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黄昏のガンダルヴァ  作者: 猫弾正
第3章 Z_275年 牛を買い付ける話

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222/273

03_59L 平穏な旅の朝

 夕焼け時に風が吹くと、リトバー村には土埃が舞う。塵に塗れた赤い夕陽が、地平に沈もうとしていた。


 リトバーは貧しい寒村だった。交易路からは外れている。交易で栄える北の町と南の自由都市を結ぶ幹道からは、西へとずれている。細道であまり旅人は通らない。曠野で拾ってきたがらくたと土嚢を積み、木箱や針金、石を積み上げた大人の腰の高さの壁が村を守っている。村人は粗末な槍やこん棒。投石などで近寄る獣や変異獣、兵隊蟻などから畑を守っていた。


 赤茶けた土の上に疎らな麦と雑草が生えている。痩せた土だ。小麦ではない。痩せた土壌では芽を出さない。大麦でもない。この痩せ地では十分に育たない。自然、燕麦か、ライ麦の二択になる。燕麦は粥、ライ麦はパンになる。他に豆畑もある。芋もだ。麦ほどに保存は効かないが、痩せた土壌でも育ち、あまり土を喰わない。


 子供たちは何時も腹を空かせている。時々、旅人の旅隊やら行商人の集団が流れ着くと、大人の目に隠れて食べ物を強請ったりするが、大抵、彼らは素通りして村で唯一の宿屋へと向かってしまう。時々、飴玉やキャラメルなどをくれた時は、兄や妹、弟といつも分けてゆっくりと味わった。


 立派な牛を四頭も連れた旅隊がやってきて宿へと止まった。裕福な旅人だろう。

 村でも余裕のある家のドラ息子たちが旅隊の若い娘らに声を掛けたが、大人衆は顔を顰めた。旅隊の面々は、富裕な遊牧民の戦士が持つような後込め式ライフルを携え、革の上着には軍服のように真鍮のボタンが輝いていた。辺りの貧しい村では滅多に見ない代物で、体を売り物とする旅芸人や、貧しい女放浪者とは明らかに地金が違う。幸い、揉め事も起きなかったが、家に帰った青年たちは親に酷く叱られるだろう。上等な身なりの持ち主は得てして強力な勢力に属しているかも知れないのだ。


 牛たちは飼料を背負い、水のポリタンクを吊り下げていた。

 リトバーには牛はいない。喰わせる飼料がないし、綺麗な水も足りない。

 村は、中世初期のような暮らしを送っている。鉄の農具も貴重だ。古い木鍬や、倒木をそのままに引きずって人力の犂とし、耕すのに使う。エーカーとは昔の単位で、牛を持った農夫が一日に耕せる畑の広さだ。1エーカーを耕すのに、大人三人で三日も掛かる。だから、大半の村人は何時も疲れている。骨惜しみのしない働き者でも、生活は一向に楽にならない。長男や長女が家と畑を引き継ぐと、次男や三男は他所の村や町、都市へと働きに出る。時々、旅人の手で便りがくるが、数年もするといつの間にか途絶える。


 それでもリトバーは自治惣だ。怪物や屍者も少ない土地に自由農民の村として貴族や議会に隷属する事もなく、都市や役人、地主や銀行に税を納める必要もない。

 豊かとはいえない村だが、放浪の若者や旅の娘が時々は留まって村の一員に迎えられる時もある。家がある。そして食べていけるのは、黄昏の時代には小さくはない。リトバーは、他所の土地で追放され、或いは、流れ着いた開拓者たちが切り開いた血と汗の染みついた畑を引き継いで存続してきた。今までも。願わくば、これからも。




 ※※※※




 黄昏の世の寒村では、日が暮れると村人は誰もが明かりを消して家に閉じ篭る。

 村の外では、狼や変異獣、巨大蟻が徘徊しているし、当てもなく彷徨っている屍者が人の匂いを嗅ぎつけるかも知れない。忌まわしい屍者のうちには、幾ばくか生前の記憶や知識を残した個体もいるらしく、民家の明かりを見つけると音もなく這い寄ってきて、扉を叩き始めたりする。


