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黄昏のガンダルヴァ  作者: 猫弾正
第3章 Z_275年 牛を買い付ける話

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03_57J ミリーの選択

 見知らぬ人々とサッカーをしたが、久しぶりに楽しかった。誘ってきた渡り人(オーキー)の娘さんは終盤、見ず知らずやあまり知らない相手に声を懸けて遊びに入れていた。夕刻が近づくと辺りが暗くなる前に打ち切ったが、サッカーボールはきっちりと仕舞いこんだ。遊びの後に取り出したメモは、今日だけで知り合った三人だか、五人だかの名前と情報を記入したのかしらん?ミリーの名前も入っているのだろうか。治安の悪さを鑑みた上で、人懐こく振舞えると言うのは、用心深さと賢明さを兼ね備えていると窺わせたし、時刻を宣告してから打ち切る態度は、他者の勝手な期待に背いて嫌われる事も恐れていない。己に向けられる好感と嫌悪の量を見切っているのだろうか。他人の目に映る己を俯瞰できるならば、未成年としては中々の資質だと思えた。少なくとも、ミリーには、どちらも不可能な仕草である。


 人を率いる者たちにしか見えない視点があるのかも知れない。ミリーの父リドリーなどは人の上に立ちたがっていた癖、暴力やら暴言で威圧して、優位に立つやり方しか知らなかった。一時的に他人を委縮させても、支配……いや、隷属か。鎖につなげるのは、逃げられない年少の家族くらいのものだ。


 そこら辺の居留地の下層地区にいる、少年少女の餓鬼大将ですら出来るやり方をリドリーは四十年生きてきて欠片も身に着けなかった。だから、リドリー親父の傍らには、まだ良く知らない相手か。殴り返せるか、言い返せるヤツしか集まらなかった。それらも他に相手されるなら、もっとましな相手とつるんでいただろう。ようするに、リドリーと同じ考えなしか、暴力的か、その両方だった。


 暴力に慣れた牧者の家に大勢で突っ込んだのは、いかにも無思慮なリドリーのやりそうなことで、父を筆頭に不平屋と不満屋、大金の損失に焦って判断力を喪失していたあわてんぼう。物をよく考えない連中が多かった。普段つるんでいたうちでも暴力的な連中の幾人は、危険への嗅覚が優れていたのか。もっと早い段階で冷静になっていたようで、リドリーにはついて行かなかった。

 要するに、リドリーが口先やら上辺だけ装っていた判断力や行動力なんてのは内心、見下していた暴力的な放浪者どもにすら及ばなかったのが実情で、人生の結末なのだ。


 さて、リドリーが色々と積み上げた人生の負債だが、それを支払うように求められるのは当然に『リドリーの娘』ミリーだ。ミリー自身は逃げたくても、他人が債務ツケを払うよう求めてくる。仲間の放浪者たち。渡り人(オーキー)よりも荒っぽく、剥き出しの利害と暴力で動いている、寄る辺ない崩壊世界ポストアポカリプスの野良犬たち。


 渡り人(オーキー)と放浪者には、さしたる違いはない。社会的には、渡り人(オーキー)でも、放浪者でも好きに名乗ることは出来るのだ。

 それでも渡り人(オーキー)と名乗る者は、定住する場所を探している節が強い。小さな土地にささやかな水場、風雨を凌げる屋根。小さな共同体を築いて、己の掟を定めるのも、放浪者の徒党や集団と同様だが、渡り人(オーキー)たちの多くは、比較的に社会規範を守ろうとし、小さな社会を築こうとする。


 盗んではならない。犯してはならない、など規範は相対的に緩やかだが、その分重たく、破った者は追放される。追放者の名はやがて渡り人(オーキー)たちの世界に知れ渡り、居場所を無くしていく。おそらく、史実の渡り人(オーキー)よりも、スタインベックが描いたOkie像に範を取ったのだろう。法に見捨てられ、曠野を彷徨い、それでも人の形を保とうとする者たち。少なくとも『渡り人(オーキー)』の一部は、倫理を失わずに、崩壊世界ポストアポカリプスを渡ろうとする人々と、その系譜に連なる者の末裔に違いなかった。


