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黄昏のガンダルヴァ  作者: 猫弾正
第3章 Z_275年 牛を買い付ける話

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03_59R 命と金の天秤

 ロニは、日陰になる灌木に寄りかかっていた。一応の手当てで布だけ巻いたものの、血の滲んだ脇腹を手で押さえたまま、息も荒く目を閉じている。

「ロニ」と親方のグラハム『狐』バートンが名前を呼べば、不安げに見上げてくる。

「悪いが、都市に戻る訳にもいかなくなった。『大地の子サンズ・オブ・アトラス』と言う遊牧民どもが、おれの牛に目を付けたんでな」

「あぁ」と絶望的に、ロニは呻いた。「なら、仕方ないっすね」力なく笑った。

「あぁ、仕方ない」『狐』のグラハム・バートンは、欠片も迷う素振りを見せなかった。屈みこんで徒弟の傷を改めてから、鼻を鳴らして立ち去っていった。


「やだぁ……置いていかないで」哀れっぽく小さく呟いてみてから、ロニはくつくつと笑った。「まあ、それなりに頑張りましたよ」



 ――



 マギーは、背嚢から折りたたんだ地図を取り出した。熟練の旅人は、すべからく己だけの地図を秘匿してる。抜け道や物資の秘匿場所。縄張りを抱える徒党への合言葉。変異獣や屍者の徘徊ルート。危険な廃墟における動線や一時的に避難できそうな建物。盗賊の出没地。獣道や河川の渡渉点。


 幾度となく探索してようやく分かる情報が数多、蓄積された地図は、旅人にとって命綱であり、時には飯の種にもなる。

「東の丘陵を横断する」言いながら、マギーはそれを開示した。旅隊の主な面々を呼び集めて、懐に仕舞っていた地図を開いている。



 現在地から一キロ弱を北上すると、丘陵へ入り込める峠口※に面している。

 入り込めると言えば何処からでも入り込めるが、怪物彷徨う丘陵をほぼ確実に横断できる道の入り口は希少なはずで、近隣住民でも把握するものはそう多くはいないと踏んでいた。

「追撃を振り切るには、これしかない」地図上の狭隘な抜け道を、マギーは指でなぞった。


 若きイザベル・ミラーは、懐中時計と太陽の位置を腕で確認してから、指を折って何かを計算した。それから右手の丘陵を呆然と眺め、「二、三日……丘で夜を過ごすのはゾッとしない」と弱音を洩らした。


 老練な行商の『狐』は、目を細くして他人の地図に見入っている。牧者のジーナ・(クレイ)は何かを言いたげにしていたが結局、陰気に黙り込んだ。ルーク・アンダーソンは、そっと視線を外し、礼儀正しく「あんたに任せるよ」と言ってきた。エマ・デイヴィスも地図を睨みながら「そ、それしかない、と思う」と頷いた。


 街道上で騎兵を撒くのは不可能、と一行は認識を一致させてる。現時点で、時間的猶予がどの程度に残されてるかも分からない。まして家畜連れの足でもあった。

 或いは、生き残るだけなら、他にも手段は取れなくもない。

 家畜を解き放ち、ばらばらに逃げ散った後、近場の廃墟なり、旅籠なりに身を潜り込めば、幾人かは生き残れるかも知れない。金か、命か。と突き詰めれば、そこは命だ。

 が、金を失ってはどちらにせよ、生活が立ち行かなくなる。

 ルークのようにサドラン牛を買う為、借財している者もいる。マギーや『狐』さえ、破滅とまではいかずとも凋落は避けられない。襲われる度に財産を投げては結局、生きるに厳しい状況に追い込まれる。危機的な局面で、金のために何処までリスクを引き受けるかの判断もまた、曠野で生きる男女にとっては人生の一環なのだ。


 同行者には、納得していない者もいる。ガイ少年は、北辺の外れの農場から来た。身内でもなければ、同郷の縁でもない。市の仕事目当てで、ついてきているだけだ。少年は立ったまま、地図も見ずに拳を握っていた。何か言いたげだが、不満の言葉は洩れなかった。


 イザベル・ミラーは、ガイ少年へと歩み寄った。

「言いたいことがあるなら、言ってみ」と親しげに少年の肩を叩いてみる。

 旅隊頭マギーの端的な説明に納得できず「連中はどうして襲ってきたんだ?」と当然に疑問を投げかけた。周囲が出立の準備に慌ただしく駆け回る中、食って掛かるほど少年とて短慮ではない。


