03_62 忙しい日常
今日も今日とて、マギーは忙しく立ち働いていた。
2週間のうち、4~5日はズールでの行商を行い、4日ほどは保安官助手として勤務する。それも、ひどく安い日当で!
残りの2、3日は、日雇い仕事で稼いでいた。収入としてはそれほどでもないが、下町の渡り人や自由労働者たちと顔を合わせて働き、地区や近隣の噂に耳を通すことは色々と役に立つのだ。立つのだが、最近は忙しさにかまけて身体を休める日を増やしていた。
タスクが多岐に渡り、しかも、各々で必要とされる技能や態度が変わってくる為、気持ちが追い付かない。
それでも、この半月で農村地帯の治安状況は、随分と改善された。あの後『リザード・ロック』強盗団が、やはりマクロード副保安官によって銃撃戦の末に大半が射殺、逮捕され、さらについ先刻。もう一つの、なんとか……言う連中が、賞金稼ぎたちによって捕縛された。
『赤西瓜』強盗団は、尻に帆を掛けて別の土地へと逃げ出した痕跡が残っており、農村の大手強盗団は『フォルテッシモ』ひとつを残すのみとなった。とは言え、強盗団以外にも、対処すべき問題は多々、残っているのだが。
馬泥棒、家畜泥棒、戦場跡荒らし(我が軍の死傷者の装備まで盗もうとする!)、畑泥棒と偽札騒ぎに何処からか流入する阿片に覚醒剤、密造酒に市民街区の盗難事件。子供も行方不明になっているし、資材の調達も必要だ。
老朽化した下層地区のバリケードを修復しなければ屍者や変異獣が忍び込むかも知れないが、倉庫を修繕しなければ、麦の収容量は落ちたままで、両方とも喫緊の課題であった。
特に古くから対立する二つの名家は、保安官たちにとって頭の痛い問題だった。
小競り合いで複数名の負傷者が出たし、市内の用心棒やら浮浪傭兵、腕の立つ牧者で、まともな連中と見做される層にも声を掛けようとするので、先んじて関わらないように警告して回らなければならない。予備兵力としても犯罪抑止としても貴重なリソースになり得る層を、馬鹿な小競り合いなどに消費されてはたまらない。
破落戸や不良傭兵、無宿人に声を掛ければいいものを、好き好んで契約を重んじる真面な連中を引きずり込もうとしやがると、市の参事たちも苦々しい顔を隠し切れない。契約を守り、命令に従う、戦力として使いやすい流れ者は、何時も限られている。公共が最も欲しい人材から一定数を奪われ続ける状況は、或いは、強盗団以上の害悪かもしれない。
ロミオもジュリエットもいないモンタギュー家とキャピュレット家だ。
マギーはポレシャ市に移住した当初は平凡な渡り人で、雇われ斥候から元賞金稼ぎと前歴が割れた頃には、既に保安官の徒党と見做されていたので幸い、関わり合うことはなかった。
とは言え、マギーも最初に保安官組らと仲良くなっていなかったら、二つの農場主たちの争いによく分からないうちに取り込まれてたかもしれない。
かなり強引に保安官助手に誘われた理由も、今なら分からんでもない。なんと言っても保安官助手になってからさえ、図々しくも両者の手先が声を掛けてきたのだ。
牧者衆や常備傭兵、銃士組にも声を掛けられた者は少なくない。どういう神経だ、と両家の正気を疑わざるを得ない。
かつてはポレシャ市と助け合っていた郊外の有力農場主だが、今は市の力が圧倒的になってきている。それでも切り捨てるのは躊躇われるようだ。
「時期尚早かね?」とマギーが尋ねれば「後、二世代か、三世代。その頃には、別のもっと真っ当な市内の勢力が育っているだろう。今は、過渡期、と見定めて辛抱するしかないか」と、参事の爺さんは苦々しい表情で呟いていた。
いずれにせよ一朝一夕には片付かない課題だが、意地の悪い名家に比べれば農村の強盗団は、脅威として分かりやすい。