 勿論、誰でも名乗れる渡り人(オーキー)を信頼するのは危険だ。しかし、成れるものならミリーも渡り人(オーキー)に生まれたかった。渡り人(オーキー)と同様、放浪者たちの世界においても共同体に大きな損失を与えたものには制裁が加えられる。しかし、それは弁済や追放ではなく、多くの場合は私刑だった。


 ミリーも償いを課された。所属している放浪民の共同体は、小娘に制裁を下すほど悪辣でもなければ、暴力的でもないけれど、危険な任務を果たさなければならない。共同体から金を騙し取って逃亡した詐欺師の追跡。生きて帰れるかは分からないが、その前に人生を楽しめたことは良かった。



 ※※※※



「これは、死ぬんじゃないか」書類を眺めながらの保安官補キャメロン君の呟きに、保安官助手であるマギーちゃんは、「なんだい、縁起でもない」と眉を顰めました。

 二人は同僚である。臨時雇いの保安官助手マギーちゃんは、下町暮らしの渡り人(オーキー)だが、元賞金稼ぎなので、盗賊や変異獣が暴れたなどの荒事がある度に安い俸給で呼び出される気の毒な女の人だ。


 保安官事務所には、ほんのり煙草の匂いが漂っていた。壁には、荒れた地図や書類が無造作に貼られ、片隅には無骨なデスクと椅子が並んでいる。崩壊世界ポストアポカリプスには珍しい電灯がチカチカと明滅している下で、比較的に綺麗なデスクに肘をついたキャメロン保安官補は、書類を眺めて小さく唸っていた。


 キャメロン君は市民の子弟だ。学校の成績も優秀だったが、市内には仕事が見つからなかった。いかに市民とは言え、四男までも尻で椅子を磨く仕事を用意できるほどにポレシャは都会ではないし、市民も特権階級ではない。結果、卒業後に仕事を探していたキャメロン君は、ホワイトカラーだよ、と優しく囁く親戚のおじさんとお姉さんに騙されて、保安官事務所で悪党と撃ち合う人生を定められしまった。哀れな青年である。親のもう少しゆっくりしていていいんだよ、と言う優しい言葉を聞いていれば良かったと後悔したものの、悪辣なおじさんが参事で、狡猾なお姉さんが保安官なので、本気で退職でき(にげられ)ない。



 マギーちゃんの本職は行商人である。でかい都市やら街、交易市に赴いては、それなりに使えるジャンク品や物資、服飾などを仕入れてくる。しょっちゅう、盗賊に遭遇しては持ち金を巻き上げられているが、逆に言えば、盗賊に遭遇しても、安全を確保できるだけの身代金を支払っているのだ。暮らしていくには十分な収入を得ているようだと参事で税務署長のサリー小母さんもさりげなく見守っている程度には、稼いでいると見なされていた。


 最近はとみに商売も順調なようで、都市から仕入れたと思しき綺麗な衣服を市民に売り捌いて大枚を稼いでいた。荒野の大規模居留地では、正規居住権や市民権は流れ者相手に早々、交付される代物ではないが、マギーちゃんは特別扱いしてもいいとさえサリー小母さんには評価されていた。市民権を売りつける気満々で、いずれマギーちゃんが商売を拡大する日が来たら、きっと市民としての義務も果たしてくれる優良な納税者になってくれるに違いないと、納税担当のサリー小母さんは手ぐすね引きながらその日をずっと楽しみにしているのだ。


「哀れな放浪民の娘が、たった一人で都市に向かって犯罪者を捕まえられると思うか?」キャメロン君の質問に、マギーちゃんは、静かな微笑みを浮かべて躱した。

「そこも含めて、君が裁量するんだよ」

「くそっ、新参にヒントのひとつくらい与えてくれよ」

 マギーちゃんは先輩だし、他の副保安官たちもいるのに、誰もヒントや指導を与えてくれない。新参に過ぎないキャメロン君の采配に全て任されている。

「その分、君が経験を積んで、早く副保安官になる事をみんなに期待されてるんだよ」そのマギーちゃんはしゃくな事に、苦悩するキャメロン君の苦虫を嚙み潰したような表情を楽しんでいた。


