第13章-9 テブクロノハナ
ライモンはほぼ毎日通じがあるほうだが、母のアカネはときおり何日か滞ることがあるようで、苦しんでいるようすを見かけたことがある。そのような人には、よいのかもしれない。
毒もまた、使い方次第では薬にもなるということなのか。
「じゃあ、そんな人に毎日飲ませたらいいんじゃないのか」
「いいえ」
ライモンの楽観的な物言いに、だが、シラフジは静かに首を振った。
「人は慣れる生き物です。毎日飲めば、薬に慣れてしまって再び滞るようになります。そうなれば、さらに濃いもの、また慣れてしまえばさらに濃いもの、となるのが必然ですわ。それゆえ、慎重に扱わねばなりません。治療師や薬師はそれも含めて処方するのです」
ふうん、とライモンは肩をすくめた。シラフジは小さく笑う。
「そのような例は、いくつもありましてよ。例えばそうですわね、ライモンさまはテブクロノハナと呼ばれる花をご存知ですか」
「テブクロノハナ……」
ライモンは考え込むかのように首を傾げた。それほど花の名前に詳しいわけではない。だが、聞いたことがあるような気がした。それを思い出そうとする。確か、アカネがなにか言っていたような……。
ややあって、ああと思い当たったように顔を上げる。
「それはちっちゃな鈴みたいないっぱい花が咲くやつか。白い花で、葉っぱがギザギザして、丈がこのくらいで」
と、ライモンは腰あたりに手を当てて、草の高さを示した。それにシラフジはうなずく。
「恐らくそうだと思いますわ。ご存知でしたのね」
まるで子供を褒めるかのように、シラフジはパンと手を叩く。ライモンは喜んでいいのか、馬鹿にされていると怒っていいのか、よくわからなかった。
「でも、あれこそ毒草だろう。俺は母さんから触らないように言われてる。なんでも昔、かわいいからって摘んで挿してあった水を、誤って飲んだ子供が死んだことがあるって。だから、かわいいけど触ったりしないようにって」
「アカネは物知りですわね。その通りですわ。ただその話は多少大げさに伝わったものです。食用にするコンコルに似ているために、間違えて食するものがいるので、そのように警告しているのです。多量に摂取すれば、悪心や嘔吐などを発し、健康なものでも時には死に至ります」
「コンコル? ああ、花がなければ似てるかな。それで間違えるってわけか。俺も気をつけよう」
その言葉に、モエギがくすりと笑う。
「モエギ?」
「そうですね。ライモンは気をつけねば。時折、草をちぎって口にしてますからね」
ライモンは焦った。癖で、つい草を噛んでしまう。
「わかってるって。気を付けるよ」
とはいっても、いつも同じ草だ。だが、時折間違えて別の草を噛んでいることがある。そんなときはいつも苦みで気づくことが多い。
「そのような癖があるのですか、ライモンさま。それは直していただかなければ。すべての植物のことがわかっているわけではありませんのよ。思いもかけないものが含まれていることもありますから」
少し呆れたようにシラフジに言われて、ライモンは少しすねたようにわかった、と応えた。
「話を元に戻しますが、毒草と言われているテブクロノハナですが、ごく少量を服用すれば心臓の薬にもなります」
「心臓?」
淡々というシラフジに、ライモンは思わず大きな声が出た。




