第13章-37 冷酷な宰相補佐
「知らないということは、怖いことですわね。あの冷徹と言われる宰相補佐殿が、頼りないとは……」
くつくつと笑いが止まらなくなったのだろう、楽し気にシラフジは言った。
「長殿」
アイネズがコホンと咳払いして言った。シラフジは顔を上げたが、その顔から笑みが消えることはない。
「あら、本当のことでしょう」
「シラフジさま」
楽しそうなシラフジに、ライモンは恐る恐る声をかけた。シラフジは笑みを浮かべたまま、アイネズを放り出してライモンに向き直る。
「なんでしょう、ライモンさま」
「アイネズさまが、冷酷って。どういうことですか」
ライモンがアイネズを知ってから、まだ日が浅い。話をしたのもわずか、ライモンが国王トキワに決意を告げに行ったときに、前の領主からその地位をひき継いだ時だけだ。ライモン自身もアイネズとほとんど話をしていない。
だが、物腰が柔らかく見えるアイネズが、王都では冷酷だとは思えなかった。
「その通りでしてよ、ライモンさま。宰相閣下も切れ者で通っておられますけど、アイネズさまはその懐刀ですからね。いつもゆったりと笑みを浮かべているが、その胸の内は計り知れないと、世情に疎い私のところにまで噂は聞こえてきていますわ」
世情に疎い、というシラフジの言葉に、ライモンは思わず首をひねった。どう見ても、シラフジは世情に疎いどころか、些細なことまで精通しているような気がする。
治療師の長として、治療師をまとめ、統率していくうえで、薬草の研究だけに没頭するわけにはいかないのだろう。
なんとはなく、ライモンはそう感じた。
アイネズは苦笑してふっと息を吐いた。
「ライモンさま、長殿の話をあまり真に受けられませんように。私は文官のひとりにすぎません。国宝陛下や宰相閣下の仕事がうまく回るように気を配りますが、それをするのは私だけではありません」
アイネズは謙遜したように言うが、シラフジは笑いながら首を振った。
「あらあら。未来の宰相閣下とも呼ばれる方ともあろう方が。謙虚も過ぎるというものでしょう」
それからシラフジはライモンの耳元でささやいた。
「ライモンさま、覚えておかれるとよろしいですわ。アイネズさまはいずれ必ず、あなたさまの役に立ちます。同じ一族であることを除いても、彼は有能です。公平さも兼ね備えておりますしね」
「シラフジ殿」
アイネズはたまらず、咳払いしてシラフジを止めた。だが、シラフジはなにも気にすることなく、小さく舌を出してライモンのそばを離れた。




