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黄昏のガンダルヴァ  作者: 猫弾正
第3章 Z_275年 牛を買い付ける話

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03_60B 恐怖の街道

 空は高く、空気は乾燥している。何時もと変わらない七月の夏。

 例年は今頃、何をしていたか。下町で皆と遊び回っていた気がする。

 今年のニナは、遊牧民に追われながら、橋の傍で息を潜めている。石造りにも見える灰色の橋梁は、半ばから崩れ落ちていた。橋の上には錆びた廃車が停止している。欄干の影に小さな花が咲いているのに気づいて、ニナは口を両手で抑えながら屈みこんだ。


 周辺の地面は赤茶けた土が多い。或いは灰褐色が混じった痩せた土壌に、雑草や灌木が僅かに茂っている。ポレシャ市に近づくほどに、少なくない自由農民やら浮浪者ホーボーが住み着いてる筈だが、或いは、我が物顔に田舎道を往来する見慣れぬ騎兵の一群に恐れを為したか。一帯からは人の営みが途絶えたように、住人の姿が消え失せていた。



 瓦礫や廃屋の狭間から、枯れた川の対岸に沿って灰色の駅前廃墟が広がっているのが見えた。天井の崩れた廃ビルや錆びた鉄骨が侘しい墓場のように連なっている。遠く大型駅ビルの輪郭が鉛色に浮かび上がっている。生き物の気配はなく、風が吹けば、時に獣の遠吠えだけが伝わってくる。「……駅ビル……橋……監視地点……ポレシャ」地面を眺めながら、ニナは小さく呟いた。


 己の判断が正しいか。実のところ、ニナにはまったく自信が無かった。

 それでも表面上、冷静に振舞ってみせるのは、同じ年代の少年少女であるガイ君やミリーらが表情を強張らせているからだ。やや年上の牧者娘ジーナ・(クレイ)も落ち着かない小動物のようにチラチラ視線を送ってくるので、ニナはなんとか自信ありげに微笑みを返した。するとライフルを握りしめながらも、安心したように笑顔を浮かべ、肯いてくる。


 年長の牧者ルーク・アンダーソンや用心棒ハロルド・コッゾォは作戦を詰める際、射線と遮蔽を意識した動線を考えてくれたり、援護する動きについて熟練者らしい細やかな意見をくれるが、大方針を決める際には、てんで頼りにならない。

「……俺たちには分からん」と率直過ぎるほどに言ってくれた。主導権争いをする必要が無いのは、有難くて涙が出そうだ。

 長い歳月を人に使われてきた。そして意外とそう言う教育を受けてる人間は少ない、とルーク・アンダーソンの言葉に、ニナは「では頑張らないとね」と頷いた。

 例え、腹の中でどれほど感情が荒れ狂っていようが、不安に苛まされていようが欠片も表面に出さずに、地図を眺めて一人で決める。頼りになりそうな老グラハム『狐』バートンも、ニナの意見を聞いても無言で頷くだけだ。なにか言葉を掛けて欲しい。


 もしかしたら、他にもっといい思案があるかも知れない。だけど現状、ニナにはこれ以上の策は思い浮かばなかった。

 そもそも時間制限のあるロニを切り捨てれば、全員が危険を冒す必要はなくなる。 だけど、ニナにはその判断は出来ない。

 弱さ故か、愚かさ故かも分からない。タリウスとその手勢は、着々と此方を追い詰めてきている。タリウスの走狗もやるべき事をやっているだけだ。何時だって世の中は儘ならない事ばかりだ。ニナはため息を漏らした。



(……マギー。マギーが傍にいれば)と、ニナは心細さに震える。だけど、本当は、マギーですらどうなってるかは分からない。姉さんが突然、失われたようにマギーも死ぬかもしれない。或いは、ニナも助からないかも知れない。それでも、身も蓋もなく助けを求めたい気持ちがあった。ポレシャ市に転がり込んで、わずかに数年でマギーは生活を立てつつある。勿論、同じかそれ以上に上手くやってる働き者の渡り人(オーキー)一家や利け者の行商人たちも一握りはいるけれども、ニナの知る限りでもっとも賢明な人間の一人がマギーだ。