 村の宿屋では日没後も主人と客たちが談笑していたが、とは言え明かりは外に洩れぬように窓をしっかり閉めて、小僧が一々と布を詰めていたし、覗き窓も設置された分厚い扉には厳重に閂を二つも掛けられていた。換気用の小さな穴にも金網が掛かっていたし、いざと言う時は屋上に昇って射撃をできるようにもなっている。


「さて、言うまでもない事ですが、夜中に誰かが戸を叩いても決して開けてはなりませんよ。あまり大きな声で喋ってもなりません」冗談めかして言う主人だが、目は真剣だった。もっとも言われるまでもなく、客の全員が熟知している。大人組が少年少女らに視線をくれたが、皆、承知している様子で頷いていた。

 護送犯『牧者ヘレン』は、宿の人間が見張ってくれるそうだ。死刑にはなるまいが、多分に流刑地送り。両手を緩く縄で縛り、足には短い革紐。中々の美形なので誰かが変な気を起こさないといいが、と思いつつ、撃ち殺される危険を冒して逃げるかは分からない。機会をうかがってるかも知れないな。と少し気掛かりではある。


 「では、おやすみなさい。武器は手元から手放さず、鍵をしっかりかけてください。快適な眠りを」主人の挨拶に頷いたポレシャ人たちの泊り客たちは、やがて、それぞれが大部屋と個室に分かれて散っていった。明日の五時か、六時には出る予定であり、懐中時計を眺めたマギーも、早めに眠るべく立ち上がる。部屋はニナと一緒である。


「犬が吠えても外を見てはいけませんよ」旅隊頭のマギーに態々、就寝前の挨拶に来た主人だが、最後まで注意を口にしていた。

「ありがとう、ご主人。おやすみ」愛想よく振舞っていたマギーが、二人きりになった途端に鋭い目つきに戻った。悲鳴が聞こえても窓を開けてはなりませんと、注意書きが付いた窓の傍に、大きな衝立ついたてが置かれていた。カンテラの明かりが外に漏れないように工夫されている。カンテラの芯は薄く、明かりはか細いが、マギーは料金をたっぷり払ったので一晩分の油は入っていた。


 しかし、マギーは、カンテラを外して窓の近くまで持っていった。古い血の跡に気づいて眉を顰めるが、頑丈な作りや板の厚さ、素材が古く脆くなってないかも入念に確かめてから、ようやく納得したように明かりを元の位置へと戻した。それから扉の閂や床、天井に寝台の下、壁の一部などを同じように触れたり、軽く押して調べてから頷いて寝床へと戻ってくる。宿の者たちが夜に客を襲うこともないと判断したのだろう。とはいえ、熟練の旅人とは、誰もが最悪の事態に備えるものだ。


 戦闘用の手斧フランキスカと大振りのナイフ。それに小型の木製クロスボウをすぐ手に取れる場所においた。藁の粗末な寝台に寝転びながらニナを抱き寄せて「おやすみなさい」と目を閉じた。それから二人はもぞもぞと毛布の中で動いていたが「寝る前クイズ……貨幣経済の波及していない地方なら、なるほど、通貨の価値も落ちる」マギーが急に呟いた。

「都市から歩いて一日の村が通貨を使わないのは、都市の経済圏に組み込まれることを警戒しているのも理由のひとつ?」とニナが応えた。

「……正解」と眠たげに囁いたマギー。「小さな商会とか砦の主でも通貨は発行してるしね」と呟いている。

「だから、私たちもいずれは通貨を発行できるかもね。その時は、マギー・ペンス?」ニナの物言いに「大きな金貨でモイラ・ギニーとかどうかな。ふふっ」と面白そうに返した。

「出来ると思ってないから、ふざけるんだな」ニナはマギーに抱き着いた。やがて穏やかな寝息を立て始める。




 ――――



 目を閉じて見開いた。一瞬のうたた寝か、長い眠りか、区別はつかなかったが、微かな空気の匂いの変化が夜が明けたことを教えてくれた。

「おはよう」とまだ寝息を立てているマギーの頬に口づけてから、ニナは身を起こした。荷物は部屋に置いたまま、クロスボウと肩掛け鞄だけを担いで扉を開き、廊下の様子を窺ってみる。宿の人間たちも起き上がったのか、動き回っている気配があった。マギーは完全に起きた訳ではないので、扉の鍵を開けたまま部屋に一人起こしていくのは不安が残った。と、目を擦りながら廊下を歩いてくるイザベル・ミラーの姿が近づいてくる。片手にはトイレットペーパーを持ち、ナイトキャップを被っている。「……といれぇ」と聞いてないのに教えてくれた。見れば分かる。

