《竹雪:神はここにいて世はそれなりにこともなし》
テルセゼウラ王国。
あるいは、魔法陣国テルセゼウラと呼ばれる俺たちの国。
建国から一年半がたったこの国に、明日ラスタル神王国から新しい神王陛下がやってくる。
つまり、ウィラくんがやってくる。
正確にはもうテルセゼウラの国内には入っているけど、王都に着くのが明日になるって感じかな。
ベルートラスから滅びの都まで、何もなかった草原地帯には今では立派な道ができている。その街道沿いにはいくつかの町もあって、そのひとつに今夜は泊まっているわけだ。
街道の町は結構立派になったよ。
スルディアの元お姫様で、クレオさんのお嫁さんのフィリナさんがすごいんだ。今はテレシー女王の下で宰相をしてくれている。
もともとクレオさんとテルセゼウラの復興計画は練っていたらしく、シュザージと一緒に現在に合ったやり方で次々計画をあげて成功させてくれたよ。すごいね。
シュザージは感覚がどうしても百年前だから助かったって言ってた。
ちなみに、クレオさんは隠密兵総長になってるよ。今回は顔馴染みだからとウィラくんの出迎えに行ってくれている。護衛兼変な人が紛れ込んでないかの偵察だって。ああ、スタングさんはラスタル神王国でお留守番。神王と神王補佐が同時に国を開けるわけにはいかなかったって泣く泣く向こうに残ることになったと、通信の術道具で知らせて来た。
術道具は随分進化したよ。まだ映像までは送れないけど、人死には出ないし術に使う力も少なくて済むようになってきたって。
そうそう、テルセゼウラ建国と同時にやって来たウェルペティ神王国国王の末の妹、ルーシラさんもすごかった。アデレイさんじゃなくてちゃんとルーシラさんね。外交関係はほぼほぼ任せられるって。ルーシラさんは真剣に仕事をしつつ結婚相手を探しているよ。魔法陣学習は部下の何人かが担当してて、こっちも真剣真面目に取り組んでくれている。しかも楽しそうだ。
滅びの都も名前を改めて、王都ミドリナと呼ばれている。
シュザージってば、最初俺の名前をつけようとしてたから断固反対してやめさせた。やだよ。恥ずかしいよ。
それで、色々考えてこうなった。
色々の詳しくは言わない。
魔法陣研究や修学についてはじーさん先生、じゃなくて、オーリー先生とトルグさんミリネラさんが中心になって取り仕切ってくれている。
シュザージが色々と忙しいから、あまりそちらに手をかけられなくて歯痒いみたいだけど、慌てても仕方ない。
いずれ魔法陣学園を開けるように、今は先生の教育に力を入れてもらっている。なかなか大変みたいだけど、楽しみだね。
そんなわけで、テルセゼウラはじんわりと復興しつつある。
そんな中、やって来るラスタル神王国の新しい神王様。出迎え準備は大変だったけど、来いって言ったのがこっちな手前、頑張った。
約束より半年時間が経っちゃってるけど、どっちも大変だったから仕方がない。ウィラくんが即位したのはあれからきっちり一年後だったんだけどね。
バロウ神王国で揉め事があって、支援しなきゃいけなくなったんだって。
ウェルペティの本物のアデレイさんが協力してくれたおかげで、モーリス王子が無事にバロウの神王になることになったらしい。今は即位の準備中。ウィラくんより半年遅れだ。
ちなみに、ウィラくんとパレアーナさんはまだ結婚はしていない。婚約中だ。文通しててすっかり仲良しになったらしいけど、結婚はテルセゼウラ訪問の後、俺たちも招いてしたかったからだって。
またラスタル神王国へ行くんだよ。
楽しみだ。