『リザード・ロック』討伐にはマギーも参加して、かなり自腹を切った。五発か、それくらいの金属薬莢弾を百都市通貨かそれくらい出して購入し、撃ちまくった。何人かには当てたと思うが、受け取った日当は三十地区通貨。今は、それでいい。
不当とも思わなかった。
弾薬代の持ち出しの代わりに、治療の手筈や軍用ヘルメット、指揮権など正規の市民兵とほぼ同じ扱いを受けて、作戦を立てる時点で呼ばれている。
保安官からすれば便利な駒な筈だろう。いるだけで烏合の衆を多少は纏めて、自腹でも弾を買ってそこそこ奮戦してくれる。だから多分、切られない筈だ。少なくとも互いに利益がある間は。
マギーの年収は恐らく、一万都市通貨近くに達していた。ポレシャ市で麦を仕入れて自由都市で売り、ポレシャ市を相手に都市で仕入れた資材や物資を売って稼いでいる。だから、相互に利益の有る立場を維持する為、ポレシャ市の役に立つ振舞いを見せ続ける必要があると考えていたし、正規市民と同じ扱いをしてくれるなら、他の部分で割に合うのだ。
少なくとも、木っ端の賞金稼ぎのように数百だの数十だのの経費で血眼になる必要はなかった。
日当を受け取りに役所に顔を出したマギーだが、先刻から、受付の前でごねた賞金稼ぎが居座っていた。費やした弾薬代を経費と認定して支払いを望んでいるようだ。金額は十二都市クレジット。労働者の半日から一日分ほどの賃金だから、小さな金額ではないが。
戦塵に塗れ、頬の傷に血を滴らせている男女が真剣な表情で、「なんで認められないんだ。あっちは……」別の賞金稼ぎの一団を指差し、抗議していた。
「だから、別動隊の相手をしたと言われても……」受付担当の役人が首を振って書類を示した。
「此方の同行した軍監が戦果を確認していません」役人の繰り返す言葉に、賞金稼ぎの男女は、消え入りそうな声でぶつぶつと呟いている。
「ええと、軍監……貴族領だと、紋章官かな。戦果を見届ける役割です。せめて報告してから行動してもらえれば」と役人が説明するが、後の祭りだ。
「頼むよ」と粘るが、農村や隊商の依頼ではない。小規模組織の会計担当と、曲がりなりにも統治機構の末端と交渉するのでは、勝手が違うと言うものだ。
元の同業者が、数十人も集まれば、幾つかは知った顔もあった。
件の男女も、何処で見たか。場所も名前も思い出せないにしろ、相も変わらず根無し草の傭兵稼業を続けているらしい。
会ったのは随分、昔だ。若い頃は颯爽としていたが、流石に草臥れていた。
歳を取れば俊敏性も衰えるし、思うように身体も動かなくなる。マギーにしても、二十代の半ばを過ぎて疲労が出る時がある。
二人は、マギーより随分と年長の筈だ。暫く粘っていた二人だが、漸くに諦めたようだ。外へと向かう。
多分、マギーはそれなりに上手くいっていて、嫉妬は、人間にとってもっとも厄介な感情の一つだ。或いは、素直に祝福してくれるかもしれないが、賭けをする必要もない。だから、通り過ぎる二人と顔を合わせないように、マギーは柱の物陰にそれとなく身を隠した。
マギーもいずれは年老いる。反応が鈍り、思考さえも衰える日が来る。
いつか見た、都の映画館で見たマカロニウェスタンを思い出す。名優リー・ヴァン・クリーフとジュリアーノ・ジェンマだったか。
老いつつあるガンマンが終の住処として目を付けた町を牛耳る話は。
ポレシャはそんな容易い町ではないし、善良な町の人々に害を為したいとも思わないが、年老いる前に農場の一つも持ちたいものだとマギーは皮算用していた。
※※※※
強盗団の装備と言えば、弓、クロスボウから原始的なアーキバス銃。それに火縄銃から燧石銃が大半を占めている。
