03_60H 双子の丘の戦いⅠ
ポレシャ勢が布陣した岩場の背後に双子の丘陵が聳え立っている。盆地に対して手前側、北に面した丘陵の稜線から一発のライフルが発射される。
単調な、長い発砲音。変化は劇的、かつ一瞬だった。瞬間、それを皮切りに百丁近いライフルが一斉に発射された。戦場に流れと言うものが存在するならば、それが書き換えられた瞬間を誰もが目にした。
実際には、五十丁から六十丁程度だったかも知れない。伏兵だったポレシャ市民軍のうちには、慎重に狙いを定めた市民もいれば、無音の重グレイン・エアライフルを持ち込んだ者。短射程の散弾銃なので出番を待っている者。銃や火薬の手入れを怠っており、遅発や不発を起こしたものもいたからだ。弾薬が貴重な時代、富裕な市民であっても盲撃ちはせず、一発一発を慎重に撃つ癖があった。敵も反撃してくれば、手持ちの弾薬にも限りがある。ゆえに銃に弾を込めてからも、すぐには身を乗り出さず、岩陰に身を潜めながら、機を見計らって素早く狙いを定め、発砲しては身を伏せるのを繰り返している。初陣にはしゃいで撃ち過ぎたり、目立ちそうな若者は、身を伏せている年長者らに厳しく注意されている。
それでも盆地全体に轟音が響き渡り、【王】の兵団の前衛は一瞬でなぎ倒された。実数として、倒れたのは十人足らずだっただろうが、岩場に突撃寸前だった散兵たちが足を止めるには充分すぎる衝撃であり、しかも、ポレシャ市民軍は、延々と狙い打ちしてくる。ポレシャ市民たちや正規居住者、常備の傭兵や雇われ牧者の所有するライフルは、かなりの割合が金属薬莢や紙薬莢を用いる後込め式ライフルに占められており、仮に前装式ライフルであっても、ライフリングが施されていたり、加えてミニエー弾を用いる高価な燧石式や歯輪式であるか、全く珍しい、雷管式マスケットライフルであったりした。
黄昏の時代においても産業技術や知識自体は一定の水準が保たれている。銃身を作る鋼材の質やバネの均質化、銃身や歯車の加工精度、表面処理などは、田舎町の職人でさえ発明当時よりも遥かに高水準であり、だから修理して維持しやすく、十五、六世紀の雛形よりも精度はかなり高かった。前装式ライフルが好まれる所以である。
ポレシャの市民層は少なからず射撃訓練を受けている。銃の精度は高く、持ち込んだ弾薬の数も一人頭十発やそこらではない。加えて、近隣からは若干の牧場主や自由農民、牧者衆や猟師らのうちから、手練たちが志願兵として加わっていた。高所からもっとも命中率の良い伏射姿勢を取り、遮るものの無い眼下の敵勢に狙いを定める。相手は、無頼傭兵や無宿人、逸れ牧者や放浪牧童、辺土の部族や遊牧民などの集まり――つまりは地元民たちの身内や土地財産を脅かす武装集団であり、侵入者たちに対して彼ら彼女らが容赦する理由は一切存在しなかった。
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勿論、【王】タリウスの兵士たちも、無抵抗主義の羊たちではない。
周囲で仲間たちがなぎ倒された精神的衝撃に呆然自失を晒し、弾を喰らうまで棒立ちしていた新兵や間抜け、それに運の悪いものもいたが、銃一丁を頼りに生き抜いてきた古参傭兵や無宿人の面々には、危うい局面を幾度となく潜り抜けてきた古強者も少なからず揃っている。目敏い者らはすぐに手近な岩場や窪み、或いは土嚢、丸太と言った乏しい遮蔽を取ってしぶとく応射を始め、或いは死んだ振りをしてやり過ごそうと、他の死体の下へと潜り込んだりした。逸れ牧者や牧童にはポレシャ側の岩場や丘陵の影に顔見知りを見つけては、就く方を間違えたかなどと天を仰ぐ者もいた。
