第20話 伯爵子息の導き
今は何も考えずに流れに任せてみよう。
そう思えたのは、なぜだったのだろう?
とにかく、今、ふたりで馬を走らせている。
昨日、出会ったばかりのローランド。
朝、二頭の馬を引いて現れた。
「さぁ、いきましょう」
断ってしまえば、また引きこもりでガチャで遊ぶ毎日が待っている。
特別なことは起きないけど、安定した毎日。
伯爵子息の彼と一緒にいれば、自然と貴族の世界に導かれてしまう。
そこには、嫉妬や陰謀が渦巻く世界。
平穏な毎日は望むことはできまい。
だから、私は、どうせ気まぐれで誘っただけのローランドの誘いに乗る気はなかった。
しかし、私の前に再登場したときのローランドの笑顔にやられてしまった。
数多くの女性を楽しませてきた貴族のごく普通の笑顔だろう。
特別な気持ちなんて、きっとありゃしない。
分かっている。
だけど、笑顔を見てしまうともっと見ていたいと思ってしまう。
そのくらいのイケメンなのは認めている。
「はい」
何、答えているの、私。
ここは断る一手でしょう。
いつも、危険な人からは距離を取ってきた私。
だから、平穏な毎日を過ごすことができた。
自分から危険な場所にいく必要なんてない。
「では」
そう言って、手を差し伸べられてしまうと、その手を無視できない。
「馬、自信ないんですが・・・いいですか?」
「それなら、教えますよ」
前世では、乗馬は体験コースくらいしか乗っていない。
決められたコースを指導員が引く馬に乗るだけ。
まともに乗れるんだろうか。
「なかなか、上手いじゃないですか」
「そんなことはありません」
踊りと一緒で身体が覚えているらしい。
馬と一体になって朝日を浴びて駆け抜けるのは、本当に気持ちいい。
ローランドの背中を見ながら馬を駆る。
時々振り返るローランドの笑顔。
胸の高鳴りを留めることはできない
彼の後を馬で追いかけていると、小高い丘の上に出た。
そこからの眺めが素晴らしい。
小さな街があり、村が点々と存在している。
小麦畑が青々としている。
奥には大きな森がある。
「ここが我がクラインハインツ家領さ」
大きくて広い、豊かな大地。
そこに住まう領民たち。
すべてを統べる領主になる。
その自負を持って彼はここにいる。
男爵令嬢と呼ばれているが、何も引き継ぐものを持たない女の身。
そもそも、男爵領はそれほど広くも豊かでもない
貴族としての格の違いを感じてしまう。
「どう?一緒に治めてみないか?ここを」
「えっ」
本気だろうか。
ただのリップサービスか。
「まだ知り合ったばかりだけど。あなたのことは初めて会った気がしない。ずっと前から知っていたように感じている」
「あ、私も」
昨日から感じていたこと。
彼は前から知っていた人、じゃないか。
まるで幼馴染に再開したような感じ。
ずっと一緒にいた感覚がなぜかある。
ふたりきりでいるのに、それが自然であるかのように。
ふたりの間に言葉は必要なかった。
しかし。
馬を降りて、手を取り合ったふたりを、ギラつく眼でにらんでいる存在がいた。