出迎えの準備も一通り準備も終わって、俺たちはお城の王族居住区の最もプライベートな居間にいる。俺の要望で、床に厚手の絨毯を引いてテーブルとクッションを置いてゴロゴロできる場所を作ってもらった。冬にはこたつを出すんだ。
その部屋でテレシーに入れてもらったお茶を飲みつつ一息入れていたら、突然外から窓を叩く音がした。
ここはお城の上階だし、俺の力を混ぜたリドルカさんの魔力でシュザージが完璧な守りの魔法陣を描いてくれている。
みんなが一瞬緊張して窓を見れば、ふわふわ浮いたおばちゃんが手を振っていた。
「こんばんは。お話しに来たのよ。入れてくださいな」
そりゃあびっくりしたよ。
窓の外にいたのは神降地の神様、ニーレおばちゃんだった。
「神術で、他の者には気取られないようにしている、ようだ」
と、言って警戒を解いたのはリドルカさん。
「なぜこんな忙しい時に来た。しかも空から」
頭を抱えてぼやいたのはシュザージ。
「まあまあ。とりあえず入ってもらいましょう」
絨毯から起き上がり、窓辺へ向かうテレシー。
俺もテレシーと一緒に窓辺へ行く。俺が行けばリドルカさんも来るし、テレシーが動けばシュザージも来る。
みんなでニーレおばちゃんを迎え入れた。
「ありがとう。お久しぶりね皆さん。明日にはウィラネルドくんが来てタケユキさんの話を聞くのでしょ? 私も一緒に聞かせてほしくて来たの」
うふふと笑うニーレおばちゃん。
「そっか。代替わりの面会でおばちゃん、ウィラくんに会ったんだね。神様として。ウィラくん、おばちゃんのことわかった?」
「ええ。幻術は使わずにお会いしたもの。はじめは気がつかなかったみたいだけど、化物退治の時のことを思い出して大きな口を開けて固まってたわ」
その姿は簡単に思い浮かべられた。
思わず笑っちゃったよ。
俺たちは話をしつつ歩いて、ニーレおばちゃんを別の居間に通した。
さすがにゴロゴロ部屋でお客さんにゴロゴロを勧められないからね。
そこも王族のプライベートな居間だけど、来客を通せる普通のテーブルと椅子のある部屋だ。
「タケユキの話を聞きたいのはわかったが、なぜ今?」
「こっちこそ、いつか山の家へ来てくれると待っていたのよ。ガウロくんのこともあるし。あとで迎えに来るって言ってたのに来なかったでしょ?」
それもあって来たのよ、とおばちゃんは両手を腰にやり拗ねたように言う。
ああ、ナルディエ神王国の第二王子くん。
シュザージがため息混じりにおばちゃんに答えた。
「あの時は第二王子はナルディエに帰りにくい状況だった。ラスタルもナルディエの次代候補が身を寄せていたし、バロウやウェルペティに預けるわけにもいかん。テルセゼウラに連れてくる気もなかったのでな。其方に預けておくのが最良だったから置いてきたまでだ。わかっていて、聞いたな?」
くすくす笑うニーレおばちゃん。
そうみたい。
「ガウロくんは大丈夫よ。最近はたまにナルディエに行ってこっそり悪党退治をしているわ」
こっそり、悪党退治?
なんだか嫌な予感がするよ。
「密かにお兄さんの手助けをしたいと言ってね、ナルディエでいまだに人攫いや泥棒なんかをしている人をやっつけているの。実は、ある人の言っていた正義の言葉を教えてあげたら感銘を受けてね」
俺は視線を逸らせた。
リドルカさんもテレシーもシュザージも、チラッとだけ俺を見たけど何も言わずにいてくれた。おばちゃんも笑っただけでそれ以上は突っ込まずにいてくれた。はう。
「そうそう、塵人間になっちゃった人たちもうちの村に来てもらうことにしたわ。面会の時にウィラネルドくんに相談されてね。村が少し賑やかになるわね」
なんだか嬉しそうに笑うニーレおばちゃん。
山の村に一人暮らしだったみたいだし、寂しかったのかな?