浴びせられる銃火の激しさに、韋駄天ハリスさえも、思わず恐怖の叫びを上げていた。降り注ぐ銃弾に、手近な丸太の影へ慌てて飛びこんでいた。
「丘陵の上……か」喘ぎつつも熟練傭兵が荒い呼吸を整えてると、身近で叫び声が上がった。
「なんだよ、これ。なんなんだよぉ」身内か友人かは知らないが、倒れた年若い若者を抱きしめた若い兵士が叫びながら立ち上がった。
「おい!小僧!落ち着け!頭を下げろ!」ハリスの忠告を聞いてる様子はない。
「畜生!ふざけんじゃねえ!ぶっ殺してやる!かかって……」喚いていた若者だが、クロスボウで反撃するもすぐに腹部を撃ち抜かれ、死にきれずに呻いている。
(……あれは苦しい)忌々しげに舌打ちしたハリスは、横合いで岩の影に隠れた仲間たちに頭を下げてろ、と手で合図を送る。頷いてきたので、取りあえず周囲の様相を探ってみれば、味方は殆んど一方的に打ち倒されている。
丘の上に百人はいる。百人以上ではないが、五十以下と言う事はない。
(……誘い込まれた。丘の稜線。何時の間にやら伏兵が……なんてこった。俺としたことが全く気付かんかったぜ)舌打ちする。
装填に二十秒から三十秒掛かるとしても、百人いれば秒間に三発から、五発は撃ってくる。狙いすまして一分から二分に一発でも、毎秒一発は飛んでくる。手にした火縄銃なんかじゃ、太刀打ちできそうにない。
射程も、威力も、精度も、おまけに人数までポレシャ側の方が上回っている。此方は遠征軍で、向こうは地元の迎撃だから、多分に弾数も向こうの方が上だろう。
定番である突撃してからの白兵戦を挑もうにも、向こうは丘の上。ライフル銃が百近く。下手に身を晒せば、射撃密度は跳ね上がって、駆け寄る前に全滅するのが目に見えた。おまけに逃げりゃあ、無防備な背中を晒す羽目に陥ってる。
身を隠しつつ、相手の狙い打ちを防ぐために、兎も角も丘の上や岩場で蠢く人影に向かって、反撃するしかない。無駄玉ではない。当たらないとしても、一方的に撃たせるのは拙いのだ。そうなると、落ち着いて狙い定めてくる。ハリスたちが牽制しなければ、射撃精度が跳ね上がって我が身を貫いてくるだろう。
いずれにせよ、組織立って奇襲に対応できたのは、歩兵ではランツクネヒト勢や韋駄天ハリスのような歴戦の傭兵。それに一握りの無宿人に熟練の牧者や牧童たちなどであった。奇襲に衝撃を受けつつもなんとか態勢を立て直し、一方的に殺されないために猛然と反撃を開始する。弾薬は何処の土地でも共通の通貨であり、貴重な財産でもあったが、この際、【王】の傭兵たちも消費を気にする余裕などなかった。ポレシャ勢の射撃は精密であり、しかも、終わる気配が中々に見えてこない。現状では、どのみち手持ちの弾薬を使い果たす前に殺されてしまう。
手前の岩場に籠っていたポレシャ騎兵隊の面々も、丘陵からの射撃に呼応して伏射を再開する。比較的に水平な場所に逃げ惑う徒歩の兵士だけでなく、騎兵までもが餌食となった。遊牧民や自由騎兵などは瞬時に戦況を判断して足を止める事無く動き続けたが、他の騎馬傭兵や逸れ牧童などは慌てて踵を返そうと足を止め、馬諸共に撃ち抜かれて地面に転落した者も続出した。しかし、少なくともタリウス直下の遊牧騎兵たちは、止まることなく巧みに進路を変更して距離を取ると、何とか盆地の後方にて再集結を計るようだ。自由騎兵には、脱兎のごとく逃げ出す者もいるだろう。ハリスとて馬に乗っていたら、逃げたい気分であった。
