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黄昏のガンダルヴァ  作者: 猫弾正
第3章 Z_275年 牛を買い付ける話

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03_60G  キャシディ・エヴァンスの敗北

 クッションを敷いた馬車に即席の屋根を備え付け、【ムーテ】タリウスは戦場の後方に侍って、戦闘の指揮を執っていた。前線に出るべきか、とも思うがタリウスの両手はC型の義手である。これでは出ても役に立たず、味方の士気とて高揚するまい。

 前線と距離を保つが為のタイムラグは少々、気に掛かるも、それでも視界範囲内の戦闘。目立つこの身を晒しても危険が増えるだけであり、足手纏いともなるだけだ。

 曠野に流通する小銃の射程と性能を考えれば、交戦領域より百から二百メートルの距離を取る判断は、安全確保として妥当だろう。



 騎兵を遊弋させてポレシャ人どもの逃げ込んだ建物の周囲を巡らせ、構造を把握。丸太や土嚢を積んだ馬車を前進させて即席の遮蔽とし、距離を詰めながら、複数の方向から牽制射撃を行って、籠城しているポレシャ人どもの自由射撃を封じ込めた。

 後は扉を破壊して突入するだけだが、蝶番は内側に対して開くように付けられており、錠前を撃ち抜いても開かなかった。間違いなく籠城用に設置された分厚い扉で、内側から複数のかんぬきが掛けられていてもおかしくない。階段上で立ち往生した兵士たちが屋上や銃眼からの発砲で数人、倒された。


 狭くて急な階段では負傷者たちも中々に引き下がれない。よく出来た構造だと感心しつつ、タリウスは動揺を見せずに次の命令を指示する。盾を掲げながら、階段を昇っていた歩兵たちが扉にまで到達すると、斧を振るい始める。

 銃弾は木製に鉄枠の盾を容易く貫くが、元より防御の為ではなく、籠城側の視界を遮る為の用途。人体に対して狙いを付けない盲撃ちであれば、敵の射撃精度は低下するし、貴重な弾薬にも浪費を強いることができよう。


 攻撃開始から三十分。斥候を配して予め周辺を偵察させた時間も含めて、一時間。日没まで残り二時間。どうやら間に合いそうだと思いつつ、タリウスの背中が妙にざわついていた。打つ手には問題ない。セオリーを踏んでいる。では、なぜ落ち着かない?【ムーテ】タリウスは周囲の丘陵地帯を見回した。言語化できないものの、どうにも質の悪いトリックに引っ掛かったような違和感を感じている。


 かつてのタリウスは、戦争を知らない訳ではないが、凡庸な士官の典型だった。短い期間であったが、デン戦争の中期から末期に掛けては、幾つもの鉄火場を潜り抜けたものの、当時は、目まぐるしく変化する戦況と情報の断片に呑み込まれ、翻弄される一方であった。しかし、過去に成す術が無かったとしても、後の放浪の歳月に振り返り、咀嚼し、噛み砕き、己の血と肉にする期間は充分にあった。ともすればかつては無能だった士官が、冷却期間を置くことによって、急成長する事例など枚挙に暇がない。


 人生の激動期に、即時の判断を迫られて幾度も失敗を重ねつつも、歳月と距離を経ててからの後の人生に、安全に記憶を反芻することで『意味』を理解し、判断が冴えるようになる人物はいるものだ。過去の経験知が脳内に序列化し、構造化される瞬間をタリウスも経験したが、だが、それが己だけの特別な経験ではないと承知している。タリウスに急成長が起こるのであれば、他人が覚醒する事例とてあるだろう。しかし、また同時に、人には出来ることと出来ないことがあるとも弁えていた。


 状況ではなく、敵の意図を考慮しながら、盤面をもう一度見直してみる。

 当初から悪くない手を選択して、粘り強く逃れてきたポレシャ人どもが、此処に来て逃げ場のない砦に逃げ込むだろうか?

 此方の戦力を見誤ったか?或いは、疲労と消耗から判断を誤ったか?

