第30話 クリスの手痛い誤算
「暇ねぇ」
「本当に」
クリスはオープンしたばかりのティーサロンでテーブルで頬杖をついている。
「せっかく、こんなにおしゃれなサロンになったのに。誰も来てくれないというのはどういうこと?」
「それは・・・まだ、知っている人が少ないですから。そのうち連日満席になりますよ」
この執事、適当なことをのは天才的ね。
きっと、何も考えずに言っているに違いない。
「クララ、ノーラ。あなたたちは客引きをしてきなさい」
「客引きって、何をするんですか?」
「魔物の森の入口で待っていて、森に入ろうとしている冒険者をこっちに連れてくるのよ」
「そんなこと、できそうもないのですが」
「何、言ってのよクララ。やってみないと分からないこともあるでしょ」
可愛い制服のまま、ふたりを魔物の森の前に立たせる。
うん。間違いなく目立つ。
きっと、気になってこのサロンにもやってくるに違いない。
「エックハルト。もう少しすれば、お客さんがやってくるわよ」
「そうでしょう。そうでしょう」
しかし、それから3時間ほど待つがやっぱり誰もやってこない。
「あのふたり。ちゃんと客引きしているのかな。エックハルト、見てきてよ」
「わかりました」
そのころ、魔物の森の入口では、こんなことが起きていた。
「おい、なんだ、あそこ」
「カフェ?なはずはないよな」
「そりゃそうだ。魔物の森にそんなものあるはずがない」
「でも、可愛い制服のウエイトレスがふたり、森の入口で待っているぞ」
「ははーん。幻惑系の魔物かなんかだろう。危険を感じる。避けていこう」
ティーサロンからも、ふたりのウエイトレスからも、距離を取って魔物の森に入る。
そんな冒険者が何組も通り過ぎて行った。
「あーあ。また、避けられちゃった。声を掛けても逃げちゃうし。客引きなんて無理よ」
「本当にお嬢様は、変な遊び始めてしまって、困った物ね」
「おーい。クララさん」
「あ、エックハルトさん。どうしました?」
「お客が来なくて、お嬢様がお怒りだ」
「そんなこと言っても」
「とにかく、お客さん連れてこないとヤバイな」
三人で話し合いをして、一番接しやすいと判断されるであろう、エックハルトが冒険者に声を掛けることに。
クララとノーラは隠れてみている。
そんな作戦だ。
「あ、ちょっとそこの皆さん。お話を聞かせていただきたいんですが」
剣士と思われる装備をした4人のパーティに声を掛けた。
「あなたは?」
「私はグデーリアン男爵家の執事をしているエックハルトと申します」
「その執事さんがなぜこんなところに?」
「実は、あそこに男爵のお嬢様がサロンを開きまして」
「あ、あの違和感バリバリの建物ですね」
「そうなんです。遊びに来てくれませんか?」
「これから僕らは、魔物との戦いに行くんです。気合がなくなってしまいますよ。そんなことしていたら」
「あー、ですよね。そうだ。今なら、特別サービスがあるんです」
「どんな?」
執事エックハルトは仕事ができる男であった。
クリスティーサロンのオープンの日の初客は彼が連れてきた4人だったのだ。