 ニナはクスリと笑った。


 安い宿屋だと、木製おまるとか。宿の外に掘った穴とかで用を足すのだが、この宿屋は立派な便所が三部屋も設けられている。トイレにふらふら入ったイザベルが用を足して出てくる。水道なんて便利な施設はないので、ヴィクトリア時代風の陶器製手洗い鉢に歩み寄った。ぱちゃぱちゃと手を洗ったあと、「……スージー、タオルぅ」半分、寝ぼけている。スージーじゃないぞ。と言いながら、ニナがタオルを貸してやると手を拭いてから、フラフラと廊下を逆戻りしていった。


 肩を竦める。と、部屋の中で窓を開ける音がした。マギーも本格的に起きたようだ。ニナも先にトイレを済ませることにした。なんと言っても、曠野の旅の最中では、警戒しっぱなしでどうしたって落ち着かないからだ。


 それから柔軟体操を済ませ、顔を洗ったあとに朝の散歩をする。マギーは地図を携えてルークやエマ、ついでに付いてきた狐のグラハム・バートンと簡単な打ち合わせに赴いてる。出発の前には毎朝、簡単な打ち合わせをするのだ。大人組の話し合いもそれはそれで興味深いが、今は初めて訪れた村に好奇心が向いていた。


 知らない村なので、何が起こるか分からない。旅人が行方不明になったとは耳にしてないので多分、大丈夫だろうと踏んでいるが、宿の周りを軽く見て廻るだけにとどめておく。柔らかな陽光の下、村人たちはもう野良仕事に出ていた。

 早朝が一番涼しく過ごしやすい時間帯だから、何処の土地でも夏には似たような時間帯に農作業を行う。手頃な石に腰かけると辺りの風景を眺めながら、スケッチブックを取り出した。ニナの袖口と腰にはナイフ。傍らには木製の軽クロスボウを置いてある。



 赤茶と灰色が入り混じる畑、鉄分を含んだ貧しい土壌も含めて曠野の典型的な田園風景だ。丘陵を越えたポレシャ一帯では、茶色の地平が広がっている。ポレシャ人が根気強く土壌を改良し続けた結果だが、元から豊かな土が残されていたとも聞いていた。村の貧しさは、だから、どうしようもない必然的な帰結に思えた。ニナごときの知識と知性では、なにも思い浮かばない。この地に生れ落ちていたら多分、同じような農民として大地にしがみついていた。リトバー村は、既に養えるだけの人を養っているようにも見える。


 今は行商で稼げるようになったが、ポレシャ市に移り住んだばかりの頃は、ニナとマギーも時々、日雇いで野良仕事を行った。現物払いの多い仕事だが食べていける。朝食のパンが焼かれる匂いが漂ってきたが、廃墟育ちのニナの胃袋はあまり大きくない。軽い粥だけ残して貰えば十分なので、ペンを動かし続ける。ニナの体質なら出発直前にお腹に入れても、栄養になるのに時間がかかることはない。マギーは逆に空腹にかなり弱い。食べないとすぐにフラフラになるし、食後しばらく経たないと元気が出ない。身体の大きな人は大変だ。「本人は、こんな馬鹿な……」とか唸ってたが、身体が大きくなれば体質が変わるのも当たり前だよ。



 マギーは腕が立って用心深いが、さりとて無敵でもなければ不死身でもない。ルーク・アンダーソンは、寿命の前借みたいな濃いコーヒーを好んでいる。エマ・デイヴィスも、あまり食べない代わり、よく軽食を齧っている。いずれも信頼できる腕利きで、二人みたいのがずっと旅の仲間になってくれると心強いのだけれど、とニナは思うが、一人前の大人なんて既に己の生活と生業を抱えているものだ。

 信頼できる人間がいても大抵、既に他の誰かに必要とされている。当たり前か。当たり前だ。ニナは、絵が好きだ。ミレーやモネを思わせるような筆致で、知らない村人たちの姿を絵に残しておく。旅の思い出を残すように。曠野には、何が起こるか分からない。次に訪れた時に、跡形もなく消えてるかも知れない。もっとも、いつ死ぬか分からないのはニナも同じだ。


