第二十九話 令嬢、招待される
その日、昼食後の小休止を自室で行い、次の予定まで畑で遊ぼうと思い立ったタリア。
そのままの格好で突撃しようとした所をアティに羽交い締めにされた。そして姿見鏡の前に連れて行かれ、強制的に着替えさせられた。汚れても構わない、それでいて令嬢として最低限の品格を保った動きやすい格好だ。通常、貴族の服は大体が個別での注文仕立てであり、タリアのそれも例に漏れない。しかし、タリアの服の要望には汚れても目立たない、腕周りが重すぎない、枝に引っかかるようなヒラヒラした部分を極力減らすなど、一般的な貴族服からは程遠いものばかりだ。むろん、普通の外行きの服も注文するのだが、割合としては半々といったところだ。
着替え終わり、最後にアティが乱れた髪を梳かす。少し前まで肩口で揃えられていた青髪が、肩甲骨のあたりまで伸びている。
「そろそろ髪を切ってもらおうかな。湯浴みとか、畑で作業する時とか結構気になるんだよね」
「私は髪を伸ばしたタリア様も似合うと思います」
グランドール家の女性陣でイリスとアネッサは髪が長く、タリアだけが短い。平民は仕事や洗う手間を惜しんで短くする女性が多いが、貴族では見栄えを重視して伸ばしている割合が高い。中には髪を梳かす専用の従者を側に置く女性貴族もいる程だ。寝起きに整える時間が勿体無いと考えるタリアには、全く理解できない気持ちだ。
タリアは目の前の鏡に映る自分の姿に、髪を伸ばした様子を想像する。今まで伸ばしたことはないので、違和感しか感じなかった。
「うーん、そうかな? 自分では今までが丁度良いと思うんだけど」
「そんなことありません。アネッサ様のようにお淑やかで気品あふれる立派な女性に見えますよ」
「ふむふむ、照れるね。で、本音は?」
「少しでも動きづらい格好で大人しくして欲しいです」
「……外ではお淑やかだもん」
「自室でもそうして頂けると助かるのですが」
アティの歯に衣着せぬ言葉に頬を膨らませるタリア。もちろん、本気でスネている訳ではない。アティも単にからかっているだけだ。
やがて髪を整え終えたアティが、タリアの頭を軽く触り終わりを告げた。
「はい、終わりました」
「じゃあ、早速行こうか!」
足早に扉に向うタリアと、その後を仕方ないとため息を付きながら追うアティ。タリアは扉の前まで行くと、自分では開けずにアティが来るのを待つ。扉の向こう側は他の者が行き来しており、誰の目があるか不明だ。従者がいるのに令嬢自ら扉を開けて出て来る光景は眉を潜められてしまう。
視線で急かすタリアを横目にアティがドアノブに手をかけた時。タイミングを見計らったように、反対側から誰かが扉を叩いた。
「どうされましたか?」
そのまま扉を開けるアティ。扉を叩いたのはアティと同じメイド服の女性で、即座に開いた扉に驚いていた。タリアは相手の従者に見え覚えはあるが、名前までは思い出せなかった。
「タリア様、ハルバート様がお呼びです」
「お父様が? なんでしょうか」
軽く心当たりを探るが思い当たらない。ハルバートがタリアに用がある場合は夕食後に時間を設けるのだが、突然昼過ぎに使いを寄越して、なおかつ即座に呼び寄せるなど、それなりに急ぎの用事と思われた。
考えても仕方がないので、取り敢えずタリアは素直に向うことにした。畑は惜しいが、逃げることはない。
「それでは、直ぐに行きますね」
外モードで丁寧な口調と雰囲気のタリアに、呼びに来た女従者が言い辛そうにしながらも伝えた。
「タリア様、もう少し格好を整えられた方が宜しいかと」
「これから散歩をしようと思いまして。お父様はこれ位の格好でしたらお許し頂けますよ?」
「いえ、ハルバート様の他に王都から使者の方もお目見えになっております」
「使者ですか?」
「はい、タリア様に伝えたい事があると。それでハルバート様がタリア様をお呼びになられました」
