表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/27

第22扉 雪山

今日は晴れやかな日だった。


昨日は定時で帰れたせいか、朝の寝起きも早く目覚めて清々しい。

ゆっくりと起き上がると、ダイニングへと向かい、猫と鳥のエサを用意した。


祝日で会社が休みだったので、コンビニへ朝食を買いに行くついでに散歩をする。

日の光は強くないが差しており、風も穏やかで心地よい。


家に戻ってエサ皿を覗くと、手がついていない。

まだ寝ている様だ。


ダイニングで買ってきた朝食を食べていると、もそもそと猫が歩いてきてエサを食べ始めた。

それに続いて鳥もやってきて、エサをつつく。

それを見届けながら朝食を済ますと、立ち上がり、溜まっている洗濯や掃除などの家事に向かった。


家事、猫や鳥との戯れ、近くの公園に行ってぼーっとSNSなどを見ていると、いつの間にか夕方に。

たまには外食にするか…と思い、出掛けることにした。


着いた先は前に来たことがあるイタリア料理の店。

アットホームな雰囲気で、男が気に入った店だった。

中に入ると店主と女将さんが出迎えてくれる。

娘さんは休みの様でいなかった。


六席並んだカウンターの一番手前に腰を掛ける。

イザックという瓶ビールとつまみになる様なオリーブ酢漬けやチーズを注文すると、男はほっと一息ついた。


その後もイタリアビールや食事を楽しみ、ゆっくりしていると上司に鉢合わせしてしまった。

まあ、上司が常連客として贔屓にしている店なので、会う確率は高いだろうが。

仕事後ではないので、穏やかに話が出来て、距離感も適度だ。

注文が落ち着いたらしい女将さんが話に入ったりしてきて、それなりに楽しい会話だった。


そして、家に戻ると出掛ける前に用意したエサは空になっていた。

満足したらしい猫はいつもの寝床で寝ていて、目をちらりと開けたが、男を確認すると態勢を変えて寝にいった。

鳥はいつもの場所におらず、どこにいるか分からない。


特に気にしていない男は、風呂場へと向かった。



そして、翌日。

三連休の真ん中だが、土曜日だ。


目が覚めると、鳥が男の身体の上に佇んでいた。

身体を起こすと鳥は肩に乗ってきたが、そのままダイニングに向かう。

エサを用意すると、飛び降りてエサをつついていた。

それを横目に猫のエサも用意し、自分の朝食の用意にも手を掛けた。


朝食を済ませた後、扉に向かう準備へと取り掛かる。

着替えを済ませた後にリュックサックを取り出して、中身をチェックする。

いつもの道具一式が入っていることを確認すると、そこにタオルや着替え、そして、飲み物や食べ物を詰め込む。

男はそれを背負って、扉へと向かった。


今日の扉は不思議な雰囲気だった。

扉板が一面ガラスの様であったが、見通せる程の透明度がなく、あちらこちらに気泡の様な物が入っている。

ところどころ、白い霜の様な物も見て取れた。


取っ手に視線を移すと、木の枝で凹状に造られた簡素な物だ。

これを引っ張って壊れないよな?と思いつつも手をかけ、扉を開いた。



冷たく強烈な風が扉の先から舞い込んでくる。

思わず肩がすくみ、両腕をさすった。

視線の先の寒そうな景色に、男は行くか少し迷ったが、結局は行くことに決めて、扉をくぐった。


目の前に広がるのは一面銀世界。

足を踏み込んだ地面は、ぐぐぐっという音と共に少し沈むが五センチ程で止まり、立つことに問題はなかった。

ちらほらと見える針葉樹は雪がかぶさり、枝が少ししなっている。


男が振り向くと、猫が家の扉から走りこんできた。

猫は男の周りを一周すると、寒すぎたのか、猛烈な勢いで家の扉へと駆け込んでいった。

そこでふと、不思議な光景を目にする。

走って行った猫が、家の廊下の途中で急に消えたのだ。

いや、でも…と、考える。

が、見間違いかと確認する術もない男は、思考を放棄して前に進むことにした。

そもそも、この扉が不思議そのものなのだ。


空は曇天模様で風が吹き、綺麗でもあり怖くもある白銀の世界を進む。

道は登り坂になっており、切れ切れに白い息を吐きながら進んでいくと、木々の様相が変わっていく。

積もっていた雪が進むにつれ、木々に張り付き、そして樹氷原となって表れていく。


幻想的な光景ではあるが、それ以上に凍り付く寒さが身に染みる。

リュックサックからタオルを取り出し、首回りを覆っても、それ以上の寒さが男を取り囲む。

身体を温めるためにも歩を進めると、寒い風をしのげそうな洞窟を見つけた。


飛び込む様に入ろうとしたところで、男はふと漫画やアニメから得た知識を思い出す。

そこで、近くにあった石を拾い、投げ入れて音を確認した。

石が跳ねた音だけが響き、静寂が訪れる。

洞窟の前までたどり着くと、リュックサックから着火トーチを取り出して火を灯す。

火の揺れが少なく、浅い箇所は大丈夫そうだ。


そして、男は洞窟に入り、シートを敷いて腰を掛けた。

ふぅ…とため息をついて、リュックサックから飲み物を取り出す。

冷たい飲み物だが、喉を潤しておいた方がいいだろう。


静かだと思っていた洞窟内からピチャーン、ピチャーン…と、音が聞こえてきた。

落ち着いたことで、小さな音まで見逃さなくなったのだろう。

暗さに慣れた目で奥の方を見ると、下りになっている様だ。


探検しがいがある洞窟だな…と考えたが、待てよ?と思いとどまる。

洞窟の奥に入るための装備がない、ライトもヘルメットも。

男は諦め、休憩だけすることにした。


外に見える粉雪が風に舞ってキラキラと光り、幻想的な景色を作り出している。

それをぼーっと見ていると、雪道を歩いて火照った身体も徐々に冷えてきた。


よし、行くか!と、奮い立たせて洞窟を出る男。

外は風は吹いているが、雲間から光が差しており、先程よりはマシな寒さになっていた。


そして、雪道を辿って降りていく。

幻想的な光景は家への扉の前に着いても、変わらず静寂を貫いていた。


男は扉をくぐる前にふと、後ろに振り向く。

そこにはうさぎが二匹、見送る様に佇んでいた。


それを見て、男はバイバイと手を振り、扉をくぐった。

あれ?そういえば、あのうさぎ、額に赤く光る物があった様な…と考えつつ、意識を失った。



目が覚めて意識を取り戻すと、男はベッドの角に腰を掛けていた。

部屋を見回したが、猫も鳥もいない。


立ち上がり、ダイニングに向かうと猫も鳥もエサを食べていた。

そこで気になり、時計に視線を移すと、まだ1時間も経っていない。

そのことに驚いたが、どうすることも出来ない男は昼食の準備へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