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第33扉 麦畑

今日は晴天で日差しが強いわりに、穏やかな風で過ごしやすい気候。

それを生活面でも体現したような日だった。


のしかかる猫の重みで目覚めた男は、ひとつ伸びをし、ベッドから起き上がる。

ここのところは残業が少ないせいか、週末の割には疲れもそれほど感じない。

ダイニングへと向かい、猫と鳥にエサを用意する。

用意し終えたところで鳥が飛んできて、エサをついばんでいた。


通勤途中、日陰を選んで歩いていると、時折吹く風が熱気を攫っていく。

汗をかかずに会社に辿り着いた。


自分の席に着き、仕事を進めていると、隣課の上司が大きな声で取り巻きと話しながら近づいてきた。

男がまたか…と心で呟いたとき、穏やかさで定評のある役員がまるで首根っこを掴むように、その上司を別室へと連れて行った。


終始穏やかに仕事ができたので、定時で帰り支度をしていると、自課の上司と同僚が声を掛けてきた。

何故か機嫌の良い上司は、飲みに行かない?と、男を誘ってきた。

断る理由を見出せない男は誘いを受け、女性の上司と同僚という、社内でも人気のある二人について行く。

まだ会社に残って仕事をしていた男性陣からは、じとっとした嫉妬の目で見られたが、敢えて無視して会社を出た。


連れられてきた先は、前に何度か来たことがあるイタリア料理の店だった。

大きな声で愛想のいい女将さんが出迎える、家庭的な雰囲気の店だ。

会話に多少の愚痴を混ぜ込みながらも、穏やかな雰囲気で酒と食事が進んだ。

店を出て、二人から二軒目に行こうという誘いを丁重にお断りした男は、コンビニに寄ってから家路に就いた。


翌日。


カーテンから漏れ出る日差しで目を覚ました男は、上半身を起こしてそっと猫を膝の上から降ろす。

伸びをしてからベッドを出ると、ダイニングへと向かった。

ダイニングでエサの用意をしていると、猫も後からやってきて、鳴き声でエサを催促した。

猫と鳥のエサを盛り、昨日買った朝食を冷蔵庫から取り出して食べていると、鳥もダイニングに顔を出してエサをついばんだ。


男は朝食を食べ終わると、出掛ける用意をし始めた。

いつものリュックサックに道具一式が入っていることを確認してから、食べ物や飲み物、タオルや着替えなども詰め込んだ。

それを担ぎ、扉へと向かった。


今日は簡素な木造りの扉だった。


木の角材で外側と十字の戸枠が作られており、ベニヤ板のような戸板がはめられている。

取っ手は半月状の鉄製で、その取っ手には南京錠がぶら下がっていたが、鍵はかかっていなかった。

男はその取っ手を軽く握り、扉を開いた。


開けた途端、乾いていて澄んだ空気が扉から流れ込んでくる。

目の前には眩しい日差しと、辺り一面黄金色に輝く畑が広がっていた。

扉をくぐり、一歩踏み出すと、じゃりっと小石が擦れて鳴り、畑の合間の道だと分かる。

わずかながら甘い、そんな香りが風に乗って運ばれてきた。


その広がった金色の絨毯のような畑を分けて、一本の農道が正面に続いている。

時折、空を舞っているヒバリを眺めながら、男はその道をゆっくりと歩いて行く。


しばらく歩いて行くと、遠くに見えていた柏の木の下に辿り着いた。

木陰と風の心地よさに立ち止まる男。

少し腰掛けるには丁度いいぐらいに張り出した木の根に座り、ひと息ついた。

いつの間にか額に滲んでいた汗を、リュックサックから取り出したタオルで拭く。

風で揺れた木の葉が、サァーっと音を奏でた。

タオルを仕舞い、飲み物のペットボトルを取り出すと、キャップをひねって開け、一口飲む。

ペットボトルから口を離して、ふぅ…とため息をついた。


黄金色と青色のコントラストを眺めながら、ぼーっと過ごす。

少し時間が経ったところで小腹が空き、リュックサックから取り出したおにぎりを頬張った。

もうひとつ食べようと袋を開けたところで、手元が狂い、おにぎりを落としてしまった。

足元から転がって、思ったよりも遠ざかっていくおにぎり。

それを見つけたトンビが、上空から急降下し、取り去っていった。


ポカンとした顔でそれを見送る男。

そんなこともあるんだな…と、おぼろげに考えていた。

気を取り直して腰を上げると、空になった包装や容器を拾い、リュックサックに詰め込む。

伸びをして、リュックサックを背負うと、家の扉の方へ歩き始めた。


帰り道もゆったりと歩いていると、ところどころで蝶が舞い、一組の野ウサギが目の前を横切った。

特にトラブルもなく家の扉の前に辿り着く男。


視線を感じ、振り返ると、先程の野ウサギたちが道の真ん中でこちらを見ていた。

男はしばらく野ウサギを見つめていたが、視線を切り、家の扉をくぐる。


…そして、意識を失った。


男が意識を取り戻すと、玄関のたたきに足を降ろし、式台の上に座っていた。

靴を脱ぎ、ダイニングに入ると、猫が椅子の上でくつろいでいる。

時計を見ると、まだ正午過ぎ。


自室に戻ってリュックサックを無造作に床へ置くと、コロンと薄汚れた何かが転がり出てきた。

拾って汚れをティッシュペーパーで拭き取る。

汚れから顔を出したのは、鮮やかなオリーブグリーンの石だった。


男はそれを机の上に置くと、手を洗おうと洗面所に向かった。

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