聞かされた内容に嫌な予感がするタリア。今まで自分への使者など来たことはない。タリアへの連絡は必ずハルバートを通して行われていたので、貴族間での力関係や政治的観点に影響が出るような案件は全て遮断されていた。事前連絡がない使者など、来訪の知らせすらタリアの耳に入ることはなかった。しかし、今回は違う。突然の訪問にも関わらず、ハルバートが認めてタリアを呼び出しているのだ。
「では、準備しますので、ハルバート様には直ぐに向かう旨をお知らせ下さい」
「分かりました」
固まったタリアの代わりに、アティが女従者に伝える。彼女は一礼すると足早に去っていった。
「さて、すぐにお着替えを致しましょう」
扉を閉めて宣言するアティ。途端にダッシュで逃走するタリア。しかし、予想していたアティは直ぐに回り込んでタリアの首根っこを捕まえた。そのまま強制的に姿見鏡の前に再度持っていかれるタリア。
「は、離して!」
「駄目です。さぁ、時間がないので大人しくしてください」
「い、嫌だぁ。私はこのまま畑に行くんだ! 何か嫌な予感がして仕方がない! きっと素直に行ったら後悔するから!」
「はいはい、脱がしますよ」
「やめてぇー」
タリアは悲惨な声を上げながらバタバタと暴れるが、慣れた手付きで次々と装着品を外していくアティ。あっという間に下着姿にされ、そのまま正装に着替えさせられてしまう。動きにくく装飾品が多い服だ。タリアとしては実用性がない服である。
「く、首が凝りそう」
「大丈夫です。可愛らしいですよ」
「可愛いよりも、動き良いが重要だよ」
スカートを手にしてヒラヒラと遊ぶタリア。外だと見る者が仰天するだろうが、今はタリアの自室なので問題ない。アティは眉を潜めたが、今は時間を惜しんだ。
「あー、嫌だ嫌だ」
「何故それ程嫌がるのですか?」
タリア位の社交デビュー前の少年少女ならば、自分への使者が尋ねてきたなどと聞かされれば、期待に胸を膨らませる。普通なら成人前の人間に使者が来ることなどあり得ないからだ。騎士への勧誘か、王家主催の茶会への誘いか、それとも王族との縁談か。将来の輝かしい光景に夢見るものだ。
しかし、無駄に現実的な令嬢であるタリアは、そんな妄想は一欠片も持ち合わせていない。
「私って、一応魔族の撃退に成功したじゃない?」
「そうですね」
正確には撃退した主要人物の一人であり、いずれもアティを筆頭に護衛の面々がいなければ無理であった。
「それって凄いよね?」
「公になれば人類史に残る功績ですね」
国民が恐怖と混乱に陥り、経済や治安に悪影響を与えるので情報規制が掛かっているが、王族や一部貴族には魔族出現と撃退の報は届いている。公になる可能性は低いが、それでも裏の国史には残る快挙だ。
「なら、コッソリと褒められたり、お礼されたりしない?」
「そうですね、それは十分考えられます」
大々的に功績を称えることはできなくても密かに使者を送り、功績の内容は濁して謝辞を送る位はするだろう。公にできないことを理由に、完全に放置して功労者に不信感を抱かせるほど王族は無能ではない。
「きっと、お礼を贈呈するーとか。感謝の言葉を伝えるーとか。何か堅苦しいことだよきっと。お礼なら美味しいものが良いのに、お金とか宝石でしょ? 感謝の言葉ではお腹は膨れないよ」
使者から言葉を聞き、品を受け取って終わりとは思えない。その後は雑談や、共に夕食などまでがセットとなる筈だ。どう考えても畑に行く時間は確保できそうにない。
「しかし、無下にすることはできません」
それはタリアも十分理解している。ハルバートが話を通した時点で決定事項だ。もしタリアが使者を無下にすれば、ハルバートの顔に泥を塗ることと同義だ。これまでの言葉は完全に愚痴である。
「だよね。はーあ、仕方がない。頑張って笑顔でお出迎えするよ」
タリアは鏡の中の自分に向かって営業スマイルを浮かべた。
◆