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丘の上に伏せながら、双眼鏡で戦況を眺めるキャシディ・エヴァンス保安官は、あらかじめ『ボルゴの瞳』一帯に関するかなり精密な地図を測量済みであった。それぞれの丘陵からの有効射程と、騎馬斥候を用いた際の有視界もほぼ把握している。少人数であれば、逆に斥候に察知されないで進軍する経路も割り出してあるのは、地元民の強味だろう。双子丘の背の高い『姉』から北側の『妹』へ移動して伏兵する際も、キャシディ自身でも見抜き辛い水準に移動の静謐さを保てたと思う。シンゲン・タケダの林の如く静かに、だ。時間と引き換えに五人ずつで連絡路の尾根を渡り、斥候や砦を包囲する【王】の兵団に逆撃の予兆を気づかせなかった。
作戦の実施前、エヴァンス保安官は地図を見ながら沈思黙考に耽った。例え、包囲下にキャシディ自身やスタンフィールド氏、マギーがいても半々で死ぬ。と結論する。保安官の知る限り、ポレシャ市で最高に近い狙撃手や手練の兵士でも、生き残るには脱兎のごとく離脱するしか手はない。敵の平均値は当然、それよりも随分と低い筈である。逆に言えば、全軍が壊乱して千々に逃げまどっても、追撃を受けずに射程外で再編成すれば立て直せる。とは言え、敵には追撃を防ぐ予備軍も存在していない。頭の中で数通りのシミュレーションを行ってから、「多分、勝てるかな」と保安官は結論していた。
ポレシャの旅隊が立て籠った『ボルゴの瞳』でも、包囲していた連中が後退しつつある。ルーク・アンダーソンだと思うが逃げる相手ではなく、騎兵を狙い撃ちしていた。屋上に二人の男が頑張ってるのが見える。
(多分、ニナか、マギーも中にいる。これで少なくとも三人とヘレン。牛飼いの少年たちを合わせれば、六人を回収できそうか)
手紙に拠れば、旅隊の人数は十人+ヘレンの筈。怪我人がどうなるか分からないが、半分は救えそうな見込みだった。
とは言え、遊牧民の指揮官がやけっぱちになれば、お得意の火炎壺やら火薬壺やらで、ヘレン諸共に砦を焼き払おうとするかもしれない。
万が一を恐れつつも、友人のマギーとニナ。他にルーク・アンダーソンとミラー家のイザベルあたりは無事でいて欲しいものだとキャシディは思う。勿論、他の人間も無事ならいいと保安官は思うのだが、友情や居留地視点で見た優先順位も否めない。
溜息を洩らしたエヴァンス保安官は、気持ちを切り替えて、手元の地図に敵の戦力配置と反撃の頻度を記入しつつ、考え込む。
(次はどうするべきかな?此の侭、撃っていても押せそうだけど、一部粘ってる。素直に勝つのは難しそうだ)近くに控えている保安官補のキャメロン君を呼び、「各班長たちに、弾薬の損耗を少し抑えるように。一人につき、2分に一発。ただし、各個の判断を優先」と伝令を言いつける。
120秒当たりで100発。敵に対する被害は、時間当たり以上に――投入する弾薬あたりでも低下するだろうが毎秒、狙いすました弾薬が飛んでくるのだから、牽制には十分であり、そして1000発の損耗で20分の膠着状態を稼げることになる。
ポレシャ市民軍はライフルに拠る射撃を続けていたが、奇襲に拠る衝撃が鎮静すれば、いずれは膠着状態に陥る。相手だって遮蔽を取り、身を伏せ、死体でも荷物でもなんでも盾にする。動き回る騎兵もいる。百から二百メートル範囲の標的に対する命中率は8%を下回り、5%程度かも知れない。実際には百人の射手に拠る3~5%は恐るべき数字である。一人頭10発を費やした時点で敵の死傷者は40名にも到達する。160名の戦闘員を抱える兵団にとってさえ、半身不随の致命傷に近い打撃となる筈だ。指揮系統の断裂と前線の士気崩壊が発生し、負傷者による行動力低下が組織力を損耗させる。壊滅ではないが、【王】の兵団の勝ち目は急速に消えつつある筈であった。通常であれば。