「牛の奪取と囚人の奪還。それに因縁のあるマギーに賞金を懸けた」イザベル・ミラーも淡々と答えた。二、三の問答で不満や不服を解決できるならしておいた方がいい。

「なら、別行動すれば助かるかな?」と少し考えてから、ガイ少年は言った。


「牛たちも狙いのひとつだよ」とイザベル・ミラーは気の毒そうに首を振った。

 イザベルはじっとガイ少年を見つめて、考えながら言葉を紡いだ。

「囚人の護送も、牛の輸送も、周囲や同行者に隠していた訳でもない。

 財産を持って移動すれば、どうしたって悪党どもに狙われることはある。

 誰かが狙われた、とか誰かの責任をあげつらっても意味がない」

 納得いかない様子で沈黙するガイ少年に、イザベルは真剣な眼差しを向けた。

「……まあ、好きにすればいいよ。もし一緒に来るなら、誘った責任として出来る限りは守るし、君が別行動したいなら、止めはしない」苦笑したイザベルは「別行動するけど付いてきて守ってくれ、と言うのは聞けないけどね」と付け加えた。



「行くよ。行けばいいんだろ。今のところ、それが一番、生き残れる目がありそうだ」やけっぱちではないが、些か投げやりにガイ少年が告げる。

「無理には誘わない。本当に、誰もが、自分で決めないといけないんだ。

 さもないと死ぬ時も納得できないから」イザベルの言葉に、ガイ少年は喉からしゃっくりのような音を立てた。それから数秒、目を閉じてから頷いた。

「……なら、言い方を変える。連れてってくれ」

「来るなら指示に従ってね。出来るだけ守るよ」ふひっと、ちょっとだけ嬉しそうにイザベルは笑った。イザベルを何処まで信じられるか、少年にしても分からない。「出来るだけかぁ」とガイ少年はぼやくように呟いた。




――



 グラハム・バートンは、ロニの処へとゆっくりした足取りで戻ってきた。「丘を横断すると決まった。ポレシャまで二、三日掛かるだろうが精々、粘ってみせろ」

 用心棒のハロルド・コッズォに命じて、ロニの傷口を改めて強く縛り付けさせると、おのれは持ち牛の背から積み荷を乱暴に投げおろし、地面に放ると空いた牛にロニを乗せようとする。

「……足手纏いっすよ」とロニは呻いた。

「黙ってろ」と師匠の言葉に「便所に落ちた一ペニーを拾うと思うな……普段から言ってたじゃないですか」以前から、足手纏いになったら置いていくと警告されていた。


「便所に落ちた一ペニーならな。地面に落ちただけで財布を捨てるのか?」鼻を鳴らした『狐』は「乗れ」とロニを抱え上げて、傷の痛みに小さく呻いている少女の身体を牛の背に横たわらせた。今ここで手当てをする訳にもいかない。何処まで迫ってきているか分からない。若干の強行軍を強いられるが、ロニはまだ若く、体力もそれなりにある。今は耐えてもらうしかない。


 地面に転がされた積み荷は、『狐』の仕入れた布や薬草、香辛料の類で数百単位からの損害を出すことになる。出来の悪い徒弟とは到底、釣り合わないが、目を閉じたロニはか細く「お師匠も……焼きが廻ったっすね」汗を拭きだしながら、皮肉っぽく笑った。

「どうかな……助からないと見たら捨てていくかも知れん。俺にも分からんのさ」『狐』は低く呟いた。



 旅隊は、ゆっくりと移動を始めた。

 牛や気まぐれな羊を連れての足だ。どうしても遅くなる。

 風の音や遠くの鳴き声を追うように、マギーは遠くを眺めている。先頭は、地図を持たせたエマ・デイヴィスに任せ、マギーはルーク・アンダーソンやニナと共に旅隊の殿を歩いていた。

 灌木や茂みがぽつぽつとまばらに散った南の街道は、砂岩の転がる茫漠とした風景が続いていた。時折、彼方に崩れかけた廃屋が、屋根と骨組みだけを残して佇んでいた。


 穏やかな風が吹いている。追撃が来るようには見えないが、騎兵の足は速い。地平に砂煙や馬蹄が見えたら、詰められるまであっという間だ。先刻を撃退できないのは、簡単なトリックが上手くいったのと偶々、手配済みの救援が来たからでもあった。二度も、幸運に恵まれるとは思えない。

 もう保険は残ってないし、手練の騎兵が相手となれば、無傷に撃退できるとも限らない。


 加えて(……私は衰えている、な)足元の砂利を踏みながら、マギーは自嘲するように、一瞬だけ強く目を閉じた。

 以前は追い込まれても、瞬時に打つべき手が思い浮かんだ。

 それが今は漠然と思考が散っており、迷いが生じている。

 訓練は怠っていない。知識も積んでいる。それでも日常の全てを生死の境に置いていた時期に比較すれば、勘働きも判断力もあからさまに鈍っている。現役の頃よりも、種々の感覚が鈍っているのも否めない。かと言って、諦めた訳でもない。


