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ろく まどろみ

ココとトゥトゥ。

わたしとパパ――。




 時間が経つごとに、園児たちが次々と降車する。

 ココが住むマルスタウンは、現在地よりも遥かに遠い。


 バスは少ない園児たちを連れ、

 貧民街に入っていた。


 

「どうする?」

「ボクは……」


 揺れる車内は、

 静寂に包まれている。

 

 ココとトゥトゥは先生に聞こえぬよう、

 ひそひそと話していた。


「お父さんどうする?……」

「ぜったいボク達じゃ、歯が立たないよ」

「だれか力になってくれる人がほしいよね」


 その時、ガタン!と車内が揺れる。


「うわぁあ!!」

「ココくんしーっ!わたしちゃんが起きちゃう!」

「うむむ……!!」


 トゥトゥに注意され、慌てて両手で口を塞ぐ。

 幸い、わたしは席で寝ている。


 ココはちらりと、前方へ視線を向けた。


(わたしちゃん……)


 遠目で心配そうにわたしを見つめる。

 幸せそうに眠る彼女の姿は、ココの心がきゅっと締め付けた。


 その隣で、トゥトゥは腕を組み、考える。


(……だれかの力を借りるとか?)


「「……」」


 互いに何も言わぬまま、

 時間だけが溶けていく。

 

 そして、全員が帰路についた――。






 

 


 バスから、一人の少女が降りてきた。


 表情はとても暗く、

 今にも泣きそうな様子だ。


 わたしは青暗い空の下で、

 手に持っている懐中電灯で辺りを照らす。


(ぱぱ……かえってるのかな……?)


 不安になりながらも、家に向かった。

 歩くたびに、どんどん足が重くなっていく。


(……きっといないかも)


 不安に軽い希望をそっと被せると、

 気分が少し楽になった。


 自宅のアパートまでは、あと5分ほどだ。

 わたしは恐怖を紛らわすために、

 鼻歌を歌い始めた。


「ふーんふん ふふーん!」


 すると、後ろから誰かに腕を掴まれる。


「ふーん! ……いやぁああ!!」


 驚いた勢いで振り返ると、

 マッシュヘアの男がいた。


「こんなところにいたんだ。

 ずっと待っていたのに」


 男の姿を見た途端、

 わたしの身体はぴたりと止まる。


「ぱ、ぱぱ……」

「帰ろう、ね?」

 

 わたしは視線を下に向け、歩き出した。

 じんわりと、静かに涙が溢れる。


(ココちゃん……たすけて……)









 家に着くと、母親が出迎えてくれた。


「お帰りなさい。二人とも」

「あぁ、ただいま」

「あら?わたちゃんどうしたの?」


 父親の一歩後ろで下を向いていたわたしは、

 浮かない表情で靴を脱ぎ始めた。


「……なんでもない」


 愛想の無い返事を返すわたし。


 腫れた目を隠すように、

 急いで洗面所に向かう。


「多分疲れたんだよ。幼稚園ってほら、人も多いし」


 スーツ姿の父親が、

 微笑みながらフォローした。


 父親の言葉に納得したのか、

 母親も「そう」と頷く。


「ご飯にしましょうか!」

「うん。楽しみだ」


 父親は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、

 部屋着に着替える。


「明日は土曜日だし、どこかいく?」

「私は用事があるから……」

「ふーん……」


 素っ気ない返事を返す父親の口元には、

 不気味な笑みが浮かんでいた。






 洗面所で、顔を洗うわたしは、

 鏡を見ながら呟いた。


「ココちゃんとあした遊べたらなぁ……」


 特に用事もないので、

 明日は家にいることになる。


 そう思うとまた、心が重く沈んでいく。


「ご飯よーーー!」


 リビングで、母親がわたしを呼ぶ。


 タオルで顔を拭き、

 急いで食卓へ向かう。


「おなかすいたぁーー!」

「さぁ、食べましょう!」


 食卓には、好物のハンバーグが置かれている。

 わたしは自分の椅子に座り、矯正箸を握る。


「よいっしょ……!」

「できた?わたちゃん」

「うん!」


 わたしの返事を合図に、両親は手を合わせる。


「「「 いただきまーす! 」」」


 そして、食事を心ゆくまで堪能したのだった――。












 晩御飯を食べ、風呂に入ったわたしは、 

 部屋のベッドに寝ころんでいた。


「さ!わたちゃんおやすみの時間よ!」


 絵本を読み聞かせしていた母が、

 ぱたんと本を閉じた。


「やだぁ!もっかい!」


 手足をバタつかせ、

 嫌だ嫌だと読み聞かせをねだる。


「ダーメ!おやすみするわよ!」

「はぁい……」


 母親は指でバツを作り、

 ささっと部屋から出て行ってしまった。


「ねたくないもん……」


 拗ねたわたしは毛布を全身に被り、

 うつ伏せのまま目をつむった。

 毛布の温かさに、うとうとし始める。


「あったかぁい……」

 

 暗闇の中で、呼吸がはっきりと響く。

 

 そろそろ眠りにつく直前で、

 何者かに背中を撫でられた。


「ひ、ひゃぁああ!」

「静かに」


 振り返ろうにも力が入らない。

 だが、ある程度予想はついている。


「……ぱぱ?」

「パパですよ」

「なに?」


 突然、父親の声のトーンが下がる。


「……愛の交信だよ」

「あ、い?」


 直後、少女の悲鳴が

 部屋にこだました――。






 

 


 











読んでくださり、ありがとうございます!

感想も頂けて、感無量です……✨


これからもよろしくお願い致します!

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