 それにしては、追手に対し、挟撃と伏兵を仕掛けやすい土地へと逃げ込んだものだ。


 此処に来るまでの経緯を振り返ってみる。旅隊連中は、此方の哨戒の東端に引っ掛かって砦に逃げ込んだ。当初、十人とも十一人とも報告されていた人数は、捕らえられたヘレンを含めて五人まで減っている。五人か、六人が脱落している。自然な経緯に思える。


 放浪の遊牧氏族とて、多少の電子技術は所有してる。ラジオを一定の短波を拾える受信機に改造すれば、雑音で電波が出ているかくらいは分かる。高度な解析はできないが、異変は嗅ぎ取れるのだ。そして周波数が違っても、短波の存在は現時点で感知していない。軍事無線は大抵、短波を使うものだ。ポレシャ人どもは恐らく無線連絡を使っていない。富裕な大型居留地とは言え、無線技術で此方を大きく上回るとは考えにくいし、ポレシャには電波放送局も存在していないとされてるからだ。



 ……連絡を取る手段がない。ポレシャから上がった狼煙だが、近隣の自由農民に些か手荒に聞いてみたところ、心当たりがないと吐いていた。

 あの狼煙だけを符号と決めて、予め、逃げ込む場所と戦術を決めておく?

 民主的な政体で、同輩や上司からどうやってそんなコンセンサスを取り得る?

 どんな天才だ?と頭を振るい、やはり考え過ぎか。と結論しつつ、タリウスは微かに不安が否めなかった。


 だから、南側の隘路にポレシャ勢と思しき増援が出現し、それが十騎足らずであったと報告が入ってきた時、却って安堵を覚えた。敵の底が割れたと考えたからである。ポレシャ勢の兵装と動きは優良であったが、対処可能な人数に収まっていた。

 タリウスが望遠鏡で覗いてみれば、何処の土地の保安官であろうとも、不思議と好むテンガロンハットを被っている事から、保安官がおっとり刀で駆けつけてきたと推測できた。

 しかし、本営へと報告してきたのは、前線に赴いていた親衛隊の物見である。【ムーテ】タリウスが気に掛かったのは、哨戒網に事前に配した斥候からの連絡が無かったことだ。斥候とは、常に危険な役割であり、かつ気の利いた兵士にしか務まらない任である。それ故に駄馬の乗る傭兵らには任せられず、馬術に長けた逸れ牧童や自由騎兵らも引き受けたがらない。結局は、手持ちの遊牧騎兵から割かざるを得なかったのだ。



 南端と南西、ポレシャ方面に配した斥候からの連絡が途絶えている、と西側に配置していた筈の騎馬斥候が丘陵をかなりの速度で駆け下りてくる姿が見えた。

(どうやら、二か所は狩られたか)咄と舌打ちした【ムーテ】タリウスの御前。駆けつけてきた西側の騎馬斥候が息を切らしながら口を開いた。

「ご報告申し上げます!我が【ムーテ】!南端よりポレシャ勢と思しき騎兵勢力が接近中」

「それは知ってる」

「違います!彼奴等、二手に分かれておりました。ポレシャ第二陣の数はおよそ二十騎。いずれも駿馬!此方の斥候を狩りたてながら、盆地に突っ込んできます!」

 斥候の報告に眉を顰めて眺めてみれば、隘路から突入してきたポレシャ勢は、双子の丘手前に位置する低い岩場に布陣し、此方に対して射撃を開始していた。長距離、かつ精密な射撃に散兵とは言え、二人、三人と倒れる兵が続出している。


「退かせろ。一旦、陣形を整える」タリウスの言葉に近くにいた親衛隊が青の旗を振り回し、太鼓を三拍子で鳴らし始める。

 眼前でうかうかと騎兵隊を合流させてしまった。と【ムーテ】タリウスは敵の動きを推測する。

 態々、分散合撃をしたのは、狙いがあるというよりも、敵の事情と考えた方が筋が通る。最初の騎兵は味方の窮を聞いてすぐに出発し、砦を救援しにきた。後から数を揃えて出発した第二陣が、斥候を狩りつつ、合流したといったところか。

(連中の目的が攻囲を解くことだとしたら、半分達成されたことになるな)

 砦を見つめて心配そうに歯噛みしている【族長ニウヴ】ルキウスや、椅子に座って楽しげにしているランツクネヒトのヒルダは放置し、タリウスは考え込んだ。

 斥候をもう少し分厚く配置しておくべきだったか?