 穏やかな生活は、生存競争に関わる力を弱めてしまう。が、後悔はしていない。何時か、来ると覚悟はして望んだ人がましい日々は悪くなかった。

 腐ってもスネイクバイトの一人。全知全能を振り絞って戦える環境に戦場を設定すれば、簡単にやられるつもりもない。武装や身体能力だけでなく、知識や戦術、準備、段取りもまた、戦場の結果を左右するとマギーは信仰している。容易くこの首を採れると思っている者がいれば、後悔させてやると心に決めていた。


 『ムーテ』タリウスの招集した軍勢ではあるが、超望遠射程での遠距離狙撃を決めてくるような手合いは、多分に参加していない。何故なら、おのれよりも強力な装備を持った大手徒党を招き入れれば最悪、拠点さえも乗っ取られる恐れがあるからだ。中世の昔から、迂闊に強力な外部勢力を呼んで土地を乗っ取られた国や領主の逸話は事欠かない。タリウスも野心家の類であれば、支配下の勢力均衡に敏感だろう。迂闊に他の大手組織の助けは借りない筈だ。


 ゆえに動員されるのは、格下の寄る辺ない弱小の徒党となる。とは言え、それもこれも推測。仮にタリウスの立場であれば、マギーならそうするという予想に過ぎない。もしかしたら、一匹狼の凄腕狙撃兵がタリウスに雇われて今、この瞬間にもマギーの頭蓋がはじけ飛ぶ可能性だって無くもない。幾らかは、狙撃も警戒する必要もあった。


 気ままに散っていきそうな羊の尻を枝の鞭で軽く叩きつつ、そこまでの推論をマギーは訥々と周囲の者たちへ語った。

 小まめに状況を共有させておくのは役に立つとマギーは考える。余裕があるうちに話しておけば、他のものの気持ちとて落ち着こう。

 超遠距離の狙撃については、それほど警戒はしないでいいと論拠を交えつつ、結論も述べた。

「妥当だと思うぜ」老行商のグラハム『狐』バートンが頷いた。ルーク・アンダーソンやニナも黙って耳を傾けていた。

「……懸念が一つ」マギーが呟くと『狐』バートン。「狩人だな」鼻を鳴らした。

「狩人は十中八九雇われている。近場に詳しい奴らが加わってないといいのだけど」マギーは億劫そうに囁いた。




 ※※※※




 自由都市ズールから北へ延びた街道上で、散発的に銃声が鳴り響いていた。

 前衛から駆けつけた伝令が一礼して、報告してくる。

「前方、屍者の群れ(ゾンビホード)です。数は五、六十!人の集団の匂いに引き付けられたものと思いますが……」先日の都市軍と屍者の群れ(ゾンビホード)の大規模な戦闘の余波が、いまだに一帯で燻っていた。


 馬車に腰かけた族長ルキウスが、背後の箱から火薬に弾薬、紙薬莢を取り出して、五発、十発と手渡しながら「思ったより手古摺っているようだが……手強いか?」尋ねかけた。

「いえ。殆んどはノロノロとした歩く屍者(ウォーカー)です。若干のイキのいい奴もランツクネヒトたちが盾と槍で始末しました。ただ、最初の集団との戦闘中に新手が現れたもので。そちらも間もなく掃討し終わります」伝令は胸を張りつつ、順調、かつ損耗無しと告げてくる。

 側近の親衛隊士からの偵察内容も同様なれば、問題は無さそうだ。



 鷹揚に頷いた『ムーテ』タリウスの傍ら。族長ニウヴルキウスは顔を顰めて、手元の書類になにやら記載している。

「大儀。目立った働きの者どもには、後々、褒美を賜るでな。楽しみにしておくように伝えよ」タリウスの言に己の金でもあるまいに、渋い顔をしてくるのは放浪の日々に育まれた性分か。

「黒色火薬で百二十発、紙薬莢三十発を支給、さらに整備の布と油を……」随分と細かい男になったものだと、互いの若い頃を思い出したタリウスは、奇妙なおかしさを覚えて軽く笑った。


 旅籠で若干の足止めを喰らったものの、それ兵団の足を止めるものもなく、兵団は順調に進んでいる。

 ポレシャ人の旅隊は、1日を先行しているが、『ムーテ』タリウスも無能ではない。

 斥候として若干の騎兵を散らし、複数の街道へと先行させていた。岩場の多い高地に枝分かれした街道筋とは言え、地面にはわずかな泥土があり、十人余の旅隊に痕跡は確かに残されている。まして遊牧氏族。大地に獲物を追い立てるのが生活習慣の一部となれば、本来は見誤る恐れも殆んどなかった。



 しかし、幾つかは誤算が生じていた。砂礫の多い地面に馬の足が思ったよりも疲労し、休息を多めに取る必要があった事。自由都市ズールに交易市が開催される時期ともなれば、街道の往来も増えており、それらしい痕跡が複数、見つかったこと。さらに数日前から雨が降らずに、古い痕跡との区別がつかない状況でもあった。