 マギーの読み取った指摘は正しいだろう。保安官事務所は人材が足りない、とは言われていた。先年、巨大蟻の襲撃で保安官と、副保安官一名が戦死している。市民から生え抜きの副保安官を急ぎ、育成しなければならない。キャメロン自身も、己が幹部候補生として期待されていることは理解している。キャリアを積むことを期待されてるのは薄々、承知しつつ、実際に哀れな娘の命運を多用なりとも左右できる権限を持てば、失敗しても、成功しても、経験を己の糧にせよと言われようと、やはり最善は尽くしておきたい。


「私もサドラン牛の件だと、当事者に近いし、残念だが力添えはできないねぇ」穏やかに微笑みながらのマギーの物言いに、額に青筋を浮かべたキャメロン君だが、「マギーさんも、市民になる事を期待されてるよ、きっと」キャメロン君は、税務署長のサリー小母さんの優しげな笑顔を思い浮かべながら、優しく先輩に微笑み返した。

「大丈夫、君なら出来るさ。キャメロン」必要な書類だけ手に取ると、マギーが勇気づけるような言葉を掛けてくる。

 無責任な励ましに乾いた笑みを浮かべるキャメロンだが、マギーは微笑みを重ねると「単に指示を待つのではなく、自分の立ち位置を理解し、そこからどう動くべきかを考えている。十分に優秀だよ」

「その若さにしては……だろう?マギー君」マギーはニヤリと笑うと、踵を返した。手を振りながら、さっさと立ち去ろうとする先輩の背中に、キャメロンも、また応援の声を懸けた。

「頑張って稼いでくださいね、マギー」と、税務署に目を付けられているマギーにこの先、待ち受けてる運命を思えば、キャメロンとて多少の意地悪も笑って許せる気持ちになると言うものだ。


 溜息をついたキャメロン保安官補が伸びをしてから立ち上がると同時に、事務所受付に面した留置場の鉄格子の内側から低い唸り声が上がった。まるで死に損なった屍者の呻きみたいだな、想いつつ、キャメロンは鉄格子に掴まっている襤褸布めいた怪人に優しく猫撫で声を懸けた。

「デイヴィスさん。おうちに帰る気になりましたか?」

「も、もう二、三日止めて欲しい。まだ、家に帰るのは恐い」怪人がぼそぼそと声を洩らした。

「留置場はホテルじゃないんですけどね」呟いたキャメロンだが、デイヴィスは住居を暴徒に襲われた哀れな被害者であり、報復を恐れて逃げ込んできた身の上だった。

 正規の牧者株を持つ登録された羊飼いでもあり、保護を求めてきた以上は、見捨てる訳にもいかないので、空いてる留置場で寝泊まりさせていた。


「そ、それにしても……ス、スネイクバイト」鉄格子を掴みながら、牧者の娘エマ・デイヴィスが囁いていた。

 マギーが過去に属していたとだけは耳にしてる賞金稼ぎ集団の名。世代より少しだけ古いので、実はキャメロンは良く知らない。

「知っているのかね?」とキャメロンが若干の興味を示して尋ねると、エマ・デイヴィスは首を振った。「へ、辺土も……存外狭い。曠野には、助けられた人間も、痛めつけられた人間も少なからずいる」

 キャメロンは、フッと笑ってから牢内を覗き込んだ。

「それで、君は、どちらだ?」




 ※※※※



 保安官事務所には、幾人かの選ばれた追跡者たちが公的な書類を発行してもらうために訪れていた。犯罪追跡者の為の仮身分証ともなる、低信用の証明書。ランクはⅮ。単なる放浪民の儘、追跡者を追いかけるよりはましだけれど、他所の土地で公的な支援を受けられる訳でも、何らかの割引がされる訳でもない。単に私的に犯罪者を追いかけているもので、調べた限りは一応、裏はありませんが発行元のポレシャ市はなんら保証するものではありませんと言う、最低限の身分証明書だ。


