表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

第21扉 Bar

今日は落ち着いた日だった。


昨日は早めに就寝できたせいか、起きるのにも問題がなかった。

猫と鳥にエサを用意し、自分もゆっくりと朝食を摂る。

平日にも関わらず、いつもの通勤電車は満員ではなく余裕があった。


会社に来て席に着いたが、トラブル報告もなく、淡々と仕事が進む。

昼には先輩に少し絡まれたが、許容範囲内だ。

進捗は予定通りとは行かず、少し残業でカバーしたが、問題ない範囲で退社できた。


スーパーマーケットが開いている時間だったため、寄って缶ビールや酒の肴、猫と鳥にご褒美用の少し良いエサを買う。

家に到着し、玄関の扉を開けたら、猫と鳥が男にすり寄ってきた。

梱包で匂いは分からない筈なんだが…なぜだ?

雰囲気を察しでもしたのだろうか。


買い置きした食材を冷蔵庫に押し込みつつ、猫と鳥にエサを与えると喜んで食べている。

男はレジ袋から缶ビールを取り出し、プルトップを引いて缶を開けた。

プシュッと炭酸ガスが抜ける音と共にホップの芳香が男の鼻をくすぐる。

男は立ったまま缶を呷り、容量の半分ほどを一気に飲み干した。


飲んでひと息つくと、買ってきた晩酌用の惣菜をテーブルに並べ、椅子に座る。

並べた惣菜のひとつ、小松菜の胡麻和えを食べていると、鳥は男へと寄っていき、肩に乗って右肩から左肩、更にその反対と往復しつつ飛び跳ねている。

猫はもうここでの用事はないとばかりに、ダイニングを出て行った。


男が晩酌を終えて立ち上がると、鳥は違う部屋へと飛んで行った。

そして、男は疲れを癒すため、風呂へと向かった。


そして、翌日。

今日は土曜日。


思ったよりも疲れが溜まっていたらしく、目が覚めたのは正午過ぎだった。

エサを督促しても起きないことに諦めたのか、猫が掛け布団の上で寝ていた。

道理で重い筈だ。


猫をどかしつつ起き上がると、猫も目が覚めてダイニングに向かって行った。

男もダイニングへと向かい、猫と鳥にエサを与える。

そして、自分用として冷蔵庫から冷凍食品を取り出し、電子レンジで温めた。

それを食べながら、今日はどうするか?と考える。


食べ終わった後、行くだけ行ってみるか…と、結論を出して準備に向かった。

リュックサックを取り出して、中身を確認する。

いつもの入れっぱなしの道具一式が入っていることを確かめると、タオルや着替え、飲み物を詰め込む。

時間的に食べ物は不要だろう。

準備が整ったリュックサックを背負い、扉へと向かった。


今日の扉は重厚な雰囲気を感じる。

楢の木らしい扉板は暗めのニスが塗られ、木目が美しい。

その扉板の中央部には盾と鷲らしい彫刻があった。

取っ手と鍵穴の部分は金色の金属で、意匠も凝らされている。


男はぐっと心を引き締めて取っ手を掴み、扉を開いた。


ふわっと落ち着いた木の香りが流れてくる。

その香りには少しアルコールの匂いも混ざっていた。


扉をくぐり、足を踏み入れると、目の前には一枚板の木で造られた大きなカウンターがあり、丸椅子が並んでいた。

カウンターの先に視線を移すと大きな棚が並んでおり、そこには色々な形のグラスと酒瓶が並んでいる。

それらの酒瓶はラベルが貼ってあるものの、それが何かを示す文字は入っていなかった。


それに少し違和感を感じつつも歩みを進め、カウンターの前に立つと、丸椅子のひとつを引いて座る。

行儀は悪いが、カウンターの中を覗き込む。

バースプーン、シェイカー、メジャーカップ、ミキシンググラスなどのバー用品が、バーマットの上に整然と並んでいたが、使用した形跡は見られなかった。

一方で流し台などを見ると、水垢の様な跡があり、使っていることが窺えた。


客席側に視線を移すと、奥には四人掛けのテーブルとソファーが二セットある。

壁際には草原を描いた風景画と、花瓶に一輪のダークレッドの薔薇が飾ってあった。


男は正面に向き直り、ふぅ…とため息をつく。

改めて正面を見ると、棚と棚の間に柱があり、そこにこの場所を象徴するであろう鷲の絵が飾ってあった。


そこで、ふと男は思う。

この世界では、自分だけが取り残された様な気分を感じた。

落ち着くと祭りの後に感じる寂寥感だけが残る。

店員もいないし、ここに居てもしょうがないな…と考えた男は席を立ち、家への扉に向かう。


扉の前に立った男は、振り返ることなく扉をくぐろうとした。

そこで一瞬、背筋が凍った気がする。

その威圧感はカウンターの絵から感じた様な気がしたが、確認せずに立ち去ろうと足を止めず、扉をくぐった。


そして、男は気を失った。



男は気づくと、自室のベッドに仰向けで寝転がっていた。

窓に視線を移すと、空が茜色に染まっており、遠くの方でひとつ、星が輝いている。

目覚まし時計を確認すると、17時の半ばを過ぎていた。


こんな時間か…とぼんやりした思考を現実に引き戻し、猫と鳥にエサを与えるため、ダイニングへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