第13章-21 街の噂
そりゃ、見てきたし、なんなら自分がその時の当事者のひとりだ、とはライモンには言えなかった。おそらく、そう言ったところで、信じてもらえないだろう。うっと言葉に詰まる。
それをトビは見逃さなかった。
「あら、私はちゃんと見ましたもの、こちらのご領主のドラ息子が次期さまを侮辱し、さらに暴力をふるおうとして陛下の逆鱗に触れ、捕らえられたところも、彼を止めなかった罪でご領主がその座を降ろされるところも」
「あ、あんたが?」
「私はなんだと思って? 言ったでしょう、私は王都から陛下とともにこの街に来た治療師だと。領主館でちゃんと見ましたよ」
ライモンのことは信じずとも、シラフジの言葉にはトビは動揺を見せた。それはそうだろう、隣の牧場の小僧と、トビを癒した実力を持つ治療師では説得力が違う。
だが、ライモンはこそっとひとりごちる。やっぱりいたんじゃないか、と。
領主館から戻ったとき、シラフジが意味深な笑みを浮かべているのが気になっていたが、領主館は遠い。ライモンがアジロの家で着替えていたとはいえ、彼が家を出るときも帰ったときも、彼女はアカネのそばにいた。
つまり、ライモンのところに最初に現れたように、跳んだのだろう。治療師の長である彼女には、それができる。
「それに、今、街ではその話でもちきりだと聞いたぞ。知らないのは、おまえの牧場だけじゃないのか」
トビの動揺に、さらにライモンは追い打ちをかけた。
それは嘘ではない、ライモンの牧場に来るアジロの店のイブキがそう話してくれたことがあった。領主さまが交代したことは、またたく間に街中に伝わったようだ。それでよると触ると、その話でもちきりだと。
領主が替わったことによって、どんな変化が訪れるのか。期待するものもいれば、怯えるものもいる。それは当然だろう、人によってその立場は違う。だから、ひそひそと噂する。どんな領主かわからない故に。
おそらく、ライモンも自分が関わっていなければ、トビたちのように知らないままだったかもしれない。このあたりは街から離れている。朝やって来るイブキたちが噂話をしなければ、知らないことも多々ある。
トビたちは、おそらくその状態だったのだろう。
「ほら」
ライモンは手をひらひらと振って言った。
「戻って、おまえたちのおやっさんにこのことを伝えるんだな。あんたの後ろ盾になっていた領主さまはもういないってな。確認したければすればいいさ。本当のことだから」
トビは戸惑うような表情をして、カチと顔を見合わせた。それから、ライモンをにらみつけると、覚えてろよ、のお決まりの捨て台詞を吐いて牧場のほうに戻っていこうとした。