 ある程度を描いて、しかし、時間切れだ。マギーが向かってくるのが見えた。名残惜しいが、悪くない時間を過ごしたと打ち切って立ち上がった。それからマギーに抱き着いて匂いを吸い込んだ。

 

 これから知らない街道を進む。新しい道を行くときは、いつも不安が胸を襲う。

 今日を当たり前のように享受できるだろうか。明日の朝を生きて迎えられるか。

 それは誰にも分からない。曠野の人生だ。

 勿論、今は人数もいるし、武装もしている。

 多分、大丈夫だ。裏道を使っているし、盗賊団は避けられると思う。


 いや、牛四頭だ。

 目敏い盗賊の斥候が、本隊に知らせに走ってないだろうか?

 あまりこの道はよく知らない。待ち伏せに絶好の地がないかも分からない。

 リスクとコストの常識的な範疇で、打てる手は取りあえず打った。

 装備を点検し、どれだけ警戒しても、時として腕利きでさえ命を落とす。

 朝方、笑っていた友人が、夕方には死んでいた日も幾度かはあった。

 今日の終わりにニナか、マギーのどちらかが欠けててもおかしくない。

 都市や大きな町の市民でもない限り、曠野に生きる人は誰もが同じだ。しかし、刹那的にならず、明日を見据えながら人生を慈しむように生きている。今日も一日、生き延びられますように。

 ―――もし叶わずとも、最低でも敵と戦う機会は与えてくれるよう、ニナは祖霊と八百万の神々エイトミリオン・ゴッズに祈った。



 ※※※※



 ムーテタリウスの大天幕は、建物の屋根と屋根の間に布切れを通すことで、日差しを遮る屋根としていた。天井は高く、間取りは広く、火を燃やしても問題ないほどの広大な空間から、夜の通りへとぞろぞろと人が吐き出され、荒くれどもが走り去っていった。

「スネイクバイトを討ち取ってやるぜ!」ぼろ着を着た傭兵たちが気勢を上げている。ほう!ほう!と雄叫びを上げ、剣や斧を振りかざし、或いは銃をぶっぱなしている。「徒党を集めろ!」と叫んでいる傭兵徒党の頭もいた。武装鉱夫が力こぶを見せながら賞金は俺のものよ!と叫び、自由騎手や遊牧民などが馬の鞭を振って自信ありげに笑っている。


 行商人に自由労働者、出稼ぎ農民や職工らは戸惑ったように、興奮した呟きを洩らしており、武装放浪者や牧者、一部の鉱夫にも顔を見合わせてから首を振る者がいる。人を狩る行為に良識で拒否感を覚えたのか。危険な曠野に出て凄腕を追跡する気にはなれないのか。それにしても【ムーテ】と言う称号と血筋の権威が、都市の庶民たちに一定とはいえ敬意を払わせるのは、ルキウスにとって新鮮な驚きであった。宮廷に出入りし、様々な噂を耳にするのも、確かに有用かも知れない。王国を追われた、放浪の王だとしても。



 都市に塒を持つ浮浪者ホーボーや乞食、それに新聞屋の小僧や下女、召使などの都雀たちは面白そうな顔で囁き合っていた。中には、貴族や有力商人の耳も混ざっているだろう。都市には都市の、草原の遊牧民とは違った強かさが根付いている。しかし、明日には都市中に噂が広がっていてもおかしくない。或いは、それがタリウスの狙いだったのか。


 予想を超えた展開に族長ニウヴルキウスも立ち尽くしていると、傍らにコルが立った。

「面倒なことになりましたな」

「随分と控えめな言い方だ」族長ルキウスは、急速な笑いの発作に襲われた。

 くつくつと笑いながら「……タリウスを侮っていた」呻きを洩らした。合流するまでは辛酸をなめていた男だ。牙を隠していたとしてもおかしくなかった。

「見事に騙されました」コルも頷いた。


 大天幕から足取りも重く退去したルキウスは、離れたベンチに腰降ろした。

「……衝突を避けながら、ポレシャからレニを買い戻す手もあったが」

 黄昏の世には、よほどの凶悪犯でなければ、犯罪は金で償える。だが、スネイクバイトがポレシャ市に使嗾されてるとすれば、その段取りさえも難しくなったと愚痴を洩らした。


「しかし、タリウスめ。神輿の座に飽き足らず、己の兵団を作るつもりか」ルキウスがぼやいたが「これを機に、氏族での影響力を増すのも狙いかも知れませんな」とコルが頷いた。

 最悪、ポレシャ市との全面抗争に陥りかねないが、タリウスはそれをも利用して兵団を集める気か?

