第2話「確認」
投稿してから、少しだけ時間が経った。
特に何かが変わるわけでもないと思っていた。
これまでと同じように、誰にも気づかれないまま、ゆっくり埋もれていくものだと思っていた。
実際、投稿した直後は何も起きなかった。
それが普通だ。
これまでも、ずっとそうだった。
***
翌日の朝、なんとなく気になってページを開いた。
特に理由はない。
強いて言えば、いつもの習慣の延長みたいなものだ。
数字を確認する。
増えているかどうかを見る。
それだけだ。
***
表示された数字を見て、少しだけ手が止まった。
閲覧数が、増えている。
ほんの少しだけ。
一桁分くらいの増加だった。
珍しいことではない。
ホラーを書いたときは、たまにこういうことがある。
時間差で少しだけ伸びることもある。
だから、そのときは特に気にしなかった。
「まあ、こんなものか」と思っただけだ。
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仕事に向かう準備をしながら、もう一度だけ確認する。
変わっていない。
当たり前だ。
そんな短時間で増えることはない。
スマートフォンの画面を閉じる。
それで終わるはずだった。
***
その日の仕事は、いつも通りだった。
特別なことは何もない。
アポイントの調整をして、資料を作って、取引先に連絡をして、説明をして、数字を確認する。
多少のトラブルはあったけど、珍しいものではない。
よくある範囲の出来事だ。
気づけば夕方になっていて、いつも通り帰る準備をしていた。
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帰りの電車の中で、またページを開いた。
これも特に理由はない。
なんとなく、というだけだ。
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閲覧数が、また増えていた。
朝よりも、さらに増えている。
二桁分くらい。
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「……」
思わず、画面を見たまま止まる。
増えていること自体は、おかしくない。
問題は、その増え方だった。
今までの作品で、ここまでのペースで増えたことはなかった。
ホラーでも、せいぜいゆっくり増える程度だったはずだ。
一気に伸びるようなことは、ほとんどなかった。
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一度、ページを閉じる。
そして、もう一度開く。
数字は変わらない。
当たり前だ。
表示の不具合ではない。
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少しだけ、考える。
どこかで紹介されたのかもしれない。
SNSとか、掲示板とか。
そういう場所で話題になれば、急に閲覧数が増えることもあると聞いたことがある。
自分の作品がそうなるとは思っていなかったけど、可能性としてはゼロではない。
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それなら、それでいい。
むしろ、いいことのはずだ。
誰かに読まれている、ということになる。
最初に望んでいたことだ。
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「……」
そう思っているのに、少しだけ違和感が残る。
理由は分からない。
ただ、素直に喜べない何かがある。
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家に帰ってからも、何度か確認した。
そのたびに、少しずつ数字が増えている。
ゆっくりではない。
かといって、爆発的でもない。
一定のペースで、確実に増えていく。
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気のせいかもしれないけど、増え方に“間”があるように感じた。
時間を置いて、まとまって増える。
また少し止まって、同じくらい増える。
それが繰り返されているように見える。
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「……まあ、いいか」
結局、そう結論づける。
気にしすぎても仕方がない。
増えているなら、それでいい。
減っているわけではない。
悪いことではないはずだ。
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そのまま、特に何もせずに過ごした。
夕食を取って、風呂に入って、少しだけ時間を潰してから、寝る準備をする。
いつもと変わらない流れだ。
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布団に入る前に、もう一度だけ確認する。
これも習慣みたいなものだ。
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閲覧数は、また増えていた。
さっきよりも、少しだけ。
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画面を閉じる。
今度は、開き直さなかった。
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暗い部屋の中で、少しだけ考える。
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「……誰が読んでるんだろうな」
小さく、声に出す。
返事はない。
当たり前だ。
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そのまま、目を閉じる。
眠気はすぐに来た。
疲れていたのかもしれない。
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意識が落ちる直前、ふと思う。
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コメントは、一つも増えていない。
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読まれているはずなのに。
***
「……まあ、いいか」
そう思って、そのまま眠った。