 単独の騎兵には荷が勝ち過ぎたようだ。

 精兵に金で動く騎馬傭兵を付けるべきだったかも知れない。

 襲撃されても、二騎か三騎いれば誰かしらは危急を知らせる事は出来ただろう。

 斥候を再配置するべきか。だが、騎兵は集中してこそ。それに戦闘が始まった以上、意味は薄い。斥候からの敵勢の報告が皆無な以上、急速に接近されて急襲される恐れは低かった。




ムーテ】の兵団が小銃ライフルの有効射程外まで後退すれば、程なくポレシャ勢の火力も衰えて、殆んど収まった。金属薬莢弾は愚か、紙薬莢に黒色火薬までもが相応に貴重とされる黄昏の時代(トワイライトエイジ)。工業力が産業革命期にも劣る程に低い曠野においては、四百から五百メートルの距離を保っての対陣は自然、睨み合いとなるのが常識であった。


 盆地の北側に再集結しつつ、陣形を再編する兵団だが、発砲音と共に傭兵の一人が頭を弾けさせた。

「また、撃たれたぞ!」

「馬鹿な。岩場まで八百メートル近くある!」

 騒ぎ立てる兵士たちを、しかし、それ以上は下げずに土嚢やら木盾(これでは防げないが、隠れていれば身体に当たる確率は少しだけ下がる)に隠れたり、伏せた姿勢を取らせつつ、【ムーテ】タリウスは頬杖を突きながら、呼び戻した騎馬斥候たちに視線を走らせた。


「で、此方の斥候は?全滅か?」主君の問いかけに、整列した遊牧民たちが一斉に肩を縮こまらせた。

「は、半数は……ポレシャ方面は全滅したかも知れません」代表して答えた年長の騎兵の声は震えていた。

「逃げることも出来ずにか?」冷たい響きのタリウスの確認に、遊牧騎兵は必死に告げる。

「次々と騎兵が撃ち落されました。相当な銃に加え、400メートルで騎兵に当ててきました。信じられんような銃の腕前です」言い訳の響きはあったが、文明崩壊後ポストアポカリプスの世界に装備の非対称は想定して然るべき状況だ。

「彼我の装備の差は大きい。敗走を咎めようとは思わぬ」と手を振っての【ムーテ】タリウスの言に、ほっとしたように遊牧騎兵が深々と頭を下げた。


「キャシディ・エヴァンスでしょうか?」近くに侍る親衛隊士が囁き、【ムーテ】は顔を顰めた。

「この手の腕前は、大抵は噂半分なのだがな。まあ、ライフル弾は貴重な筈だ。そうパカパカとは撃つまい。あれは半分、脅しだろう」実際に今は途絶えた銃声に兵士たちが動き出す。ここでまた発砲して動きを委縮させるかと踏んでいたが、キャシディ・エヴァンスと思しき射手は撃ってはこなかった。

「至近戦では、もっと安いライフルと銃弾に切り替える。だからと言って、脅威である事には変わりあるまいがな」タリウスの推測に親衛隊士たちが頷いた。

 例え、キャシディ・エヴァンスの所持しているライフル弾が二十発かそこらだとしても、兵士たちにとって心理的圧力となっているのは否めない。


 が、【ムーテ】タリウスの兵団は歩兵が百人、騎兵が六十。現在の死傷者は十人前後に収まっている。斥候に騎兵を四人廻し、本営の守備に二十人弱を残すとしても、百二十を動かせる。