それでも農村の自警団やら特に小さな農場や集落、部落にとって十数人の武装集団は脅威であるけれども、よく訓練された市民軍であれば、それほど苦労なく掃討できる相手でもあった。
ならず者の烏合の衆の集まりであるから、時には、雷管式の後込め式ライフルにリボルバー。ショットガン。もしかしたら、金属薬莢弾の拳銃を持っている者もいるが、概して弾薬数はそれほど多くないし、対するポレシャは、斥候を上手く使う二十人近い後込め式ライフルの市民軍。
それも斥候や偵察兵随行。前衛に威力射撃要員と側面に射撃要員(狙撃手や選抜射手と言うほどの力量はないが、一般的なライフルの射手で、ならず者相手の発砲に躊躇いが無い者が選ばれる)、観測要員を分ける程度だが、機能を分散して連携を取る小隊相手に太刀打ちできるような装備や練度ではない。
鉄の分厚い盾を掲げた荷車もあれば、補給も随行している。なにより、市民軍は不利になったら、応援も呼べるし、撃ちまくりながら退却して後日、何時でも装備と人数を整えてやって来れる。元気いっぱいの新手の市民軍を、強盗団は減った弾薬と負傷者込みで撃退しなければならない。詰みである。
強盗団なんぞに下っ端で入るのは馬鹿だとマギーは思っているが、中には他に行き場がない者もいただろう。『ママ・ディアナ』のところにいた子供たちは、いまだに頭目を懐かしんで涙を流すそうだ。この子供たちの取り扱いを如何するべきか、市内でも意見が割れている。
怪物に脅かされる南の開拓地や東の砂漠近くの流刑地に送るのは躊躇われるが、かと言ってポレシャ市だって犯罪者に近しい立場の子供たちを引き取るだけの心理的な余裕はなかった。経済的な余裕に関しては、孤児院も普通に善良な渡り人や自由労働者の血縁だけで手一杯だ。優先するべきは、市の為に働いていた労働者層の子供たちであるべきだし、それさえ相当の負担なのだ。
回答の一つに奴隷制がある。異民族や異教徒を連行して大規模農園などで強制労働させる奴隷制ではなく、貧困層の最後の拠り所としての奴隷制だ。
しかし、ポレシャ市は奴隷制を忌んでいた。誰がどう線引きするのか。受け入れたとして、運用した当代の人々は、やむを得ない仕儀と理解するとしても、生まれた時から奴隷制に馴染んだ次代の価値観は変化するのではないか?
よくある話だが、短期的な合理性が、時間経過で長期的な腐敗をもたらすかもしれない。では、自由都市に売り飛ばすのか?それでは奴隷商人となにが違うのか。
かと言って、市民や正規居住者たちの家庭は、同じ階層の孤児たちの面倒を引き受けている。商人や職人、職工。店舗や工房の徒弟の口は、市の下層の少年少女にとって出世や職業訓練の貴重な経路であり、機会でもある。限られたパイを分けることも出来ない。
農村の人々が引き取りたい、と希望していると言う話が出た時、だから、反対するものは余りいなかった。子供たちが逃げ出してきた農村の人間が。土地によっては、農奴は財産を持てず、生殺与奪を許された奴隷制もあった。
それでもポレシャ市は、この提案に傾きかけた。扱いが面倒な子供らを元々、出てきた土地に帰すべきではないか。
多分に余りいい扱いは受けないだろうが、少なくとも食べていくことは出来るし、代案が出せない以上、次善の提案でも仕方ないのではないか。
そんな空気が流れていたのも已む無い事だろう。まずは、身内からなのだ。そして渡り人や自由労働者でも、真っ当に市に奉仕するのであれば、報いるだけでもポレシャは間違いなく、善政が敷かれている土地であった。
牧者衆などは不安そうな顔をしている。既にして、羊の数に対して人手が余っている。仕事を奪われるのではないかと銃を持って集まっていたので、かなり早めに警告を出し、同時にあり得ないと説明を行い、誤解を解くために牧者の代表を二、三人。会議の傍聴に招いた。
