さん 事件
幼稚園の中、ココがぶつぶつと呟きながら廊下を歩く。
腕を組みながら、うーんと声を漏らす。
「わたしちゃん……パパ……!」
わたしちゃんと別れたココは、彼女を助ける方法を探していた。
そんな中、ココの背後を小さな影が後を追っていた。
彼に気づかれないように、慎重に慎重に歩く。
ココの足音が、ひたひたと廊下に響く。
トイレが見えてきた、その時――
自分ではない誰かの足音が聞こえた。
(ん?だれかぼくをみてる?)
視線を感じ取ったココは、足を止めて振り返る。
だが、見えるのは廊下でじゃれあう園児の姿だけ。
(……あれ?だれもいない)
ココの背中に、ぞわぞわと鳥肌が立つ。
急いでトイレに逃げ込んだ。
(こ、こわいっ!)
「はぁ……はぁ……」
胸に手を当てる。
嫌な汗が頬をつたっていく。
(だれだったんだろう……)
ドアの外にそっと耳を澄ます。
だが、何も聞こえない。
「……もう、いない?」
そっと扉を開けた。ギィ……と蝶番が軋む。
ココは恐る恐る廊下を見た。
外は、誰もいない。
(よかった……)
ココは、ほっと息を吐いた。
さぁ教室へ戻ろうと、歩き出したその時――。
「ねえ」
「うわぁああああ!」
突然、背後から声が聞こえた。
ココの身体が大きく跳ねる。
「だ、だれ!?」
「ボクだよ」
そこにいたのは、クラスメイトのトゥトゥだった。
「……トゥトゥ君!?」
「うん」
「なんでうしろにいたの?」
「……なんとなく」
トゥトゥは、少しだけ目をそらした。
「それより……」
「ん?」
「ココ君、わたしちゃんのこと考えてた?」
「うん!」
ココは嬉しそうに頷いた。
「わたしちゃん、パパのことで困ってるんだ。
だから、ぼくが相談にのっていたんだ!」
「……そっか」
トゥトゥは、小さく呟いた。
「トゥトゥくん?なんて?」
「なんでもないよ」
トゥトゥの曖昧な回答に、
ココが首を傾げた瞬間――。
「おーーーい!!ココーーー!!」
教室の前で、一人の男の子が叫んだ。
ココは声のする方へ、顔を向ける。
「なーーにーー?」
「ココ、おまえププルのとうばんだぜー!」
「あーーーーーっ!」
ココは何かを思い出し、急いで教室の方へ走っていく。
「ごめんねトゥトゥくん!いってくる!」
「……うん」
せわしなく廊下を走るココの後ろ姿を、
トゥトゥは静かに見つめていたのだった。
教室で、クラスメイトが呆れた顔でココを待っていた。
「おせーよ、ココ!」
「ご、ごめんなさい……」
「ププル、おなかすいてるぜ?」
「いまごはんあげるよ!」
ココは棚にある干し草を、ケージに入れる。
ププルはウサギの体に翼が生えた不思議な生物だ。
お腹が空いていたのか、一心不乱で餌をかじっている。
「お!たべてるたべてる!」
「ふふっ!かわいいね!」
ケージ越しに微笑む二人に、ププルがキュウと鳴いた。
ココは丁寧に、干し草を与えていく。
「かわいいな」
「ね!」
「ん? あれ? なんかププルがすくなくない?」
「さんびきだったっけ?」
いつもは四匹いるはずなのに、
ケージの中には三匹しか姿が見えない。
(う、うそでしょ……!?)
慌ててケージを覗くココ。
トゥトゥはその様子を、
教室の外からじっと見つめていた――。