 盗賊団バンディッツ屍者の群れ(ゾンビ・ホード)に襲われて逃げる度に、マギーは部下が欲しい。もっとましな武装が欲しい、といつも愚痴っていた。少しずつ武装はマシになっていたし、仲間に誘えそうな目星をつけた相手もいたけれども、マギーは口では愚痴りつつも、それほど急いでいなかった。マスケット銃くらいは買えるだけの稼ぎが増えてからも、武装は木製クロスボウにとどめていたし、仲間も増やさない。

 ニナが一度だけ理由を尋ねた時、「急に武装を整えて、人数を揃えた余所者を、ポレシャの市民はどう思うだろうね」と囁いてきた。だって、その時はポレシャに移住してからもう三年も経っていたし、雑貨屋さんから仕事を貰ったり、時々は保安官事務所に出入りしてたから、すっかり馴染んでたとニナは思い込んでいた。


 それでも死んだら意味がない、とニナは武器を欲したし、現実に幾度かを危地に追い込まれたけれど、マギーは考えを変えなかった。増えた収入を武装と人員に注ぎ込んでの拡大サイクルに踏み込む代わり、時間と資金を異なる方面に費やした。近隣を歩き回っては地図を作成したり、廃墟の構造を把握したり、或いは廃墟生活者や農場の人々に顔見知りを作ったり、時々は安く服や鉄、塩や酒などを売っていた。

「良い武器は確かに頼れるけれど、もっと強い武器を持った大人数に襲われた時、それだけでは限りがあるよ」と同じ毛布に包まりながら、マギーはニナに囁いた。

「今は、己より強いものたちに追われた時、生き延びられるように……どうせなら散歩を楽しもう」と髪を撫でて言い聞かせてくれたものだ。


 どちらが正解だったかは、いまだにニナには分からない。或いは、マギーも迷いながら決断したのかも知れないが。もう少しましな武装と幾人かでも戦える仲間がいれば、もっと違う対処ができた気もするし、同時にマギーと共にポレシャ圏を歩き回った下地があったからこそ、ここまで追撃を躱して粘り強く生存しているのも理解している。中途半端にも思えたが、此方が強ければ、タリウスは犠牲を織り込んで無頼傭兵や無宿人ノークォーターを一気にけしかけてきたかも知れない。

 二人とも為しうる最善の解答を出したと思うし、それでも最適解は分からない。現実に遊牧氏族タリウスを圧倒できるほどの戦力を持ちえない以上、正解は無いのだ。



 問題のひとつが護送犯ヘレンの見張りだが、これはミリーが此方についてくる、と言い出して一応は解決した。誰かがヘレンを見張らなければならないし、エマが戻ってきてないのに自分一人だけポレシャ市には戻りたくない、と訴えてくる。

 感情を削ぎ落したような低い声で、ただ吶々《とつとつ》と「ポレシャには戻らない。今、戻っても意味がない」と告げてきた。

「好きにすればいい」とニナは了承した。

 些か面倒になった面もあるが、ミリーは少なくとも馬鹿な真似はしないだろう。


 属する共同体でミリーがあまりいい扱いを受けていないのは、多分にニナも察している。放浪者の少女にとって、ポレシャ市が安らげる故郷ではないなら、好きに振舞えばいい。それが命懸けであっても、運命に立ち向かう方が、ミリーにとっては将来の糧になるかも知れない。少年少女だからと言って、必ずしも人生が軽い訳でもない。一部の不幸な人間にとっては、時として、例え、命運尽きようとも戦って死ぬ方が逃げるだけの惨めな人生よりマシなのだとニナは思っている。