 それでも警官やら警備兵などは一応、目こぼししてくれるし、時には入門税を負けてくれる。賞金稼ぎの類などが同情して情報を分けてくれることもある。


 書類を発行するキャメロン保安官補は、冷たい目つきで一同を見渡してから、全員分の書類を一人ひとりと手渡してくれた。

 一応は、同じ放浪民の共同体に所属し、同じ被害者であるはずのミリーには、しかし、誰も話しかけてこなかった。目すら合わせようとしない。まあ、父親の仕出かしたことを鑑みれば、それも仕方ないだろう、とミリーは口元を歪めた


 他の者たちは、五人、三人、四人と集団で徒党を組んでいるが、ミリーは所在なげに一人で部屋の隅に佇んで、最後に書類を受け取った。期限付きの書類で、この期限が切れたら、他の追手たちは戻ってくるのだろう。しかし、ミリーに戻ってくると言う選択肢は許されているのだろうか?

 死ぬんだろうな、となんとはなしにミリーは思った。目の前の若い保安官補、キャメロンと言ったか。冷たい目で、しかし、微かに戸惑ったような視線には同情の光が浮かんでいた。


 そうしてミリーの手元にも、薄い紙切れが手渡された。ポレシャ市発行のランクD身分証。身分証としての信用は殆んど最低限の代物だが、取りあえず犯罪者ではない事と、犯罪被害者として容疑者を追いかけている事だけは期限内は保証してくれる。ポレシャ市はそこそこに大きな居留地ではあるが、他所の都市で、インクの滲んだ安っぽい紙の身分証が威力を発揮するような大勢力には程遠かった。せめて正規の賞金稼ぎなら、通行証替わりなり、食事や宿泊の割引などを受けられる、もう少しまともな身分証を発行してもらえただろうけれど。


 市民や正規居住者からなる正規保安官が領域外への追跡に出る場合、AからBの身分証を携えている。聞き込みをしてきた都市捜査官に身分証を見せられたことがある。質感から異なっている革の紙入れに入ったライセンス。贋作を作るにも手間暇が掛かるだろうし、騎馬伝令や無線、腕木セマフォ通信なりで身元確認もされるだろう。要するにD級の身分証は、偽造される価値もないのだ。


 死んでこい、という事でありますか?とミリーは思った。

 死にたくねえ。わたしゃ、死にたくねえ。口に出せてそう言えたらどれほど良かったか。音頭を取って共同体の資金を詐欺師に預けた挙句、後は八つ当たり気味に牧者の住処に乗り込み、犬死した父親の所業を考えれば。


 一人で死んでくれりゃ良かった。複数名を巻き込んで、皆殺しにされている。父親は、いつもなんでも一人で決めて、第一印象だけであいつは信じられるとか、他人を馬鹿にしたり、騙されたと指摘すれば、不機嫌に怒鳴るような男だった。

 頑固なくせに浅はかで、独りよがりな男だった。その癖、一度、目下に見た相手には居丈高になって、相手を見誤った挙句にあっけなく殺された。黄昏の世に珍しくもない阿呆な死に様だ。知った事か、と思う。父親の暴走を止めなかった癖、その娘に責任を押し付けるような糞どもの思惑で何故、私が死ななければならない、と内心で怨念を抱きつつ、ミリーは表面上は、ぼうっとした様子で保安官事務所を見回した。


 他の追跡者たちは、身分証を受け取った後、保安官補に礼を告げたり、仲間で囁き合いながら、足早に事務所を出て行った。放浪民にとっては、保安官事務所は居心地のいい場所ではない。

 最後に一人だけ残ったミリーを見てから、「君は、一人で行くのか?」若い保安官補の言葉は『正気か?』と尋ねるような調子だった。

「はぁ……」ミリーの喉から小さく曖昧な返事が漏れた。言葉というよりは、呼気に近い音。質問の意味は分かっているけれど、どう答えていいのか分からない。行く以外に道がない、けれど言い切るには気分も重たい。


 きっと、さぞ、意志薄弱な娘に見えるだろう。しかし、それがミリーの処世術だった。軽んじられ、侮られることで注目を浴びずに生き延びてきた。己一人の行状であれば、大したことを仕出かさずになんとかそれで生き残ってきたのだ。誰も期待せず、代わりに大きな仕事も押し付けられない。しかし、今、ミリーは己以外の人間が仕出かしたことで、責任を取らされようとしていた。


