第13章-7 カブレノキとふたつの草
ライモンはひざを落として、手近にある草を触ろうとした。そこへ、シラフジの厳しい声が飛ぶ。
「ライモンさま、それは毒ですよ」
その言葉に、ライモンはびくっと手をひっこめた。それから恐る恐るといった態で振り返る。
「え、これが毒?」
だが、先ほどシラフジはこれを薬草だと言ったではないか。ライモンには同じ草に見える。
ライモンは草とシラフジを困惑したように交互に見やった。そんな彼を見て、シラフジは小さく声を立てて笑った。
「毒とはいっても、触るくらいで死にはしませんよ。さすがにそこまで猛毒ではありません」
そう言って、シラフジはライモンが触ろうとした草を摘み取った。
「まあ、中には、樹の汁に触れただけで皮膚の炎症を起こすものもございますが、それはまた別のものですわね」
「あ、それ知ってる」
ライモンは思い出すかのように、そう言った。シラフジは横目で彼を見やる。
「あら、ご存知でしたか」
「ああ。カブレノキってやつだろう。木肌に傷をつけたら白い汁が出て、それに触れるとかぶれるから、カブレノキっていうんだって。その木は誰も触らないようにしてる」
「よくご存知で」
ふふっと笑って、シラフジはライモンを見やった。ふふん、と図に乗ったように、ライモンが自慢げに胸を張る。
「まあ、このくらいは……」
「この地方では使われないようですが、北のほうの地方では、その樹の汁を使って細工物をしますのよ」
「え、カブレノキの汁を使って? そりゃ、手がかぶれるんじゃないのか。あれ、かゆいんだぜ」
「ええ、そのままでは、ですわね。適切な方法を使えば、木工品に塗ることができて、それを乾かせば、水が染み込まない丈夫なものができますのよ。いつか御覧になられると思いますわ」
「へえ」
ライモンは感心したようにつぶやいた。厄介な木だと思っていたが、やり方によっては使い道があると、はじめて知った。
本当に世界は広い。そう思いながら、ライモンは顔を上げた。
そんな彼の表情を見やって、シラフジは微笑んだ。
それから最初に摘み取った草とは別の草を摘み取って、ライモンの前に出す。ライモンとセイジュはふたつの草をしげしげと見やった。
ふたつの草はふたりの目には同じように見える。どこが違うというのだろうか。
「わかりますか、この違いが」
治療士の長の言葉に、ふたりは首を振るばかりだ。その背後でモエギが笑いを堪えているようだ。
「葉をご覧ください。ヒャクヤクは切れ込みが浅く、その先が丸くなっているのかわかりますか。対して、こちらの草は切れ込みが深く、先がとがっていますでしょう」
シラフジはそう説明する。確かにシラフジが言うような違いはあるが、それは並べて比べているからわかるだけで、単独で見ればわからないくらいの違いだった。
「それと、この芽の先がヒャクヤクは普通の緑色に対して、こちらの芽はほんの少し赤みがあります。それで、この草はアカヒャクヤクモドキ、というのですわ」
言われてみれば、アカヒャクヤクモドキと言われたほうは芽の先がほんの僅か、赤みがさしている。赤い、というか、少しだけ別の色がついている、そんな感じだ。だが、その周りの葉にはそんな色はついていない。
「もしかして、この草って成長して芽が出なくなれば、ヒャクヤクと見分けがつかない?」