キャシディは、頭を掻いた。「どうも粘る奴が多いな。騎兵を出して両翼から挟むか?だけど、相手の騎兵も健在。思ったより減らせなかったし」
騎兵同士の衝突となれば、例え、ポレシャ側が銃の性能に優っていようが、遊牧民の側に一日の長があるだろう。加えて相手は数で優っている。今は、走り回って此方に牽制の射撃をしてくるが、一部は後方に集まって再編してる動きも見せていた。
何なら、動きも良くなっている。動きの悪い部族騎兵や騎馬傭兵が脱落し、遊牧騎兵と自由騎兵が残って却って危険になったと見てもいい。要注意だ。
ううむと嘆息しながら、キャシディは時計を眺める。日没まであと二時間を切っている。動員された市民軍は、一山いくらの浮浪傭兵ではない。一人一人が市民であり、正規居住者であり、農場主であり、職工や自由農民だった。傭兵でさえ常勤の精兵で、牧者衆は長い歳月を付き合って信頼できる連中。小さな町には欠くべからざる人々。大半が顔見知りだ。いい人が多い。いやな奴も気が合わない程度で死んでほしい訳ではない。可能な限り――これは勝利を決定する為に払っていい最小限の犠牲と言う意味ではなく、能う限りと言う意味合いで――損耗を避けなければならない。「戦争は糞だ」キャシディは爪を噛んで呻いた。
夜に射撃の精度が落ちれば、一方で実戦に慣れた無頼傭兵や無宿人、部族兵らの戦力は跳ね上がる。夜襲で白兵戦を挑まれてしまえば、市民兵が甚大な被害を受けかねない。その前に敗走させるか、決定的な打撃を与えたいものだったが。
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灰色の天幕に籠った【王】タリウスは、望遠鏡を用いて小さな窓から、戦況を観察していた。本来、前線より八百メートルの距離を置くつもりであったが、今は1000メートル。ポレシャ勢に少なくとも一名、1000メートルを当てられる射手が潜んでいることを鑑みれば、土嚢の積まれた本陣の天幕に籠っていようが依然として不安は残るが、初弾で1000を当てられたらそれまでとタリウスは割り切っていた。
本営を悟らせないよう、態々、岩陰を大回りしてやってきた伝令が戦況を報告してくる。タリウスの近臣たちの視線が集中したためか。緊張で乾いた唇を舌で湿らせてから、伝令兵がメモを読み上げた。
「……我が方の被害甚大。戦死者は最低十。負傷三十。ポレシャ側の犠牲は皆無」天幕内に家臣たちの呻きが響いたが、タリウスは聞いてる様子も見せずに望遠鏡を動かしている。
戸惑いつつも、伝令兵は報告を続けた。「既に戦力半減。なおも交戦中も、敵の火力は一向に衰える様子が見えず。ランツクネヒトのヒルダは一時撤退の許可を求めています」
天幕の下、親衛隊士や幇間、侍女に書記官、召使たちと言った者たちが騒めいている中、【王】タリウスがやっと振り返ると首を傾げて伝令兵に尋ねた。
「ええと、なんと言ったか。副将の……そう、ハリスは、なんと言ってる?」
「ハリス……ですか?」伝令兵は怪訝そうな表情を浮かべるが、タリウスはずいと身を乗り出す。
「うむ、なにか言わなかったか?」
「そう言えば……無頼傭兵の時間帯が夜である、とかなんとか喚いていました」自信なさげな伝令兵の言葉だが「なるほど、なるほど」【王】タリウス、にんまりと笑った。
「分かっておるなァ。良い指揮官だ。其の儘、持ち堪えるように伝えろ」くつくつと笑ったタリウスは、ハリスを褒め称えて新たな指示を与えると再び、望遠鏡を手に取り、戦場の観察へと戻った。