子供たちをどう扱うべきか。喧々諤々の会議の最中、疲労から欠伸をしたり、居眠りする参事や保安官、士官や下士官も少なくない。怠惰ではない。皆、兼業だったり、連日を忙しく立ち働いている。マギーも欠伸をかみ殺していた。
「サグレーの町が引き受けてくれるそうだ」発言したのはマクロード副保安官だった。手紙でやり取りし、厳しいがまともな扱いを受けられる修道会付きの孤児院に渡りを付けたそうだ。「将来的には作男か、小屋住農だろうが……」とマクロード副保安官は説明した。
それでも、戸籍を貰えて食べていける。運が良ければ農奴か、小作人になれる者もいるかも知れない。サグレーの農奴は財産権を持ってるし、小作人も自由身分ではある。他所の大半の土地や流れ者よりは幾分か上等だった。
雑貨屋の爺さんが手紙を取り出すと、毛髪の薄い頭を掻きながら発言を求めた。
ツァリオ市の孤児院なら空きはあるだろうが、あすこもいい加減に不安定。交易で成り立ってるツァリオだから、大半は商会や隊商の丁稚小僧から、生涯を徒弟か、召使、人夫で過ごすことになる。
鞭打たれない分、自由都市の奴隷や召使いよりはマシだろうが。
そうして、子供たち自身に選ばせることになった。サグレーの修道会付き孤児院か、ツァリオの商人が出資している孤児院。或いは、自由都市での生活。そして農村部への帰還。
望む者が多いとも思えなかったが、南や東、北の流刑地や開拓地に付いて行ってもいい。そこには子供らの面倒を見てきた大人たちが流される筈だった。
※※※※
ようやくに会議が終わったので、町の食堂で仲間たちと顔を合わせる。議事堂にほど近い市民街区の広場に面した食堂。ニナ。ジーナ・Eと一緒に食事をしていた。ココとトリスも一緒に来ている。
レストランではなく、古の西部劇風の食料品店兼食堂として、清潔で広い店内には今日も市民や正規居住者、流れの職工、町外れの渡り人、自由労働者たちと、幅広い客層が席を埋めていた。
窓の外、広場には小さな屋台が幾つか並び、焼き立てのパンに肉と野菜を挟んだものや肉団子のスープ、粥などが適宜な値で売られている。
果物や野菜を荷車で運んできて売り込む農民たちが声を張り上げ、香辛料の香りを含んだ湯気が食欲を刺激した。
近くでは鋳掛屋が壊れた鍋を槌で直しており、興味を持った少年が座って見物していた。空き地に設置された遊具には、幼子たちが群がって遊び、老人たちが見守っている。
買い物袋を抱えた人々が世間話に興じ、防壁の上では見張りの常備傭兵が欠伸をかみ殺していた。外壁沿いには小さな店舗が軒を連ね、木製の看板が夏の風に揺れている。石のベンチで休む人々や、荷馬車で荷を運ぶ商人の姿も見える。日差しは穏やかで、石畳の道に柔らかな光と影の迷彩を作り出していた。
よしよし、一杯食え。マギーは、ココを膝にのせて猫可愛がりする。何時か死ぬとしても、誰かの記憶に残るなら、優しい自分でありたいです。
下級役人としての仕事にも疲れる。行商人と兼業で、保安官助手として現場にもでる。ココはチョコレートアイスで口をべたべたに汚していたが、最近まで似たようなスプーン遣いだったトリスが他の大人と同じように上手くなってるのを見て、手を止め、ゆっくりと食べ始めた。
口を拭いてやると、食べる手を止め、大人しくしている。ココの猫耳が痙攣する。緊張しているが落ち着いている。最近は取られたりしないと理解したようだ。
ココはすぐに腹一杯になり、眠りに落ちた。腕の中で寝息を立ててるココの頭に鼻を埋める。くすぐったそうに身じろぎするも逃げる様子はない。安心している。大分、慣れたな、とマギーは観察している。完全に心を許すまで、もう少しだろう。
