
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一覧に戻る。
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最終更新日時。
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やっぱり、今日の日付。
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その下に、小さく表示されている時刻。
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「……」
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さっき見たときよりも、新しい時間になっている。
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「……」
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指が止まる。
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今、この瞬間に更新されたみたいな表示。
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「……いや」
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そんなはずはない。
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さっきから、ずっと見ている。
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何もしていない。
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「……」
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画面を、指で引き下げる。
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更新する。
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表示が再読み込みされる。
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「……」
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変わらない。
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時刻は、そのまま。
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「……」
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もう一度、更新する。
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「……」
***
変わらない。
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「……気のせいか」
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そう呟いて、スマートフォンを置こうとした。
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そのとき。
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ほんの一瞬だけ。
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時刻が、変わった。
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「……」
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数秒前、から。
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——たった今、に。
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「……」
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呼吸が、少しだけ浅くなる。
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「……」
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画面を見つめる。
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何もしていない。
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触っていない。
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それでも、表示だけが変わる。
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「……」
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もう一度、更新する。
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今度は、変わらない。
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「……」
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しばらく、そのまま見ていた。
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何も起きない。
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ただ、時間だけが進んでいる。
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「……」
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やっぱり、気のせいかもしれない。
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そう思うことにする。
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それ以上考えるのをやめて、画面を閉じた。
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午後の仕事に戻る。
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でも、少しだけ引っかかるものが残る。
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「……」
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更新していないのに、更新されている。
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本文は変わっていない。
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それなのに、時間だけが動いている。
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「……」
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帰り道、またページを開いた。
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一覧画面。
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恋愛小説。
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最終更新日時。
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「……」
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今日の日付。
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その下の時刻。
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「……」
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——数秒前。
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「……」
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画面を閉じる。
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何も言わずに、スマートフォンをポケットにしまう。
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「……」
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理由は、考えなかった。
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考えたくなかったのかもしれない。




