03_59Z 薄明の追跡
ニナとポレシャ人旅隊が丘陵のポレシャ側出入り口で騎馬斥候の襲撃を退けた時点で、ポレシャ市の参事会がどの程度に事態を把握していたかは不明である。
【王】タリウスの兵団が自由都市を進発した日の正午には、複数の都市貴族や商会はポレシャ市の旅隊に対する襲撃計画を把握していたが、肝心のポレシャ公使はこれを察知していなかった。勿論、ポレシャ公館も幾らかの情報網を構築し、密偵も飼っていたが、それは主に下級役人や目端の利く商人などから商会連や都市軍の動向を探る為のものであり、とは言え、それなりに金払いのいいポレシャ公使の元には、普段から情報通気取りの都雀たちが出入りしている為、遅かれ早かれ、遊牧氏族の軍事活動が耳に届くのも時間の問題ではあった。
その日の晩までに知らせに来たのが乞食の顔役と浮浪牧者の頭、それに小徒党の古参傭兵であった。ポレシャ公使は最初の第一報を受けた時点で、伝書鳩を本国へと送るも、第二報は慌てて出さずにある程度、情報が纏まってから、公邸に屯っていた行商人のうちでも足早の者を二名選んで同じ内容の報告書を託し、翌日の日の出と共に送り出した。
丘陵を越えられる行商人は、そう多くはいないが皆無ではない。二人の行商人は、腕に覚えの若い仲間を連れて、別々の経路を辿って東の丘陵へと向かった。
この時点でポレシャ公使が把握していたのは、あくまで族長ルキウスが囚人ヘレンを奪還しようと追撃に出た事と、補足事項として【王】タリウスとマギーの過去の確執の噂であり、兵団の規模が時間と共に膨れ上がったことに対する懸念だけであった。公使は余計な推測も予断も一切挟まず、官僚的慎重さをもって事実のみを報告した。
ポレシャ市は、確かにたかが千人と少しの田舎町ではあるけれど、歴史の遺産として大英帝国やヴェネチアの外交官たちがいかに振舞ったかの記録は各地に書物や電子記録の形として残されている。参事会によって適正有りと選ばれた農場主ハミルトン氏は、公使として為すべき職務を忠実に果たした。
※※※※
ルーク・アンダーソンが騎馬斥候の持ち物を調べている間、ニナは棒立ちしていた。一見、思考停止してるようにも見えるが、事実、脳裏は真っ白である。追跡者の兵団がポレシャ圏に踏み込んできたというのは、想定外の事態だった。何故なら、一歩間違えば――否、武装集団が強力な居留地の勢力圏に無断で踏み込むというのは、まさに紛争直前の状況だからだ。
心臓が嫌な動悸を立てている。寝不足の為か、頭の使い過ぎか。頭の奥に疼痛さえ覚えた。糖分が足りないです。ポケットから飴を取り出して包み紙を取ると、口に放り込んだ。やっと頭が働き始める。こういう時はどうする?敵の立場に立って考えろ、とマギーは常々、言っていた。地形を読め、時々は振り返って眺めろとは保安官の口癖だ。ニナは丘へと振り返った。間違いない。よし。他の方面からは見えない。
丘陵の標高がおよそ四十メートルとして、灯りは何処ほど遠くから目撃されただろうか。
緩やかなポレシャ口は、両側面は盛り上がり、蛇行はしていない。隆起したものか、枯れた川底かは分からないが、真っすぐな下り坂は、光を目撃されるとしても、丘陵正面に限定される。特に視力のいい遊牧民斥候なら気づいても不思議はないが、斜め方向から察知するのは難しい筈。広範な丘陵地帯の全域に三人一組で騎兵を散らしたとすれば、各々の配置間隔は、かなり広い筈……十キロに絞って、一キロごとに配置しても十五人。他の騎兵斥候は気づいていない可能性が高い。
