第27話 また三人で
その夜。
王城の奥まった一室に、灯りがともっていた。
豪奢な調度も、王の間の重苦しさもない。
幼い頃から三人がよく集まっていた、小さな私室だった。
丸い机を囲み、簡素な茶器を前にしているのは――セナ、ルソン、そしてシウォン。
昼間の再会の喧騒が嘘のように、静かな時間が流れていた。
「……城の外は、思ったより広かったわ。危ない目にも遭ったけどね」
セナが湯呑みを両手で包みながら言う。ルソンがそんなセナの言葉に苦笑する。
「姫さまが無鉄砲だからですよ」
「うるさいわね」
軽い言い合い。
それを見つめるシウォンの表情は、穏やかだった。
「でも、楽しかったわ。知らなかったことを、いっぱい見て知れたもの」
セナはそう付け加える。
ルソンも頷く。
「……俺たちがいなくなったあと、城はどうだったんですか?」
その問いに、シウォンは少しだけ視線を落とした。
「父上を、監視していました。セナとルソンがいなくなってから……父上の動きが、あまりにも不自然だった。だから、証拠を集めたんです」
部屋の空気が、わずかに張り詰める。
「そして、戴冠式前夜。――私が、父上を殺しました」
シウォンはそう言い二人を見た。
逃げも隠れもせず、まっすぐに。
その場に静かな沈黙が流れた。
風の音だけが、窓の外で鳴っている。
「私の手で」
繰り返す。
その声に震えはない。
だが、どこか遠くを見ているようだった。
セナが、そっと立ち上がる。
そして、シウォンの背後に回ると、ゆっくりとその背を撫でた。優しく、何度も。
ルソンも、無言で歩み寄る。
ぽん、と。シウォンの頭に手を置いた。
「……一人で、つらい思いをさせてしまいましたね」
低く、悔いるようなルソンの声。
「ごめんね、シウォン」
セナも続ける。
責める色は、どこにもない。
ただ、幼なじみとしての後悔と、労わりだけがあった。シウォンは目を伏せる。
ほんの一瞬、呼吸が乱れた。
けれど、すぐに整え――小さく笑う。
「大丈夫ですよ」
柔らかい声音だった。
「二人が生きていてくれたことが、私は何より嬉しいのですから」
それは本心だった。
王としてではなく、ただのシウォンとしての言葉。
「……そっか」
セナが安堵したように笑う。
「なら、今日は泣かないで済みそうね」
「え、姫さま、泣くつもりだったのか?」
「ちょっとだけ」
三人の間に、くすりと笑いが生まれる。
やがて話題は変わった。
旅先で食べた変わった料理の話。
ルソンが野犬に追いかけられた話。
幼い頃、三人で王城の離れにある塔に登って叱られた思い出。
「覚えてますか? 姫さまが落ちかけて」
「ルソンが大騒ぎしてたわね」
「はぁ、誰のせいですか……」
「でも最後はシウォンが誤魔化してくれたのよ」
「……ああ、あれは大変でした」
他愛もない会話。
王と王女と側近ではなく、
ただの幼なじみとしての時間。
夜は静かに更けていく。
重たい現実も、血に染まった記憶も、
この部屋の中では一度だけ、遠くへ押しやられているようだ。
そして三人は、同じ灯りの下で笑い合っていた。