ハルバートの執務室。身なりを整え、アティを引き連れて訪れたタリア。そんな彼女を待っていたのはハルバートだけではなかった。イリスとウィルネス、そしてアネッサも同席している。さらには使者と思わしき仕立ての良い格好をした高齢の男性と、執事長、侍女長、料理長、警備長、庭師長など屋敷の各部門の長達とかなりの人数だ。通常、屋敷の責任者が集まる会議はもっと広い部屋で行うのだが、それが全員ハルバートの部屋に入っているので圧迫感が凄い。
当初、入室してその光景に驚いたタリアだが、直ぐにその意図を理解した。通常、使者を遣わすほどの功績を上げた場合、対外的な意味を込めて大々的に祝福する。他貴族へ自分の家の功績を宣伝したり、領地の民へ治めている貴族の偉大さを知らしめるのだ。しかし、タリアが関わった件は公には伏せられることが決まっているので、それは出来ない。かと言って、数人で細々と終えてしまうのは王家と公爵家にしては寂しい。そのため、家族に加えて信頼できて口の固い事が分かっている屋敷の各部門長が集められたのだろう。
「タリア・グランドール殿。この度、国王より汝にお礼状を預かってまいりました」
「有難うございます。非常に光栄でございます」
貴族として学んだマナーを思い出しながら、使者との会話を続けるタリア。そのまま形式的な流れとなっていく。前口上を終えた使者は取り出した礼状を読み上げる。流石に詳細はうまい具合に伏せられており、王がタリアに感謝している事だけが分かる内容だった。その間、受け取るタリアは頭を垂れて言葉が終わるまで待つ。使者が話していても、これは王が話している事と同じなのだ。
手紙にして数枚程のお礼が終わると、ようやく頭を上げることができた。
「これからも国や王家のために頑張ってもらいたい」
「微力ながらも精進いたします」
丁寧に折り畳まれた手紙を受け取るタリア。途端、黙って見守っていた面々が拍手を始めた。見知った者達からの祝福にタリアは言い知れぬくすぐったさを感じた。
「ああ、それと。こちらが王との面会に関して記した招待状です。紛失すると大変ですので、大事にお持ち下さい」
「えっ? 招待状、ですか?」
「ええ。この度、タリア嬢のご活躍を王は大層お喜びになられております。つきましては、一度会って話をしたいと招待状を送られたのです」
予想外の展開にタリアは完全に固まった。王と面会となれば秘密裏だろうが公だろうが、それなりに色々と手間がかかる。当然、タリア側ではなく王側の話だ。そんな手間を掛けてまで一人の令嬢を自分の膝下まで呼び出すとは思わなかった。精々呼び出されるとしても、違和感のないハルバートだとも思っていた。完全に予想が外れた。
タリア以外の面々は驚きと、さらなる祝福の言葉を投げてくる。だが、招待された本人は喜びよりも戸惑いが大きい。外モードを維持するのに精神を消耗するのに、王と嬉し楽しい会話など考えただけでも胃が痛くなる。絶対にお断りしたい。
しかし、現実的には断ることが出来ないのはタリアも良く理解している。公爵令嬢とはいえ、それよりも上の者からの言葉に抗うのは困難だ。
タリアは王都に出向く際の工程を想像する。屋敷を出発し、王都に到着。恐らくは直ぐに面会とはならない。王都にある別宅で時間を潰すこととなる。別宅の庭はこの屋敷ほどの面積はない。畑を作ることができるだろうか? タリアのコネクションがほぼ存在しない王都で、畑を作るだけの人手や機材が手に入るか考える。
結論、無理だ。
「とても光栄です。しかし、つい先日姉が倒れたばかりでして、そんな姉を置いて私だけ王との面会は非常に心苦しく思います」
喜びの表情を浮かべてから、顔を伏せて視線を下げる。傍から見れば自分よりも姉の身を心配する心優しい少女に見えるだろう。