 岩場を影にしつつ、地図を開いた【ムーテ】タリウスは、小隊長や浮浪傭兵に無宿人ノークォーター、逸れ牧者らの頭を集めると、作戦を説明した。

「丸太と土嚢で装甲した馬車を並ばせ、盾にしつつ、射程に入ったら隙間から反撃しろ。騎兵は両翼に展開して待機、歩兵隊が有効射程を越えたら機動して挟撃。

 三方向からの火力で岩場を釘付けにする。歩兵は攻撃を続行。

 射竦めつつ、機動力のある騎兵で攪乱、牽制し、数の多い歩兵で攻略する」

 馬車の上に立ち上がり、よく通る声で戦力を割り振りながら、矢継ぎ早に指示を出した。

「歩兵隊の指揮は、ヒルダが取れ。副長はハリスとする。騎兵の指揮は……」と【ムーテ】の指揮が自由騎兵や親衛隊、遊牧騎兵の上を彷徨うと、「俺が行こう」【族長ニウヴ】ルキウスが立ち上がって宣言した。ルキウスの視線は力強く、決意に満ちており、深く頷いたタリウスが「前進を開始しろ!」号令を下した。




 ※※※※




 ポストアポカリプスの世界に、娯楽はどうしても少ない。とは言え、旧世界の頃より、陰の者たちが好む伝統的な遊びのひとつ。TRPGは最悪、紙と鉛筆、それにサイコロがあれば行えるのだ。特に雪と寒さで町々や農村との交流も絶える冬籠りの時期、ポレシャ市のキャシディ・エヴァンス保安官は夜長にこの遊びを好んでいたが度々、行商人マギーや市民スタンフィールド氏などに苦杯を嘗めさせられた。


「伝達早すぎない?」敵の待ち伏せに対して、キャシディが抗議の声をあげた。キャラクターと敵が、同等の条件で戦う設定のキャンペーンである、にも拘らず、敵(GM)の戦術はプレイヤーに対して先読みが過ぎるように思えた。

「オークが哨戒を使わないと思ったのか。騎兵もいるし」とGMはそっけない。

「初期に此方の偵察で騎兵の割合と数、内訳も調べたよね?

 今、戦場に騎兵を投入してるけど、斥候は駿馬?駄馬?

 哨戒は何キロごと?3キロごとに2騎なら、それでも主戦場で30騎裂かれるね?」キャシディの指摘に、GMが沈黙した。

「少数の騎兵なら、此方の首狩りで伝達を阻害できる可能性もある」保安官が言葉を続けると、GMが渋々と頷いた。

「分かったよ。斥候の感覚と馬と戦士の質。数をメモに書きます。

 そちらの想定と斥候狩りに投入する人数をメモに書いて裏返してください。一斉に見せ合うよ?その数値で判定します」

 戦場に投入する騎兵と監視に割く騎兵のトレードオフだ。うんうんと考えてから、キャシディは数字に出し、サイコロを振って敗北した。


 その日の深夜までに一大キャンペーンはプレイヤー側の勝利に終わったが、中にはキャラクターを喪失したプレイヤーもいる。

「キャシディの女騎士は、オークの捕虜になりました」GMの無慈悲な宣告。

「可愛い女騎士だオーク。オラのお嫁さんだオーク」とマギー・オークが言った。キャシディ・女騎士は、キャラクターシートを破きながら「くっ、殺せ」


 コーヒーや紅茶、クッキーなどが配られる中、「あああああ」机に突っ伏してキャシディは、ぶつぶつと呟き始めた。

「くっそ。あんな少数の騎兵に負けるとは。いや、配置しているのは分かっていたし、狩ればいいのか。狩るだけじゃ見落としが出る。囮か。狩りつつ、此方の騎兵を発見させて、報告に走らせ、本命を隠す。いや、囮は二重に使うべきか」何やらメモに細かい文字を掻きこみながら、うんうんと唸っている。

「陣形を再編成する筈。もし、囮に喰いついてきたら、総騎兵だから退却して、歩兵の待ち伏せ地点へと引っ張る。敵が陣形を再編するなら、騎兵を両翼にして、その時間で本命の歩兵隊を出現させればいい。乱れた敵の陣形に対して、金床にして、騎兵がハンマーになる」