 どのみち他人の運命や選択に責任など持ちようがないのだ。

 それでも、ニナはミリーを死なせるつもりもない。能う限りを持って、全員が助かる道筋を探してみせるつもりである。

 ここで生き残ったら、ミリーが幾らかマシな暮らしができるよう面倒を見てやろうとも思った。それもニナも無事に生き残れたら、の話だが。



 地面に枝で絵を描き、各タスクを分割し、投入する労力と距離、時間を計算し、ニナは頷いた。「さて、牛を連れてどうやって騎兵を撒くつもりだ」とルーク・アンダーソンの質問に、グラハム『狐』バートンや用心棒ハロルド・コッゾォ、牧者娘ジーナ・(クレイ)らの視線がニナに集中してくる。

「んー。それに関しては……」言い淀んだニナは、護送犯ヘレンにチラ、と視線をくれた。

 頷いた大人たちと共に敢えて橋のたもとから離れると、橋の反対側で抑えた声で告げる。

「まず、牛を分けておくのも手だと思ってる。予め、駅ビルの安全な一角に避難させて置くとかね」ニナは地図帳から駅前廃墟の簡易概略図のページを開いた。

「こんなこともあろうかと……実はここに駅前の地図がある」剽げたように、ニナはぐふふ、と笑ってみせた。

 詳細な地図は実家に保存してあるが、他人に見せて説明するだけなら十分な代物だ。

「狭い個所や地下通路、それに崩れた場所もあるから、牽制射撃しつつ、駅前ビルに逃げ込めれば、振り切れると思っている。狭隘きょうあいで、視界不良。高低差もある。崩落した箇所に短いけど地下通路。その廃墟の地図が此処にあります」ニナは説明する。


 マギーは、時間資源を費やして周辺情報を収集・蓄積する事で、戦域における戦術的柔軟性を向上できる、と教えてくれた。偵察、待機場所、遮蔽しゃへい、動線の確保、観測場所、敵行動パターンの把握、縦深、各種射程と高度、即応力と選択肢、撤退先の増加。これらが出来れば、同じ戦力の盗賊には、まず負けないと。例外は常にあるし、列強の一線級の軍人なら同じことが標準でできるとも言っていたが。戦術家としての【ムーテ】タリウスも多分、同じ水準にある、とニナは警戒していた。


「旧鉄道駅の廃墟に怪物や廃墟生活者は住み着いてないのか?」老行商の『狐』が珍しく質問を投げかけてきた。

「大きな廃墟だけにね。定期的に周辺の武装農民やポレシャの警備隊ガーズが見回りしている」と想定した質疑応答にあったので、ニナは淀みなく答える。

「廃墟生活者が襲われて、屍者の群れ(ゾンビ・ホード)が発生しても厄介だからね。気の毒だけど、見つけ次第に追い出されます。一時的な滞在者くらいは、まあ見逃されるけど……」とニナの言葉に『狐』は深々と頷いた。

 

「この後、少し入念に、駅前を偵察するつもりです。アンダーソンさんでも、コッゾォさんでもいいけど付いてきてくれるかな」地面で地図を描きつつのニナの要請に、用心棒ハロルド・コッゾォが無言で片手を上げてくれた。

「ロニが持ち堪えてくれると良いんだけど」ジーナ・(クレイ)が心配げな声を洩らした。多分に善人なのだが、他の大人衆よりも随分と感情が現れやすい。いや、年齢もニナたちに近いから、本来は無理もないのだが。

「時間は、私たちにも許された数少ない資源だからね。有効活用しないと」ぶつぶつ呟きながら、ニナは地面に簡単な駅前廃墟の地図を書き込んでいる。


「その後は、バートンさんとミリーに牛とヘレンを見張ってもらいながら、私たち三人で引き付け、駅前で振り切って其の儘、離脱する」呟きながら、地面に馬と矢印を書き加えていたニナだが、言葉を区切って首を横に振った。

「……或いは、牛とヘレンは、最初からもっと遠い別の安全な場所に待機させておいてもいい。いや、そっちの方がいいね」

 タスクのところに修正を加えて「すると、3時間か、4時間かかるけど。ロニも、何とか今日一日は持つと思う。希望的観測だけど。ミリーやロニたちがポレシャにたどり着いたら、避難先に警備隊の応援を呼んでもらう」