 サラブレッドほど繊細ではないにしろ、堅い地面を長時間疾走すれば、馬も時に疲労骨折を起こすこともある。氏族も雇われも、騎兵は馬を大切にする。

 特に遊牧民にとって、馬は家族であり財産でもあったから、ムーテがいかに命じようとも、こればかりは軽々しく扱えるものでもない。

 氏族におけるムーテの権力はそれほど強いものではなく、確かな補償を約束できるほどに富裕でもなかったからだ。


 『ムーテ』と言いつつも、タリウス・ヴォルトゥリウスは、残念ながら氏族の絶対者ではない。荷車を改造した即席の戦車――チャリオットに乗りながら、宥め、煽て、時に脅して臣下たる騎兵たちの機嫌を取りつつ、ムーテタリウスは複雑な思考を脳裏に巡らせている。


 いいニュース。連中の辿ったであろう経路の候補を幾つかに絞れた。

 悪いニュース。搾り切れてはいない。大街道であるがゆえに目撃者も多いと踏んでいたが、連中は早朝に進発し、かつひと気の少ない方角へと向かった。


 さて、ポレシャ人たちは、複数ある経路の何処を進んでいるだろうか。分からん、と素直に認めた『王』タリウスは、比較的に他の通路にも向かいやすい位置に本隊を進ませながら、蓋然性の高い街道に絞って斥候を送りつけている。

 いまだに追撃を知らないだろうポレシャ人たちに確実に時間的距離は詰められる位置を取りつつ、いずれかの網に引っ掛かった場合、駆けつけられる中心地点に本隊を進ませている。


 勿論、これではないか、と思える西の街道もあるが、主力を賭けて外れてしまえば逃がす可能性もあった。そこで西沿いには手練の自由騎兵を送りつけつつ、残余の可能性に備え、本隊には可動性を保持(パスファインディング)させている。連中が西の街道を進んでいようが、外れていても、次善の手を打てる位置取りだった。


 

 とは言え、しかし、ポレシャ人たちに対して、人数の差ほどには有利とタリウスは考えていない。遊牧氏族『大地の子サンズ・オブ・アトラス』は、自由都市ズールの領域一帯において、いまだ新参の一勢力に過ぎない。土地勘にも充分、馴染んでるとは言い難かった。

 対して追われるマルグリット・モイラは、百戦錬磨。近場の牧者も連れている。デン戦争以降も噂を集めてみれば、粘り強さとしぶとさに掛けては無類の野武士みたいな女だ。

 怪物溢れる『住宅地』の奥地から生還したと囁かれている。恐らく間道や獣道、隠れ家に抜け道、水場や見通しのいい高台などにも此方よりは詳しいとみていい。



大地の子サンズ・オブ・アトラス』とて、街道の全てを把握している訳でもない。ムーテタリウスは、街道筋の主な旅籠やら宿屋、泊まれそうな村落や農場に絞って情報を集めてさせてみたが、これも目ぼしい情報は入ってきていない。

 帰還していない騎馬斥候たちも返り討ちに在ったか、深追いしてるのか。念の為に奥まで踏み込んでいるのかも、まだ分からない。

 大抵の勢力は、中々に無線機などは所持できない上、雇われ兵などが独断専行しても不思議ではない。


「……やはり狩人かな」一人ごちるようにムーテは呟いた。餅は餅屋。手勢にも幾人かの狩人や牧人たちが加わっている。とは言え、散らして騎馬斥候より役立つとも思えない。

 連中の進路がある程度、明確になった時点で、集中して運用するべきだろうと、タリウスは辛抱強く、捕捉したとの報告を待ち侘びていた。


(牛を連れている。サドラン牛を。羊もいる。見失うはずがない)と地図をそっと開いては、幾度となく道の上に視線を走らせてはムーテは静かに思案を巡らせる。

 極端な話、マルグリット・モイラを討ち取れなくても構わない。囚われのヘレンを取り返し、行き掛けの駄賃としてサドラン牛の二、三頭も奪取する。それで名は上がり、ルキウスに貸しを作れれば充分に採算は取れる。

 後は集まってきた傭兵や無宿人たちに金をばら撒いて私兵を作り、氏族の中での影響力を高める事が出来れば、充分に目的は達成できる。


 獅子身中の虫によって敵残党に売り飛ばされ、虜囚として連れまわされた屈辱の日々に比すれば、計画が思うように進まぬことなど何ほどでもなかった。

 それでも不機嫌そうに首を傾げたり、報告に一喜一憂し、軽々しく喜んでは落胆して見せる韜晦は欠かさない。見抜くものはいるにしても、確信を持っての判別はし辛かろう。この愚かさも衝動も実際にタリウスの一部であり、本人でさえも区別が付かないものであったからだ。


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