いや、断定は危険だ。なにしろ遊牧民。思ったより沢山の騎兵を連れているかも知れない。蓋然性の高い場所に集中して多めに配置したとか、広範に展開させるなら騎兵ももっと必要になる。だけど、馬匹の必要量を考えれば、そんな多数をポレシャの勢力圏に送ってくるか?分からん。タリウスは……或いは、コルかも知れないが、侮れない相手だ。とは言え、流石に騎兵斥候に無線機を持たせられる程の勢力ではないようだ。
兎に角、この場は離れよう。連中がポレシャ圏の詳細な地図まで持ってる可能性は低い。だって、私やマギーだって、まだ持ってないのだから。自由都市の新参が入手できるはずがない。多分。だから、廃墟や丘陵なんかに紛れて進めば、早々に察知も追跡も出来ない筈。この場に留まって見つかるのが一番、拙い。
「……移動しましゅ。すぐにこの場を離れた方がいい」噛んだ。休んでいた仲間たちが腰を上げた。歩き始める。近くに休息できる場所はあっただろうか。
星明りと地図、そして乏しい記憶を頼りに薄暗い地平に向かって歩き出した。カンテラは凹凸のある夜道を照らしている。視線も地面へ向けざるを得ない。
曠野での夜の旅は、賢いとは言えない。屍者や変異獣が物陰に潜んで、突然に襲ってくる一帯や廃墟なども少なくない。遊牧民の斥候たちも、よくもこんな夜道を走らせていたものだ。生まれた時から馬に乗っていた練度だけは侮れない。馬鹿だったけど。
行商の老グラハム『狐』バートンや用心棒のハロルド・コッゾォなんかに推測を交えつつ説明して、捕捉されにくい北回りでポレシャへと向かう事をニナが告げると、少し考えてから頷いてきた。異論はないらしい。
ルーク・アンダーソンは戦利品の都市銀貨をミリーやガイ少年、牛の背に揺られる徒弟ロニのポケットに入れていた。「町に戻ったら、甘いものでも食べるがいい」とか言ってる。
十五、六の年齢は大人になりかけだが、子供がましく楽しめる時期は不安定だし、成長も一律でもない――いい大人だな、とニナは感心した。放浪民のミリーなんか、顔を赤らめて呆けている。異性から物を贈られた事が無いのかも知れん。意外にも、護送犯のヘレンは少年少女らを穏やかな表情で眺めている。
一方、最後尾の牧者娘ジーナ・Cは「……無事かな」と殿で不安そうに度々、振り返っていた。戦闘では、あまり役に立たない。いや、変異獣や屍者相手なら、それなりに銃は当てられるが、人を撃てないのだ。そう言う人間は、どうしてもいる。寡黙なジーナだが、役割は果たすし意外と気も利く。それにミリーのクロスボウなんて狙っても当たらないし、ガイ少年の鍛冶屋お手製のアーケバス銃だって酷い代物だ。それと比較すれば、怪物と会った時には一応、頭数には入るのだから、まだマシだと、ニナは割り切っている。
「街道筋は通れない」歩きながらニナは端的に結論を告げた。騎馬斥候が網を張っていたら、ほぼ確実に哨戒に引っ掛かる。
「まあ、避けた方が無難だわな」老行商の狐が頷いた。
此方はエマ・デイヴィスとマギーが不在。イザベル・ミラーもいない。
そして次に遭遇する騎馬斥候は、確実に初回より手強い。自信に溢れた若者たちと言えど、仲間たちが返り討ちにあったのだ。二度目の会敵では、絶対に無謀な突撃はしない。数を集めてから、襲撃を仕掛けて来るかも知れない。
カンテラだけを頼りに夜道を行くことになる。
裏道は、むしろ安全ではない。一口にポレシャ圏と言っても、ポレシャ市に属する土地や友好的な農村もあれば、往来のない孤立した居留地や集落だって存在している。露骨に敵対的な街や大規模な盗賊団はいないにせよ、少数の略奪者や盗賊、部族の人狩りだって徘徊している。追い剥ぎくらいなら、対処できるだろうが。巨大蟻や屍者、変異獣にコヨーテや野犬の群れだって各地を彷徨っている。分布の濃淡はあれども、何処で敵対的な存在と遭遇しても不思議ではないのだ。