 表面的に見ればまったく割の合わない判断ではあっても、おのが利益を追求して、共同体を危険に晒す野心家とて儘いるものだ。それにズール都とポレシャ市は、穀類や羊毛の交易で利害を争っているとも耳に入っていた。或いは、【ムーテ】も都の有力者のいずれかに使嗾された結果か。それとも、狂気の賜物か。


「ともかくも、まずは若衆たちに釘を刺さねばなりませんな」断固とした口調で言いながら、コルは『王の軍団』を睨んだ。無宿人ノークォーターや傭兵どもが一獲千金を夢見て、危険な戦いに身を投じるのは勝手だが、氏族の若者が踊らされるのは、まったく気に入らないと吐き捨てる。それでも、二十歳以下の采配は長老連に任せておけばいい。放浪生活の苦労を知ってる年長者も多く、十年近い苦労の末にようやく安住の地を得たばかりだ。乗る者は、若年者にはそう多くないと思いたい。


 問題は、二十の半ばから三十歳ほど。血気盛んでかつ放浪生活に鬱屈し、王の親衛隊を気取って取り巻きしている面々だ。戦士衆にも騎手にも無視できない程度にはいた。連中が故地デンを追われた時は、二十歳から二十五歳。皮肉なことに丁度、中堅と呼べる年齢の彼ら彼女らには、氏族を守るために貴重な装備を与えていたが、これが裏目に出たと考えれば、流石にルキウスも腸が煮えくり返るような怒りを覚える。


「まず、騎手の幾人かは、王の命に嬉々として動くでしょうな」コルの言にルキウスも渋々と頷いた。ことは族長ニウヴの統率力だけではない。マルグリット・モイラは、仇敵スネイクバイトの首魁のひとりとなれば、どうしても激情に駆られる者は出よう。今さら血を流してなんとなる、とは、まだ守りたいものを持つものの理屈だ。デン戦役に家族や恋人を失った者もいれば、そればかりは責められまいよ、と一部の戦士の離脱を族長ニウヴは覚悟する。


 ルキウスは、ムーテタリウスのもとに集まった顔ぶれに視線を走らせながら、考え込んだ。集まった傭兵、無頼に冒険者の類を見るに一人一人はそれほど大した連中ではないが二、三十人も集まれば、意外と厄介な布陣に見える。この流れに自由騎兵なども加われば追手としては馬鹿になるまい。

「これは……意外と」とはコルの評価だ。或いは、マルグリット・モイラの首に届きうるかも知れない。それはそれで問題もあろうが。


「俺も出る」族長のルキウスの言。もの問いたげなコルの視線に、現地で逸り立つ氏族の兵どもを抑えてみようと狙いを告げる。

「不思議はあるまい。俺にとっても親父とムキアの仇でもあるからな」名分はある、と告げる族長ニウヴ

「……しかし、それでは」コルは渋るが「畢竟ひっきょう、スネイクバイトが死のうが生きようが俺にとってどうでもいい」ルキウスは鋭い目を腹心へと向けた。

 族長ニウヴとしては、利のない戦に氏族の兵の損耗を避けたいだけだ。

「レニを救い出したら、すぐに氏族の兵を纏めて退き返す」上手く運べば、とはルキウスは口にしなかった。レニと兵のどちらが大切かは、まだおのれの胸のうちでも判断が付かない。

 コルは少し沈黙してから頷いた。

「……スネイクバイトは、百戦錬磨。或いは、思いもよらぬ大きな損害を被るやもしれません。ゆめ油断なさらぬよう」コルの忠告に、族長ニウヴルキウスは頷いた。

「留守は、お前とカレル爺さんに任せる。残りの兵たちは拠点を固く守り、けして動かすな」



 



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