第13章-16 治療師
まわりもが凍ってしまいそうなほど、冷たい声だった。トビは跳ね起きようとしたが、軽い力で抑えられているにもかかわらず、動けなかった。モエギが彼の腕を少し動かしただけで、キリキリと痛みが走った。
ライモンはふっと息を吐いた。
「モエギ、もういい」
ライモンの言葉に、モエギはゆっくりとトビを放した。ゆっくりと一歩後ろに下がったが、なにかあればいつでも動けるようにしているのは、誰の目にも明らかだった。
「別に俺たちはお前たちと揉めに来たわけじゃない。ここが領主さまの土地だろうが、あんたのところがどうしようが、別に構わない。だが、俺たちは治療師さまと一緒に薬草を取っていただけだ。あんたたちだって知っているだろう。治療師ならばどこでも薬草を取ることができると」
「治療師、だって」
そこで何かようやく気付いたかのように、トビは上半身を起こしてまわりを見やった。ライモン、モエギ、セイジュの順に視線を移していき、そして最後にシラフジを見つめた。何度か眼をしばたたいて、焦点を合わせているかのようだった。
「治療師がこの辺にいるわけないだろう」
「それがいるんだな。この人は」とシラフジを指し示しながら、ライモンは続ける。「王都の治療師さまだ。薬草を探していらっしゃって、ここにありそうだというのでご案内していた」
トビがごくりとつばを飲み込んだ。慣例として、治療師はどこであっても、たとえ国王の直轄地であってさえも、薬草を採取してもよいこととなっている。それほど、薬草は貴重なものとみなされていた。
「治療師さまに、薬草だと……?」
ばかな、とトビはつぶやいた。そして、引き抜かれて集められたできた小さな草の山に気づく。それをまじまじと見て、再びつぶやいた。
「これが、こんなどこにでも生えているような草が、薬草だっていうのか」
「ああ。似たような草があるけど、これはれっきとした薬草だそうだ」
「嘘をつけ!」
トビが突然叫んだ。ライモンは驚いて目を見開いた。
「こんな草が薬草だと? それに王都の治療士がこんなところにいるはずがない。俺たちを馬鹿にしているのか」
「あら、なぜ嘘をうそをつく必要があって?」
悠然と答えたのは、シラフジだった。ふふ、とにこやかに時を見下ろしながら嫣然と微笑んだ。
ライモンよりもモエギよりも、シラフジはふたりを圧倒していた。
「あ、あんたは……」
トビが震える声で尋ねた。このあたりでは見たことがない風貌に、怯えているかのようだ。
「お目にかかれて光栄ですわ。わたくし、シラフジと申します。王都の治療士の塔に属す治療師ですわ。どうぞよしなに」