ルーク・アンダーソン。それとハロルド・コッゾォは頼りに出来るが、ニナ自身も含めて、他の者が動き回る騎兵に当てられる気はしない。ハロルド・コッゾォでなんとか、と言うところだ。同行者たちの身の安全がニナの双肩に掛かっている。胃が過度に緊張したのか。軽く吐き気を覚えた。『狐』が口出ししてこないのは意外だが、老人。護送犯ヘレンに鋭い目つきを向けている。幸いヘレンは大人しくしているが、『狐』も神経を配っていて此方と話す余裕が無いのか。それでも毎回、よく考え、時々は質問を交えてから賛同しているので、熟練の行商人らしく思考力は維持してるようだ。
夜の曠野には時折、乾いた風が砂塵を巻き上げるだけで、しんとした静寂が漂っている。カンテラの光が地面に細長く伸びて、人や家畜の影を揺らした。
遠く、越えてきた丘陵は西の果てに黒い塊となって浮かび上がっている。
ニナは時折、隊列の前後を振り返り、足音を立てないで進んでいた。ルーク・アンダーソンとハロルド・コッゾォが側面を警戒し、殿はジーナ・Cが守っていて、時々、仲間同士で声を掛け合っている。
牧者たちほどではないが、ニナも廃墟育ちとしてそれなりに夜目は効いた。薄暗い夜道でも、巨大な西の丘陵を目印に方角を失わない事くらいは出来た。手に負えないような変異獣や屍者の群れも、大型の廃墟一帯を除けば、棲息はしてない筈だ。それでもニナには生き残れる確信はなかった。夜の曠野を進んでいいのか。どこまで進めるのか。黎明の後、騎馬斥候に見つからずにいられるだろうか。
比較的に安全なポレシャ近隣でさえ、夜の旅は容赦なく神経を削ってくれた。時折、茂みや灌木、岩陰からキラキラと光る目が此方をじっと見つめていたが、地面に低い位置からするに野犬やコヨーテの類だろう。ライフルやクロスボウを構えながら警戒しつつ通り過ぎるも、夏の今の時期は餌となる小動物も多く、腹もさほどに空いてないのか。数も少ないようで大人数の旅隊を襲ってはこなかった。放浪民や廃墟生活者はよく平気で夜の世界を旅できると埒もない考えが浮かぶが、仲間を失うのが当たり前の生活との聞いた話を思い出して、ニナは首を振った。
廃墟の影には、知った場所でも敢えて近寄らなかった。稀に屍者の巣窟となっており、生きた人間の匂いを嗅ぎつければ、建物を這い出て襲ってくるかもしれない。そして夜の闇での屍者との戦闘は最悪だ。近寄るなら、日が出てから。
しかし、黎明とともに、遊牧民の騎馬斥候もより盛んに動き出すに違いない。
夜明けまで恐らくはあと、二時間。休めそうな場所を探したかった。それまでは足を止めるのも危険だ。丘陵の稜線、風に揺れる灌木や木立。遠くで小さく揺れる光――どこに屍者や変異獣が潜んでいてもおかしくない。
大分、穏やかになった風が夜明けの近い事を教えてくれるが、時折、野犬や屍者の遠吠えが聞こえてくる。風に混じる腐臭には、背筋がひりついてくる。夜の曠野は、人の領域ではない。朝まで生き延びられる保証すら、何処にもないのだ。
何も考えず、ゆっくりと慎重に足を動かし続ける。薄暗い地平の彼方、ほんの僅かに東の空が蒼く染まり始める。錯覚かと覚えるほど少しずつ、朝が近づいてきている。西方の巨大な丘陵の影を背に、旅隊は黙々と足を運んでいた。
※※※※