天幕にいる臣下たちは、戸惑った様子で互いに顔を見合わせ、或いは主君を凝視したが、やがて一人の親衛隊士が意を決したように進み出た。
「お、恐れながら陛下」
「なんだ?」とタリウスは振り向きもしない。
「ポレシャ勢は高所から遮蔽を取り、精度と装填速度に優る高性能なライフルで遮蔽の少ない我が軍を狙い撃ちしています」
「それで?」タリウスは煩そうに鼻を鳴らす。
「丘陵の左右両翼に展開し、十字砲火ではありませんが、不利は否めません。ここは撤退すべきではないかと」士官が言い終わると、【王】が突如、叫んだ。
「楽師!楽師はいるか?!」
「はい。殿様」天幕の外から、薄着の娘たちが駆けつけてくる。
「今は、何発目だ?」とタリウスが尋ねる。
「恐らく七百ほどかと」「七百です!」「七百二十!」
うむ、とタリウスは大きく頷いて「戻れ!」と告げて、進言した親衛隊士へと振り返った。
「バカの考え、休むに似たりとは、お前のようなものを言うのだ。この小娘たちの方が、よほど役に立っている」余りと言えばあまりな主君の言に絶句する親衛隊士だが、タリウスは近臣たちを見回し「だが、他の者も不安なようだ」と肩を竦める。
「説明してやる。一回しか言わぬからよく聞けよ。余は当初より精鋭と雑兵を分けていた」
家臣たちがポカンとしている。それでも分からないようなので、タリウスはC型義手で鉛筆を握って地図などの載った机に向き直り、器用に紙に陣形を書き記した。
「損耗前提の前面は雑兵。精鋭は側面と後方予備に配置しておる。
被弾するのは、部族兵に無宿人、後は小徒党の浮浪傭兵であろう。損耗は大きいが、歴戦の頭目どもや下士官たち、中核の精兵は温存され、命令系統は生きている」
絵図面にされ、一同の表情に理解の色が広がった。
「……い、意図的なものだったのですか?」
「損耗の振り分けを設計段階から用意しておいた」と何事でもなさそうに告げたタリウスは、近臣連中の感心したような顔色を見て、笑うように小さく鼻を鳴らした。
デン戦争当時の指揮官たちであれば、当たり前に行っていたことだ。平時育ちでも頭のいい連中なら、言われずとも理解しただろうし、そうした家臣を揃えられない名君ならずとも、予め説明しておく程度の事は出来た。それを怠ったのもタリウスの不明には違いない。
凡君とお似合いの愚かな家臣たちと言う訳だ。思いつつ、【王】は捕捉した。「ポレシャ勢の射撃が、指揮破壊にならない理由も分かるな?ポレシャ市民軍は、常備軍ではなく、統一された教義や狙撃訓練に乏しい。つまり、自然と指揮官識別能力も足りてない」
「れ、連中の射撃精度は……」親衛隊士の一人が抗議するように口を開いた。
「だから、馬鹿だと言ってるのだ!市民軍が『上手く撃てる』ことと『誰を撃つべきかを理解している』ことは全く別だ!」タリウスは甲高い声でぴしゃりと決めつけた。
「しばしば、素人がそうやるように連中、目の前の見える敵や隠れずに動いた者を撃つ。つまり、雑兵や未熟な兵士が優先される。損耗は受けたが、我が軍の将校、命令線は温存されておる」タリウスは望遠鏡を掴み、戦況の掌握に戻った。
「狙撃手に士官を刈り取られて、命令網を破壊される恐れたような戦術も取ってこない」
キャシディ・エヴァンス保安官は、局地戦術において秀でているが、【王】タリウスはポレシャ市民軍の欠点を見抜き、戦争を設計する知性と権限を兼ね備えていた。そして双子の丘の戦場は、いまだ流動的な戦況に置かれている。
「敵は弾薬を消耗し、決定打を欠く。そしてやがて日が落ちる」タリウスのどこか楽しげな呟きに部下の誰かが返した。「日が落ちたら、どうなるのですか?」
「夜が来る」【王】タリウスは、厳かに告げた。