ココの心の中で、今、属しているセフ衆とマギーのどちらの比重が重くなってきているだろうか。
ココは可愛い子なので、マギーは侍らせたい。ただし、それはココの自由意思により、かつ双方が幸せにならないと意味がない。
セフ衆の扱いは余り良いようには見えない。マギーのものにならなくてもよいが、ココはもう少し、幸せになってもいい。あとは、隣人のリリーの為、お土産のクリームパイを注文する。安いもので労働者の日当の3割くらいはするが、偶にはいい。偶には。リリーは感謝する事を知ってる人間だ。
ポレシャ市全域で食事の値段は、それほど変わらない。勿論、場所代や食器代、人件費はあって市民街区は高いし、町外れは安いが、極端な違いはなく、精々が倍ほどに収まっている。
何処でも質が高ければ高く、粥や焼いた芋なら安い。と言うか、まともな食事を安定して出せる食堂が市民街区と門前町以外にはかなり少ない。
中町は狭い区画の為、他所者には入りずらく、町外れ地区は、まあ、粥を出す店くらいは見つかるが、まともな店は他所者には分かりづらい。
ずっと高騰していた肉類。特に羊肉と鶏肉の値段は大分、落ち着きつつある。
羊と山羊は草食、かつ増やすのに容易いので、市の抱えてる牧草地に適切な数まで増えれば、また出回り始めるだろう。
豚は今少し手間暇が掛かる。牛は数十年は無理だろう。
兎も角、下層民も巨大鼠や小動物以外の肉を口に出来るようになってきてる。
窓際のテーブル席で和やかに食事を取っていると、見覚えのある人影が目の前を過った。獣脂と汗、土埃の混じった匂いが遅れて届いた。賞金稼ぎの一団。
店内の会話が僅かに声量が落ち、やり取りが減った。ほんの少しだけ。
値段が比較的に落ち着いていると、こういうデメリットも生じる。薄汚れた余所者が少数なら兎も角、団体で入り込んでくると食事が不味くなる。
己の頭を過った思考と不快感に、マギーは自制を働かせた。
他所の土地で嫌な目に遭ったこともあれば、相手も市の為に働いてくれた功労者でもある。差別しかねない立場においても、されるかもしれない立場でも、過剰な反応は慎むべきだろう。
「……マルグリットか。久しぶりだな」話しかけてきた。中年に差し掛かりかけた男女の浮浪傭兵二人組だ。
「やあ」とマギーは頷いた。見れば、子供を連れている。二人、性別も分からない格好だが、正しいだろう。性別で狙いを定める変態性欲者や人狩りに狙われにくくなる。
「いい町だな」浮浪傭兵たちは言いつつ、マギーの身だしなみに視線を走らせてから「今は此処に?」と尋ねてきた。
「暮らしている」マギーの短い返答に「そうか」と言葉に詰まったように返答した。
歓迎されてない、とは感じただろう。構わない。
マギーとしても、暮らしにあまり突っ込まれたくないので「そちらは?」と言葉を向けると「こっちは相も変わらずの浮き草暮らしさ」と苦笑を浮かべた。
それから「俺たちもこんな町で暮らしたいもんだ」と言った。
「無理だよ」とは言わず、マギーは曖昧に笑った。
浮浪傭兵の一家が立ち去るまで、マギーの同席者は礼儀正しく、或いは冷たく沈黙を守った。誰も紹介もせず、話しかけもしなかった。昔の知り合いである放浪民に対して、定住民の地位を手に入れつつある身としては、冷たいが正しい反応だな、とマギーは考える。
「……昔の知り合い?」ニナが用心深そうな口調で尋ねて来た。
「さて、誰だったかな」マギーは呟いた。それなりに腕は立つ。名家に取り込まれなければいいが。と冷たい紅茶を含みながら、背中を見送った。
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_07月下旬 9265 都市通貨