 書類の角を無意識に指でしごきながら、ミリーは目線を伏せた。薄い身分証の感触は頼りなく、風が吹けば飛んでいきそうだ。この薄い紙切れ一枚に、未来が預けられているなんて冗談みたいに思える。


 目の前のキャメロンは少し沈黙したあと、ため息ともつかない音を漏らした。視線は鋭いが、攻撃的ではなかった。冷たく見える目の奥には、どこかに戸惑いと、ある種の誠実さな光が潜んでいるようにミリーには思えた。


「危険な旅になる。護衛……いや、誰かと組んだ方がいい。できれば、信頼できる奴と」護衛と言いかけた保安官補だが、流石に放浪民に雇える筈がないと気づいたのだろう。赤面して、言い直した。当たり前の助言だ。それをわざわざ言うということは、ミリーが一人で行くと理解したからに違いない。

「信頼できる人なんて、いませんから」ミリーは少しだけ唇を歪めて、ようやく声らしい声を出した。「……一昨日おとついまではいたけど、牧者に喧嘩を売りにいって死んじまいました」ミリーはヘラヘラと笑いながら言った。哀しいのだが、感情を悟られないように韜晦している。親父さんに殴られないよう、普段からへらへら笑ってなにもかもを誤魔化すのが、ミリーのやり方だった。


 キャメロンは返す言葉を見つけられなかったのか、微かに目を細めたが、そこにはミリーが慣れている軽蔑や侮蔑の感情は感じ取れなかった。

 言葉を探すように、キャメロンが視線を彷徨わせたとき、鉄格子のなかから変な叫び声が上がった。

「おおっ、なんだ?!」キャメロンや他の保安官たちがやってくる気配の前に、角笛を吹いていた襤褸布のような怪人が「わたしだ!」叫んだ。

「わたしが君の身内を殺した!」



 呆然としているミリーの目の前。

「大勢でやってきて武器を振り回した!殺されると思った!だから、謝罪はしないぞ」んみあ!と叫んでから、襤褸布の怪人は言葉を続けた。

「だけど、君。横で話を聞いていたが、ひどい話だ。八つ当たりの被害者だ。だから、一緒に行ってやろう」ミリーが口をパクパクさせていると、再び怪人は叫んだ。「もし、殺したいと思うのなら、好きにすればいい。わたしも身は守ってみるが、その時はその時だ」

 大勢の保安官やら事務員やらが見守る中、キャメロンが咳払いして「本当にそれでいいのかね?」と怪人に尋ねかけた。

「わ、わたしは、それでいい。いや、それがいい」怪人が高らかに宣告した。

 キャメロンが鍵を開けると、怪人は留置場から出て来て、ミリーに語り掛ける。

「君は、まあ、好きにしろ。断ってもいい。私を連れてってもいい。途中で襲ってきてもいいし、ヘレンを追跡してもいい」

「あの……その」

「で、どうする?」問われたミリーは何故か、猛烈に眠くなって欠伸をしてしまった。


 怪人は怒った様子もなく「高ストレスの状況下に弱いな。無力感が強い為、ストレスを感じやすい。親のない子羊と同じだ」淡々と呟いてから、ミリーを眺めて頷いた。

「一人では生き残れないと思うよ。私を連れていく事をお勧めする。私とカンマーラーダーライフルが付いていれば多分、二、三人の追い剥ぎや部族なら追い払える」

 静かな自信には確かに頼れそうな雰囲気が漂っていたが、ミリーには判断がつかない。何故なら、目の前の怪人には、ミリーを助けても得する理由など一つもない筈だったからだ。

「君が生き残りたいと思うのなら、受けた方がいい」キャメロン保安官補の言の響きは、言葉の内容ほどには自信はなさそうだ。しかし、ゲリースーツの布切れの奥で覗く二つの丸い瞳は、静かにミリーを見つめている。

 信じられると感じられた訳ではない。或いは、流されたのかも知れないが、

「……お願いします。私を助けて……ください」少し情けない返答を掠れた声でミリーが告げると、怪人は頷いて放浪民の娘の手を掴んだ。

「エ、エマ・デイヴィスと言う」少し冷たく、しかし、固くて力強い握手だった。


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