むろん、タリアはアネッサの病気が回復していると確信している。だが、周囲の人間からすれば奇跡の回復を成し遂げたアネッサは、いつ再び床に伏せても不思議ではないと思っている。人情に厚いと聞く国王ならば、家族を想う歳幼き少女の願いを無下にはするまい。
そんな下心満載の考えを胸に秘めているタリア。それを察知しているのは背後の従者位だろう。
しかし、そんなタリアの目論見は当のアネッサ自身によって粉砕された。
「タリア、あなたの功績が認められたのよ? 堂々と胸を張って行きなさい」
「お姉様……」
「それに、本当はもう少し先に話そうかと思ったのだけど。お父様、宜しいですか?」
「ああ、構わない」
まるで小さな悪戯を成功させたように笑うアネッサ。今まで長い闘病生活で影を落としていた彼女が見せる明るい表情に、それまでを知る者の胸が詰まる。アネッサは一歩一歩タリアに近づき、視線が同じ高さになるように腰を落とした。
「つい先日、お医者様から完治のお言葉を頂いたの。まだ日常生活を送るのに慣らしている最中だけど、もう少ししたら王都にある学園に行っても良いとお父様とお母様から許可をもらえたわ」
「えっ!?」
驚き、目前のアネッサをマジマジと見るタリア。アネッサは静かに肯定するように頷いた。
十六歳のアネッサは本来ならば王都にある学園に通っている年齢だ。貴族の子供ならほぼ例外なく通っており、数年間の学園生活で一定水準の教育と他家との将来を見据えた関係を構築する。アネッサは生来の病から困難と判断されて屋敷で療養していたのだ。
その病気が完治したとなれば、学園に通うことになっても不思議ではない。むしろ、今まで狭い世界しか知らなかったアネッサが、より広い世界を望むのは自然な成り行きだといえる。
「だから、もう少しだけ待って頂戴。直ぐに元気になって、一緒に王都に行きましょう? 私も王都は少し不安だけどタリアと一緒なら頑張れるから」
「お姉様。私の事よりもお姉様のお体を優先して下さい。無理をされてはお体に毒です」
「ありがとう。でも、大丈夫。私もタリアみたいに頑張って、今まで迷惑をかけた分以上に一杯頼ってもらうから」
「お姉様……」
アネッサの言葉に素直に感動するタリア。色々と小賢しい思考をしていたタリアだが、アネッサが元気になって望むことに挑戦するのは大賛成だ。最後の別れの言葉を伝えてきたアネッサの姿を見ていただけに、こみ上げてくるものがある。
タリアは涙を浮かべ、目の前の姉の胸に飛び込む。まだ平均よりも痩せているが、少しずつ健康的な体つきを取り戻しつつあるアネッサの体は温かく、とても安心できる香りに包まれた。
ひしと抱きしめ合う二人に、もらい泣きをする屋敷の面々。侍女長などは一際大泣きしており、両隣の料理長と警備長を慌てさせている。
そして、事情を深くは知らない筈の使者も二人の姿に心打たれたようで、うんうんと頷いている。
「王には私からお伝えしましょう。いやぁ、美しい姉妹愛を見せて頂きました。王もきっと感動して了承いただけるでしょう。タリア嬢は姉君の準備が整い次第、王都にお越し下さい」
理解の良い使者にタリアは感謝しつつも素直には喜べない。アネッサが元気になったのは嬉しい、アネッサが学園で学ぶのは応援したい。しかし、自分と王の面会は望ましくない。一体どうしたら良いのか。
タリアは感動とは別の意味でも涙を流しそうだった。
◆
「なんてこった」
お礼状と招待状を受け取り、幾つかハルバートと使者が決め事を終えて解散となった。
タリアが王都へ向うのはアネッサの体調と準備が整った後と正式に決まった。あまりに期間が長い場合は再調整するようで、定期的に連絡を取り合ってくれるようだ。その辺りの調整はハルバートの役割であり、アネッサは焦ること無く回復に専念することとなる。その間、タリアは今まで通りの、少し働いて沢山遊ぶ生活を続けられるのだが当然納得はしていない。タリアとしては、ようやく安定したこの生活を何年も――可能ならば生涯続けていきたいと思っていた。
