第13章-1 シラフジと薬草
13.
その日から、騒がしい生活が始まった。
ライモンは、これほど多くの人が集まって暮らしたことはない。
父母とロウゼン、それに繁忙期たまに雇うものたちがひとりか二人、それがせいぜいだった。父が亡くなってからは、母アカネとロウゼンの三人のことが多く、そんな生活が当たり前で。慣れきってしまっていた。
だが、今は。
大勢の人がライモンの牧場にいて、立ち働いている。ロウゼンは、領主館から来た若者二人を指図して働かせているし、母屋ではハナナとキブシがアカネに手を出させないように、家事を切り盛りしている。
まだシラフジから動き回ることを許可されていないアカネは、どことなく手持ちぶさたに見える。それでも、椅子に座ってなにやら手を動かしてはいるようだ。
シラフジは四六時中アカネのそばにいなくてもよくなったせいか、このところ近くの野原や沢、森の中に行くことが多くなっている。どうやら、このあたりに生える薬草を探しているようだ。
「ライモンさま、聞いてください」
そう言って興奮したような声でシラフジが声をかけたのは、そんな日の夕刻のことだった。西の方が赤く染まり、やわらかな日差しが長く伸びて家の中まで入り込んでいた。
モエギとともに母屋に入ったライモンは、興奮したようなシラフジに驚いて立ち止まった。その背に、セイジュがぶつかる。
「あ、すまん、セイジュ」
「急に止まんないでくださいよ、ライモン」
赤くなった鼻を押さえながら、セイジュは恨めしそうに言った。それに軽く片目をつぶったライモンは、すぐにシラフジに向き直る。シラフジは若者たちのやり取りにも気づいていないように、卓の上に広げられた植物を熱心に見ていた。
「これはまた……」
シラフジの興奮の源を見つめて、モエギが感嘆のため息をついた。
「次代さま、お分かりになりますか。さすがですわね」
嬉々としたシラフジの声に、モエギはうなずいた。ライモンがモエギの肩越しに、ひょいと卓の上を見やる。
そこにはいくつかの植物が広げられていた。ライモンの目には多少は違うが、似たような植物、それもこのあたりに生えている植物にしか見えない。
「ライモンさま、これらは貴重な薬草です。今日、沢のほうに行ってみたのですが、これらはそこで見つけたものです。このように、たくさん生えているのを見るのは、はじめてですわ」
その高揚した、幸福そうなキラキラとした表情に、だが、ライモンは首を傾げた。
「これらがどうしました」
「いやですわ、ライモンさま。これらはとても貴重な薬草ですのよ。めったに採れなくて、王都の薬問屋でも高値で取引されているものでしてよ」
「へえ……」
ライモンは感心したのかそうでないのか、わからないような生返事をした。ライモンの目には、貴重な薬草どころか、そのあたりに生えている雑草と変わりないように見える。
「これらがですか……」
「ええ。もちろんですわ」
「こんな、この辺のどこにでも生えているような草がねえ……」
ライモンがつぶやくようにそう言うと、シラフジは驚いたように彼に詰め寄った。
「どこにでも生えている……? それはまことですか、ライモンさま」
「え、ええ」
ライモンはその迫力に押されて、こくこくとうなずいた。
「どこに生えておりますか」
「どこにって、本当にそのへんに……」
「わかりました」
「わかったって、なにを……」
したり顔でうなずいて、シラフジはさらに迫ってくる。