牽制射撃に狙撃を織り交ぜながら、エマ・デイヴィスは後退を計った。曠野の牧者の末裔として生来、夜目が効く体質のエマは、日没後の暗中にも関わらず、対峙している【王】タリウスの手勢を幾人となく打ち倒していた。とは言え、カンマーランダーは精度に優れるものの代償として口径が小さく、威力にやや欠けるライフルで、黒色火薬で撃ち出したミニエー弾は、必ずや致命を与えるとは言い難かった。それでもエマ・デイヴィスの腕前はポレシャに属する牧者衆でも屈指であり、射撃を趣味とする一部市民たちにすら引けを取らない。
歴戦の傭兵や無宿人らも自然、慎重に動かざるを得ず、敵勢を釘付けにしつつ少しずつ後退したエマは、イザベル・ミラーと呼吸を合わせて一気に後退すると其の儘、最初から退路と決めておいた方角に向かって走り出した。タリウスの部下たちがエマ・デイヴィスの撤退に気づいたのは、ほぼ五分後。一分に一発、或いは二分に一発と撃ち込んでいたエマの射撃が止んだのに気づくには、さらに一分を様子見しなければならなかったし、そこから弾切れかを確かめる為に突撃するのにさらに二分を要したからである。
傭兵らもけして無策ではなく、南から廻り込んだ別動隊の手で後方に火点を設けようと計っていたが、エマの素早い撤退に虚を突かれて出し抜かれた形となった。
怒りと悔しさに身体を震わせる傭兵たちだが、闇夜の丘陵地帯に少人数を追い掛け回す愚は侵さなかった。巨大蟻や巨大蜘蛛、狼の類も彷徨う未知の丘陵に迂闊に迷い込めば、命とて危うい。足止めしていた敵を追い払った事で良しと判断し、本隊に合流すべく、負傷者を連れて素早く引き上げていった。
漆黒の闇の中、月光がわずかに反射する丘の稜線や灌木の輪郭が揺らめいて見える。谷間の影となってる部分は、近くの遠くの輪郭すら掴めない濃い闇に包まれていた。時折、根を張った木々や足元に転がる岩に足を取られれば、挫くか、窪みに落ちる危険もあった。風が揺れる中、微かに木や草のざわめきが入ってくる。
充分に離れた、と判断したのか。地にしゃがみ込んでカンテラを付けたエマ・デイヴィスの背後。イザベル・ミラーが「上手くいった」と囁いた。声は掠れている。戦闘と緊張で身体から水分が抜けていた。エマは頷き返してカンテラを掲げる。乏しい光に照らされても、なお、迷路のような地形だ。
岸壁の影に覆われた夜の帳は厚く、視界は二歩先すら怪しい。岩稜や低木が射線を遮り、足元には岩が転がっている。或いは、変異獣や屍者と遭遇するかもしれない。
長居は無用、とばかりに仲間と合流すべく二人は歩き出した。それほど高くはない筈だが、闇夜に底も見えない崖道を最大限に急ぎつつも慎重に進んでいく。時折、後方をちらほらと気にしつつ、無言で歩みながら、時折は立ち止って体力を回復させる。地図を小まめに確認しては、互いに逸れないようにまれに声を掛け合い、近い距離を保ちながら、順調に北東のポレシャ方面へと近づいて行った。
かなりの大回りになるが、険しい丘陵一帯を北西へと迂回すれば、再びポレシャ圏へと向かう事が出来るだろう。無事に抜けた。振り切った、とエマの身体にやっと震えるほどの安堵が押し寄せてきた。僅か二人で多勢を足止めするというのは、作戦計画がよく練られて、脱出経路と自由な撤退の判断が与えられていても、恐ろしい緊張をもたらすものだった。
「……危うかった」エマの呟きにイザベルが頷いた。「ん、二度とやりたくない」
それから二人は無言で歩き続ける。やがて微かに東の空が白み、地図上でのみ確認していた東西の間道も見えてきた。かなり緩やかになった丘陵の麓を、それでも神経を配りながら歩いていた瞬間、微かな摩擦音が耳に入ったエマ・デイヴィスはそっと足を止めた。イザベル・ミラーも気づいてエマを見、なにか口を開きかけた瞬間、風を切る音が殺到した。