「なんてこった」
自室に戻り、ベットに突っ伏して同じセリフを吐くほどタリアは困っている。
王との面会など数時間で終わる筈だ。しかし、その前準備や後処理などを含めれば数週間は王都で拘束されるだろう。下手すれば月単位である。
畑がない、食事も普通よりも少し上。そんな環境下でタリアが元気に生息するのは困難だ。毎日水やりが必要な草花を、いきなり砂漠地帯に植えるようなものだ。確実に干からびる。
干からびるのが嫌なタリアは、公爵家の名を落とさずに全てが丸く収まる方法を考える。
「いっそ、お姉様をこちらに引き込んでしまおうか。適度に仕事して一杯遊ぶ楽しみをお姉さまが知れば、きっと協力して王都へ行くのを先延ばしにしてくれる筈」
「アネッサ様を悪の道に引き込まないで下さい。それに、先延ばしにしても個別に呼び出されるだけですよ」
「うがー」
悪あがきをするタリアを、冷たい目で見守るアティ。
今回は運良く即日出発は回避することができたが、それは使者から温情を引き出せたからだ。万が一王が延期を認めなければ即日タリアのみで王都へ出発することとなる。
「ぬおー、なんとか、なんとか良い方法を考えないと! くぅー、こんな時の予知夢なのに全然眠くならない!」
「昨日はいつも通り、睡眠を十分にお取りになられましたからね」
具体的には十時間ほど眠っていたタリア。加えて、精神が興奮状態なので一欠片も眠さを感じない。そもそも、まだ昼過ぎで寝るには早い。色々とダメダメな状況だ。
「タリア、今大丈夫?」
「はい、お姉様。何でしょうか?」
ベットの上で手足をバタバタと羽ばたいていたタリアだが、突如アネッサが部屋を尋ねてきた事で瞬時に切り替わった。
乱れていた服装をさり気なく直し、まるでベットのシーツを手直ししていた風を装ってアネッサを迎え入れた。
「あら、タリア。髪が乱れているわね」
「これは……ちょっと、えっと。アティと一緒に部屋のお掃除をしてまして」
「まぁ、自分の部屋を自分で綺麗にするなんて。私も見習わないと」
「え、えへへ」
無垢なアネッサの瞳にタリアの良心が悲鳴を上げる。これ以上削られると何かが折れそうな気配を感じ、タリアはアネッサに訪ねてきた理由を聞いた。
「それで、お姉様は何か御用ですか?」
「ええ、タリアに謝ろうと思って」
「謝る?」
アネッサの言葉に疑問を浮かべるタリア。考えてもアネッサから謝罪を受ける理由が分からない。これまで、アネッサの代わりに色々と令嬢としての責務を果たしてきたのはタリアも望んでいたことだ。家族として、グランドール家の次女として当然と思っている。それを謝ってもらっても正直な所、困ってしまう。
しかし、そんなタリアにアネッサは頷いて続けた。
「ごめんなさい、タリア。貴方は本当は早く王都に行きたいのに、私のために我慢させてしまって」
「いや、本当は行きたくないです。代わりにアティに行ってきて欲しい位です」
「ふふ、そんな冗談を言って」
構えていた所に、アネッサの見当違いな言葉を聞き、思わず本音を漏らしてしまうタリア。だが、アネッサは冗談と判断したようだ。一般的に王との面会など大金を払っても実現することはない。しかし、グランドール家次女のタリアは一般的とはかけ離れていた。
貴族が逃避するような畑仕事に尽力し、令嬢とは思えないゴロ寝しながらお菓子を食べるなど序の口。アティがいるにも関わらず、自室で小さな口で大あくびをするのも日常茶飯事だ。さらには酒癖が致命的に悪い。
「お兄様が屋敷に滞在している間に私が王都に行けるようになれば、三人で一緒に行きましょうね?」
「はい、お姉様。でも無理をしないで下さいね」
「分かってるわ」
心配症ね、とアネッサは微笑んでタリアの頭を撫でる。タリアとしては一年ほど掛けてリハビリをして欲しいのだが、取り敢えずは元気になりつつある姉に撫でられ、上機嫌になって嬉しそうに目を細めた。