というか、塵人間さんたちまだラスタルにいたのか。個別に魔法陣の札を持つことで、なんとか形を崩さずに動けるようになったらしいけど今のナルディエは大変だし、帰れないのは仕方がないかな。
そうそう、塵人間で思い出したけど。
魔落ちでドロドロになってたリドルカさんの弟さんたちは、人に戻って今は皇城で暮らしているよ。あっちはリドルカさんと俺の力を少し使っているから完璧だ。制約が全くないわけじゃないけどね。もちろん他所には秘密だよ。
応接用の居間で席に着き、改めてテレシーにお茶を淹れてもらったよ。おばちゃんは香りもお茶も満足そうに味わっていた。
そして、小さく吐息をつく。
「きっとこれから、この世界は色々と変わるわ。だからこそ、あなた方に私の知る千年の話と、百年前の話を聞いてほしくてやって来たの」
その言葉に、俺たちは居住まいを正した。
千年前、魔王石になった人。
百年前、何があったかを知っている人。
この世界で神様と呼ばれてきた人。
子供たちとその子孫を見守り続けるお母さん。
それは俺たちが聞きたかった話だ。
もうちょっとだけ早く、余裕のある時に来てくれていたらなと思いつつ、俺たちはその話を聞いた。
お話を聞き終わった後、ニーレおばさんには王城の客間に泊まってもらった。明日はウィラくんも一緒にさっきの居間で話をすることになっている。
俺たちは寝室の四人で寝られる大きなベッドに転がって、聞いた話を思い返していた。
そういえば、おばちゃんは二十年前にリドルカさんが魔王石になったことを察知していたんだって。神託の形で伝えて、神王国の子孫たちに保護してもらおうとしたけど無視されたとか。
あまり詳しく言ったら子孫たちが欲をかいて馬鹿なことしでかさないか心配で、ぼかして言ったらそうなったって。実際、子孫の一人は欲張って暴走したしね。
魔王石になった子供が心配だったけど、帝国にはおばちゃんでも手出ししにくくて何もできなかったって謝ってた。
リドルカさんはかまわないと言っていたよ。
神託はそれまでにもいろいろしたけど大抵失敗するからおばちゃんも困ってるって。俺の神託もそうだね。
俺が来たことも察知したけど、俺のことは神術では探れなかったから子孫たちに調べてもらいたかったって。残念でした。
「それにしても……本当に千年生きていらっしゃったんですね」
はあ、と息をつきながらテレシーが言った。
「先達が居るのは、ありがたい」
リドルカさんが呟く。魔王石としても、長生きにしても、もっと聞きたいことがあるようだ。どう聞けばいいか迷っているみたいだけど。
「話は明日もできるし、今日はもう考えずに其方らは眠れ。テレシーは女王としてラスタル神王を迎えるのだ。寝不足でうたた寝でもされたらテルセゼウラの沽券に関わる」
「もうっ! 居眠りなんてしませんよ!」
「タケユキも……」
そう言って、俺のおでこに手をやるリドルカさん。
「最近は熱なんて出してないよ。でも、今日はもう寝るね。やっぱり疲れた」
「そうですね。おやすみなさいタケユキさん。リドルカさん、シュザージも」
「ああ」
「おやすみ。良い夢を」
シュザージが天井に向かって指を動かすと部屋の明かりが消える。
魔法陣リモコンで灯りを点けたり消したりできるのは、まだテルセゼウラでも俺たちの部屋だけだ。シュザージだけじゃなくテレシーもリドルカさんもできるようになってるよ。本当に、自慢の伴侶たちだね。
左側にリドルカさん。右側は今日はテレシーでその向こうにシュザージ。四人で並んで目を閉じた。
おやすみなさい。
また後日。
ちなみに。
俺とリドルカさんは帝国で皇帝さんと典医さんたちに「皇族の秘術」について聞いたよ。実践したかは……今は秘密。
これでこの物語は完結です。
改めて、ここまで読んでくださりありがとうございました。
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