「ここで留意すべきは、騎馬斥候が増援を呼び、駅前を半包囲して、退路を遮断する事。あとは、誘い込めずに距離を取って遊弋されること。戦術レベルで上手をいかれる可能性もある。ただ、若い偵察兵が多いから、可能性は高くないと思う。そうなったらなったで籠城していれば、ポレシャの増援を期待できるか、夜陰に紛れて離脱するか。私たちの方が地形に詳しいから、手の打ちようもある」そう結論してから、「……どうかな?」とニナは大人衆の顔を見回した。


 異論はなかった。立ち上がったニナは、足で地面の絵を消しながら、今も考え込んでいた。さて、連中タリウスは全部でどのくらいの騎兵を抱えているのだろう?

 見たところ痩せ馬が多いけど、きっと二十や三十では効かないよね。

 応援は呼ばれるかな?かもしれないけど、退路を塞げるかな?

 いや、初見の巨大廃墟には慎重になるか?ううむ、分からん。

 単に距離を取って対陣するのと此方を意識して封じてくるのは似てるようで違う。

 最初に遭遇した連中には、ベテラン兵が含まれていなかった。

 応援を呼ぶのは、ちょっと頭の切れる斥候ならやるけど、戦術的行動をとれるかは、五分五分と見積もっている。それも希望的観測かな?

 ライフルを拾い上げ、調子を確かめてから、ニナはぶるりと身体を震わせる。

 私はこれ以上は思いつかないです。

 誰もが、手持ちの札で勝負するしかない。命を賭ける時だ。




  ※※※※




 太陽が中天に差し掛かろうとしていた。橋の下では毛長牛が一頭、座り込んでいる。ガイ少年の牛だ。ジーナ・C(クレイ)は、牛の名を知らない。イザベル・ミラーはグーちゃんと呼んでいたが、あの子は適当な法螺を吹く時がある。グーちゃんは、腹を空かせているのか、首を伸ばして橋の下の枯草を咀嚼している。空腹なのは人間たちも同じだ。食料はあるが、水が少ないので食事を控えめに抑えている。もっとも、そうでなくとも、ジーナ・C(クレイ)にはまるで食欲が湧いてこなかったが。


 ガイ少年も強張った表情で古びたライフル銃を握りしめている。とは言え、一応、後装式だが、マスケットに黒色火薬を別に一々、装填する旧式ライフルは、骨董品寸前の老兵だ。中途半端な設計の複雑さが災いして、村の鍛冶屋では長年、修繕できなかったと見える。これが前装式マスケットなら代替品を買うなり、修繕だって出来ただろう。雷管銃となると、弾が高くて庶民には中々、手が届かない。

 後装式マスケット銃は、いかにも金のある間抜けな自由農民が騙されて買いそうな、中途半端な代物だと、イザベル・ミラーは評していた。


 ジーナ・C(クレイ)も、ライフルを持っている。後装式で弾と火薬、それに雷管が別々の幾らかマシなライフル銃だが、この局面では役立たずだった。

 ジーナ・C(クレイ)は人を撃ったことがない。一度も。撃ちたくもない。


 毛布の上に寝転んでいる行商人の『徒弟』ロニが、「大丈夫、ポレシャはいいところだよ」青白い顔色ながらガイ少年を慰めている。ジーナ・C(クレイ)も慰めて欲しかった。

 吐きそうな気分に襲われて二人から離れ、ジーナ・C(クレイ)は丘陵から見えない橋の物陰に蹲って後悔に打ち震える。(なんで、こんなことに……こんな事なら、家畜市になんて来なければよかった)

 『ジーナ。ジーナ・C(クレイ)。ガイ君とロニを連れて、先に市へと戻ってください』それがニナの指示だった。足手纏いを切り離すと言うより、騎馬斥候が捜している対象を、別の集団に偽装する。これからジーナは、ロニとガイ少年を連れて、三人でポレシャへと向かわなければならない。ポレシャまでジーナが導くのだ。他の大人たちは、誰もが外せない役目がある。グラハム『狐』バートンとなら役割を変われたかも知れないが、いや、戦うことも期待されてるなら、ジーナがやるしかない。