エマの太腿に衝撃が走る。太いクロスボウ・ボルトが突き刺さっていた。ライフルを構えようとしたイザベル・ミラーだが、多数の発砲音がいきなり轟いた。「ぴう!」とイザベルがカンテラを落としながら、衝撃に崩れ落ちた。
だが、死んだわけではない。苦痛に呻きながらも、ごろごろと転がって側溝めいた浅い谷底に自ら転落していった。稜線から複数の人影が現れる。少なく見積もって、七、八人。
エマ・デイヴィスも苦痛を無視して、転がりながら、岩棚の岩陰に隠れ込んだ。足を引きずりながら逃げ込んでいたら、第二射に撃ち殺されていただろう。エマが直前までいた地面を数発の弾が抉っていた。
「仕留めたか?!」「分からん……が、この高さだ」イザベルの方向に声がした。岩棚の切れ目から二人組の人影が飛び出すと、谷底を覗き込んだ。銃声が響き、即座に一人が血しぶきを上げて転がり落ちる。
「クソッ!」もう一人が谷底を狙って銃を構えるが、エマが撃ち抜いた。
派手な装束から見るに、どうやらランツクネヒト。それも若い女だったようだが。間違いなく、タリウスの手の者だろう。
それにしても足に突き刺さったクロスボウ・ボルト。誰もいなかった筈の場所から、攻撃を受けたように思える。エマが、ちらと顔を出して岩陰から覗いてみれば、やはり離れた位置の岩に遮蔽を取りながら、灰色のなにかが蠢いていた。いや、数秒前まで灰色のマントに拠る擬態をしてたのだ。
そっとカンマーランダーで狙いを付けようとするも、クロスボウの斉射が飛んできた。位置が悪い。岩肌をも穿つような威力のクロスボウに、今やマスケットにライフル弾まで撃ち込まれて、顔を引っ込めざるを得なかった。左右の両方から飛んできた。縮こまるしかない。
正しく袋の鼠と言う訳だ。それにしても見事な隠形。手口に心当たりがあった。
「……ア、灰のミレーユか」名のある狩人だ。エマと挨拶した程度の面識はある。独り言に「すまんな、エマ。大金積まれた」本当に申し訳なさそうな声で返答が返ってきた。
エマ・デイヴィスは天を仰ぎ、それから苦笑を浮かべると「ぶ……無事か!イザベル!」と声を掛ける。
「脇ぃ……そっちは?!」やや弱々しいイザベルの反応。
撃たれたのか。エマは舌打ちする。「あ、足をやられた!逃げろ!」思い切り叫んだ。
すると、素直に足音が遠ざかっていった。あっさりと逃げ出したようだ。イザベル・ミラーはいい性格をしている。判断が早い。こういう時に躊躇しない。
少し寂しいような、腹立たしいような気もするが、安心も覚えた。
エマは、足をやられた。そして複数人相手では逃げ切れない。
クロスボウを引き抜いた。手が震えた。血が止まらない。だが、一時を凌ぐ、それだけでいい。
粘土めいた止血剤を傷口に張り付け、テープで乱暴に巻き付ける。
血が溜まるだけだ。もう、後先は考える必要はない。
血に濡れた紙薬莢や雷管に不発が起きなければいいのだが。
それにしても、退路を読まれていたとは。中々どうして、敵にも相応の戦術家がいるようだ。脂汗を浮かべながら、エマは少しだけ笑った。
イザベルが、逃げ切れるといいが。この先に待ち伏せがあるだろうか。
それにミリー。これから先、見守ってやるつもりだったが、どうにもできそうにない。
まあ、いいさ。と遠くを眺める。他にも頼りがいのある大人たちが付いている。
きっと、当面の面倒を見てくれるだろう。「つ、強く生きろ」と囁くと、岩に寄りかかり、深々と息を突いてから、エマ・デイヴィスはその時を待ち受けた。




