第19話 舞踏会の夜に出会った男
水色でコーディネートされた、かわいい馬車が、クラインハインツ伯爵邸に着く。
御者が招待状を見せると、門が開かれ、中庭へと誘導される。
「誰かしら、あの馬車」
すでに舞踏会の会場に到着していた貴族達は、見たこともない馬車について話していた。
「ちょっと子供ぽいわね。だけど、面白い飾り着けしているわ」
「本当に。見たこともない馬車よね」
馬車からひとりの女性が降りてくる。
クリス。
正式には男爵令嬢のクリス・グデーリアン。
トウラゴット・ヨハイム公爵の元婚約者で、今は婚約者も恋人もいない完全フリーのお嬢様だ。
「ずいぶんとおしゃれな格好しているわね」
薄いブルーを基調したドレスに帽子やアクセサリーが見事にコーディネートされている。
「最新ファッションなのかもね、あれ」
「王都で開催された舞踏会でも、見たことがないわ。あのコーディネートは」
クリスのいでたちは、舞踏会に参加している女性の目を引き付けていた。
もちろん、男性。それも若い男性も。
「これは、クリス・グデーリアン様、お待ちしていました」
受付で招待状を手渡すと伯爵家の執事が言う。
「ええっ、男爵令嬢?あーーー。婚約破棄され娘じゃない」
「本当。よくまぁ、こんな所に出てこれたものよね。私だったら恥ずかしくでれないわ」
クリスを見ていた女性達がざわつく。
「よく、来てくれたわね。今日は楽しんでくださいね」
ホスト役のクラインハインツ伯爵夫人のティアナ。
なんか、困った。
妙にいろんな人の注目を浴びてしまったのは分かる。
ガチャでコディネートした衣装と馬車のせいね。
「全然、名前が分からないのよね。まぁ、笑ってごまかそう」
そう思っていると、クリスは伯爵夫人にひとりのおじ様に引き合わされてしまう。
「ほら。ヨハイム公爵も参加しているんですよ。公爵さまぁ~」
あ、いいです。婚約破棄された女なので、呼んでもらわなくても。
クリスを見つけたヨハイム公爵は、嬉しそうに近づいてくる。
「お会いできるのを楽しみにしていました」
「あ、どうも・・・」
なんて対応したらいいのか分からず、適当にごまかしてしまった。
「プレゼントありがとうございました」
「えっ、あー」
「すごい効果です、あれ。まだカツラですがあと一か月したらいらなくなりそうです」
「それは良かったです」
ガチャでプレゼント選びした甲斐がありました。
「そうだ。クラインハインツ伯爵のご子息を紹介しましょう」
「ローラント・クラインハインツです。お見知りおきを」
20歳くらいかな。
ちょっとかわいい感じがする中性的な美形男子ね。
アイドルもできそう。
「クリス・グデーリアンです。お知り合いになれて光栄です」
「一曲、踊っていただけますか」
うわー!そうくるか。
自慢じゃないけど、踊りというものは、前世では小学校のフォークダンスしかやっていないんだぞ。
「ごめんなさい。踊り下手でして」
「大丈夫ですよ。ちゃんと誘導しますから」
えー、無理だって。びっくりするくらい下手なんだから。
ローラントが手を引いてホールの真ん中に誘導する。
そこで踊っていた男女は、すーっと場所を空けて、中央がぽっかり空いた状態になる。
きゃー、やめて。本当に踊れないんだから、そんな目立つようなことはっ。
「それじゃ、お願いします」
生演奏されているクラッシック音楽に合わせてローラントが踊りだす。
私は、合わせて踊る・・・えっ、踊れるの?私?
踊れっこないと思っていたら、身体が勝手に音楽に合わせて動く。
ローラントの誘導も完璧で、映画の一シーンみたい。
踊りって頭で覚える物じゃなくて、身体で覚える物、って本当だったのね。
転生された身体が覚えていて、良かった。
みんなの注目を浴びて3曲踊った私達はふたりで抜け出して、バルコニーにいる。
「ありがとうございます。ローラント様の誘導でうまく踊れました」
「なかなか、綺麗な踊りでしたよ」
「あ、夜風が気持ちいい」
風が吹いて、踊りと注目で熱くなった私の頬を冷やしてくれる。
ローラントは私のことをじっと見ていてくれる。
「そろそろ、戻らないといけませんね」
「大丈夫ですよ。それとも私とふたりでは嫌ですか?」
うわー!なんか、すごいこと言われちゃっている。
だけど、変ね。おっさんくらいしか寄ってこないんじゃないの、私って。
男爵令嬢って、貴族の世界ではそれほど格が上ってことはないわよね。
「クリスさんのことは、ヨハイム公爵から聞いていました。今日会えるのを楽しみにしていたんですよ」
「あ、公爵様が・・・」
婚約破棄の罪滅ぼしかな。
若いイケメンを紹介してくれたってこと?
「あ、そうだ。明日、遠乗りしませんか?」
「皆さんで遠乗りの予定があるんですね」
「いや。君とふたりで行きたいんです」
「えー」
あちゃ。気持ちがそのまま言葉になってしまった。
貴族らしくないっ。
ほら、ローラントが笑ってる。
「クリスさんは面白い方ですね」
「そ、そう、ですか?」
さすがに、これ以上一緒にいると中身が庶民だとばれちゃいそう。
逃げちゃおう。
「考えておきますわね。他にも挨拶しておきたい人もいるので、この辺で失礼します」
答えを聞かずにさっさと歩きだした。
あー、心臓に悪い。
ホールにもどって、なんか食べてよう。
おいしそうな物いろいろありそう。
この夜は、それ以上何も起きずに更けていった。