「囮は二重に使う。総騎兵の機動力で退却と誘引。本命に拠る伏兵」とマギーはソファで低く呟きながら、指を折った。

「キャシディは頭がいいな。反復の速さ。ほんの数秒で駄目だしと洗練を妥当まで繰り返して、即座に再設計」欠伸しながら友人を分析し、隣のニナへと抱き着いた。

 ニナは肩を竦めてる。「……恐いねぇ。キャシディがじゃなく、同じくらい頭のいい略奪者レイダー無法者アウトローだっているだろうし」

「こんな奴は正規軍にも余りいないから大丈夫だよ」と経験豊かな賞金稼ぎだったマギーが太鼓判を押した。

「……正規軍にはキャシディ並が何人かいるの?」ニナが首を傾げると「ゴロゴロはいないよぉ。それに天才がいても、相応しい立場でもなければ、大したことは出来ない」寝転びながら、マギーは付け加えた。

「私の見たうちに限ればだけど、キャシディ以上の将校は一人もいなかったな。なんとか対抗できそうなのが軍閥に一人か、二人。もっとも戦術だけに限ればの話だし、そもそも戦術家同士が互角の戦力でぶつかるなんて状況自体が殆んどあり得ないけど」




 ※※※※




 岩場に伏せた三十ほどのポレシャ騎兵たちは、今や前進してくる敵兵力の膨大な圧力に晒されていた。百二十に対して三十。例え、ライフルの速射性と精度に上回っていても三方向に布陣した敵勢からの運動しながらの十字砲火は尋常な圧力ではない。

 今は、進むも退くも儘ならぬ状況に追い詰められていた。百二十と言う人数は、それほどに膨大だった。


 【ムーテ】の兵団の内、三十人は盆地の中央に残って再び、砦を攻め立てていたが、岩場のポレシャ勢も今度は援護射撃を行う余裕もない。数の差と複数の火点に拠る半包囲の態勢が迂闊な動きを許さない。ポレシャ勢は碌に反撃せず、しかし、代わりに岩場の奥に引っ込んで、堅く亀のように身を守っていた。

 ポレシャ市民で両替商の青年キャロル・スタンフィールド氏は、隣で伏せているマクロード副保安官と会話を交わしていた。

「土嚢や丸太を付けた馬車か。ズールの方からの遠征だろ。よく工夫するもんだ」呟いたスタンフィールド氏がやや不安そうに「……大丈夫かね」と首を傾げた。

 痩せたマクロード副保安官は、穏やかな口調で頷いた。「射角は高いし、射線も広めに敷いてあるからね。横合いからでも、上からでも」

「それなら、なんとかなりそうだね」スタンフィールド氏は、高価な腕時計で時間を確認した。

「そろそろかね?」とマクロード副保安官。

「もうちょっとだね」とスタンフィールド氏が応じる。


 いよいよ、射撃が激しくなってきた。曠野の弾薬の貴重さから雨霰とはいかないが、それでも侮れない制圧力であり、大型クロスボウには岩に突き刺さるものも有れば、弓は曲射もしてきて、危うく突き刺さりそうな者もいた。まだ、怪我人は出てないが、これ以上、接近されれば、急激に死傷者は増えるだろう。間近に迫れば、散兵として突撃してくるに違いない。時折、ポレシャ側も勇敢な保安官補や民兵が牽制射撃で応射するも、三方向からの射撃が恐くて、滅多に打てない。


「しかし、上手くいくもんだね」と焦る様子を見せないスタンフィールド氏の呟きに、「敵の目を潰したし、残ったのも上手く誘引したからね」とマクロード副保安官がどこか満足げに肯いた。

「恐いね。実戦でここまで上手くいくもんかと思ってたよ」とスタンフィールド氏の言葉に「まだ、勝ったわけではないよ?スタン君」とマクロード副保安官は、穏やかに窘めた。

「もしかしたら、エヴァンス君が意外と手間取ったり、想定外に遅れてる可能性もある」双子の丘陵の手前に聳える稜線をチラ、と見てから呟いたマクロード副保安官に、スタンフィールド氏は軽く首を傾げた。

「そん時はどうする?白旗でも上げるかね?身代金で許してくれるかな?」

「残念ながら、遊牧民相手だ。何もかも剝ぎ取られてそれこそ無一文になるかも知れないな」真面目な口調を崩さないマクロード副保安官に「じゃあ、無しだね」とスタンフィールド氏はにやりと笑った。




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