 喧しい羊たちの鳴き声が作戦には危険だそうで、ジーナの羊たちは、やや離れた廃屋に閉じ込めてある。ニナが言うには、旅人が時折、シェルターに使う小屋との事で、短時間で盗まれる恐れはかなり低いらしい。ジーナ・C(クレイ)は内心、不承不承ながらも、ニナの指示に従って羊をおいてきた。だって、従うより他に、どうしようもなかった。

 いっそ、二人を見捨てて羊たちと自分だけでポレシャへ急ごうかしらん?と一瞬だけ思い浮かんだが、流石にそれは出来ない。少年少女を見捨てる真似は、幾ら小心者のジーナ・C(クレイ)でも出来ない。やったら、もう以前と同じではいられなくなる。人生には重大な選択肢があって、利益のために卑怯だったり、邪悪な選択肢を重ねた人間の相貌が歳月と共に恐ろしい変貌に崩れるのを、ジーナ・C(クレイ)も幾人かは目にしている。因業な顔つきをした貪欲で貪婪な目つきの老人らの悪相を見る度、神々がいるかは分からないが、人間に魂はあるとジーナ・C(クレイ)は感じていた。


 ジーナしか頼れない少年少女を見捨てることは出来ない。それだけは。しかし、恐ろしい。頭を石で割ってしまいたいほどに恐い。

 エマも、マギーもいない。他の大人衆に任せることも出来ない。年下のニナも、イザベルも、おのれが成すべきだと考えた行動を取った。ジーナ・C(クレイ)もそれをしなくてはならない。

 銃声が響いてきた。二発、三発。ニナたちが見つかった振りをして、丘からライフルを撃ち掛け、騎兵を引き付けながら駅前廃墟に逃げ込むのだろう。

 恐怖に零れた涙を掌で払い、胸鞄でゴシゴシとぬぐい取ると、立ち上がって、ロニとガイ少年のいる橋の下の奥へと戻った。

「二人とも。始まったよ」と言い聞かせるようなジーナ・C(クレイ)の言葉にロニも、ガイ少年も無言で頷いた。ガイ少年は、飼牛の耳元に何かを囁きながら、撫でてやると、牛も静かに座り込んだ。


 奥まった箇所に隠れた二人と牛を、ジーナ・C(クレイ)はガラクタで隠した。

 ライフル片手に、馬では通れない瓦礫の上をひょいひょいと身軽に乗り越えていくニナの姿が見えた。南から聞こえる長く伸びる銃声は騎兵たちのライフルだろう。徐々に馬蹄の響きが近づいてくる。

 恐い。騎兵たちが気紛れを起こして覗き込まないだろうか?どれくらい隠れているべきだろうか。五、六騎いた騎兵が、全員で追ってくるものか。囮と気づいたり、念の為に、見張りを残してないだろうか。恐怖がジーナ・C(クレイ)の胃の腑を締め付けてくる。


 騎兵たちが馬蹄を響かせながら、川底を渡っていった。

 奥まったガラクタで毛布を被りながら、ジーナ・C(クレイ)は、じっと目を閉じていた。五分が経過した。もしかしたら、十分かも知れない。まだ、ライフルの音は聞こえてくるが、大分、離れているように思えた。橋の下から、顔を出し、そっと周囲の様子を窺った。

 ジーナ・C(クレイ)は腕のいい牧者ではないが、偵察と斥候の術を一応は修めている。土手や茂みのような遮蔽物や窪みに身を隠しながら、丘陵や辺りの道を窺い、人の気配はない。姿も見えない事を確認すると、橋に向かって頷きかけた。

 ロニを乗せた牛を引っ張りながら、ガイ少年がやってくる。ジーナ・C(クレイ)はびくびくと怯えながらも、少し離れたポレシャへの街道に踏み出した。



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