第17扉 村
今日は一日中会議でまったく身動きが取れない日だった。
前日の就寝が遅かったために朝は慌ただしく、なんとか猫と鳥にエサを用意してから、遅刻ギリギリの電車で会社に向かった。
元から予定にあった午前中の会議とは別に、午後にも急な会議が入ったため、自分の仕事が進まない。
若干の苛立ちを覚えながらも心を落ち着かせ、残業で仕事をこなす。
泊まりにはならなかったが、終電間際で退社して駅まで走り、電車へと転がり込む。
へとへとになりながらも、家にたどり着いた。
玄関で寝る様に倒れ込んだところで、猫と鳥がエサをくれと出迎える。
這う這うの体でエサを用意し、そのふらふらの足で自室へ向かい、ベッドに倒れこんだ。
翌日。
服がしわだらけ、頭もぼさぼさ…そんな状態で目覚める男。
仕方ないな…と、風呂に向かう。
シャワーを浴びてさっぱりしたところで、今日は土曜日だったと気づく男。
猫と鳥にエサを与え、着替えてからコンビニへと買い物に行った。
朝食用のおにぎりに加えて、外出用のサンドイッチ、ペットボトルのお茶などを買い込む。
家に戻るとダイニングの椅子の上で猫が丸くなって寝ていた。
お湯を沸かし、インスタントの味噌汁のカップに注ぐ。
朝食を食べるために猫を退かし、椅子に座ると猫が膝の上に乗っかってきた。
猫を退かすことを諦め、朝食を摂る男。
ズズズッ…と味噌汁を啜る音がダイニングに響いた。
男が食べ終わると同時に、猫は膝から降りる。
ふぅとひと息ついた男はリュックサックを用意し、中身を確認してから買ってきた飲食物と着替え、タオルを詰め込んだ。
用意し終えた男は扉へと向かう。
今日の扉は両開きで木造りのスイングドア。
木枠と木盤が組み合わされたそれは、凝った意匠がなくて簡素な作りであったが、上下に隙間がなくて先を窺えない。
左右両側の扉枠は太く、まるで丸太一本をそのまま使用している様だ。
男はそれを押して、扉を開いた。
思ったよりも扉は軽く、押した勢いそのままに開く。
そうすると、先の方から一陣の風が舞い込んできた。
それを追う様に木々や花の香りが流れ込んでくる。
目の前に広がったのは、公園の様な広場だった。
中央には木で作られた簡素な舞台があり、四方に踏み固められた道が続いている。
扉をくぐって辺りを見回すと、ログハウスの様な建物がちらほらと建っており、道端には所々に花壇が飾ってあった。
遠くの方には花畑や麦畑も広がっている様だ。
花の香りに誘われた男は広場を抜け、花畑へと歩みを進める。
男はのんびりと散歩をする様に進んでいき、何度か建物の前を通るが、人の気配はない。
放し飼いされている風に見える犬や野良猫、牧草地の様な場所にいる馬や牛たちが遊んでいたり、のんびりと寛いでいるだけだ。
心地良い風が時折吹き、畑に近づくに連れて花の香りが男を包んでいく。
花畑に到着すると、色とりどりの花や一本の立派な大樹が出迎える。
大樹から漏れ出る木漏れ日と風に揺れる葉の音は、まるで男を歓迎しているかに思えた。
男はリュックサックを下ろすと飲み物を取り出し、その大樹の袂でごろんと横になる。
視線を花畑の方へと移すと、三匹のうさぎが戯れながら目の前を通り過ぎていった。
暖かな日差しと穏やかな風が眠気を誘う。
男は昨日の疲れもあり、眠気に抗えずに夢路へと旅立っていった。
ハッと男は気づいた。
まだお天道様は高くに輝いており、時間が然程は経過していないことが分かる。
小腹が空いた男は起き上がり、リュックサックからサンドイッチを取り出して頬張る。
傍らにあった飲み物でそれを流し込んだ。
足がすこし痺れたな…と感じ、視線を足元に移すと野良猫が丸まって気持ち良さそうに寝ていた。
視線を前に移すと、先程のうさぎだろうか?三匹が固まってじっと座っている。
そして、真ん中のうさぎはウトウトしていた。
男は伸びをする。
寝ていた野良猫はぎょろりと視線をこちらに向け、ゆっくり起き上がると伸びをした後にゆったりした歩調で立ち去った。
自分もそろそろ帰るか…と立ち上がる男。
広場にある扉へと歩みを進める。
花畑を出ようとしたところで、スッと目の前を鳥が過ぎっていった。
遠くに見えたそれは、ツバメの様な鳥だった。
男は広場までたどり着いたが、帰りでも人と顔を合わせることがなく、住んでいる気配も感じない。
最初から人の様式がない作りであれば納得も出来るのだが、そうではないことに奇妙さを感じている。
それでももう来ることはないからいいか…と考えを置き去りにして、帰ることを選ぶ男。
扉をくぐる前に振り返ると、野良猫や犬、そしてうさぎも並んでこちらを見つめていた。
それをまるで送別で見送りしている様に感じた男は、バイバイと一度手を振ってから扉に向き直ってくぐった。
そして、男は気を失った。
気付くと男は自室のベッドで寝ていた。
しかも、布団をかぶって。
その布団の上には猫が丸くなって寝ている。
更にその猫の上に、鳥が乗って毛繕いしていた。
男が上半身を起こすと、猫と鳥は逃げる様に離れる。
ふと視線を時計に向けると、16時を過ぎていた。
男は欠伸と伸びをしてから、立ち上がる。
今日は外で食事をするか…と、準備に向かった。




