第12章-49 日常の終わり
セイジュは考え考え言った。おそらく彼にしても命じられただけで、詳しい説明はなかったのだろう。彼なりの推測を語っているようだった。
「まあ、俺にしても願ったりかなったりでしたしね」
「願ったり?」
「はい。私はまだ学びの塔の騎士見習ですで、正式な騎士の誓いを立てていません。普段であれば、そんな私にこんな命令が来ることはないんです。ですから、これを断るという手はないですよね。一にも二にもなく、引き受けちゃいました。まあ、そもそも命じられたことを断るという選択肢はないんですけどね」
よくしゃべるやつだな、とライモンはなかば感心したようにセイジュを見つめていた。ライモンにはそれほど友達は多くないし、それ以前に知り合いが少ない。同じ年ごろと言えば、アジロぐらいで、彼も商人にしては口数が多いほうではない。
「そんなわけで、これからよろしくお願いします。次期さま」
そう言って、セイジュは軽く一礼してみせた。おどけたようにも見えるその仕草は、だが、どこか真剣さがにじみ出ている。
ライモンはじっと彼を見つめた。まっすぐに見やっても、セイジュはたじろぐこともない。
やがてライモンはふうっと息を吐いた。
「ライモンだ」
「え?」
セイジュは思わず聞き返していた。本来は、許されないことだ。しかし、ライモンは咎めることなく、先を続けた。
「次期さまじゃない、ライモンだ。様付けも不要だ。ここにいる気なら、そう呼べ」
「え、いいんですか?」
「いいもなにも。ここでは様付けなんか必要ないから、そう呼べって言ってる。それから、敬語もなしだ。いいな」
「ご命令とあらば」
笑みを押さえたまじめな表情で、足をそろえ、セイジュは優雅に一礼した。その言葉にライモンのほうが慌てる。
「いや、命令じゃなくて」
「しかたありません、ライモン」
くすくす笑いながら言ったのは、モエギだった。ライモンとセイジュは同時に守護精を見やった。
「あなたの立場でセイジュになにか言えば、それはほぼ命令と同じことですからね。彼は従わざるを得ません」
「そ、そうなのか!?」
明らかに焦ったようにライモンは言った。それからセイジュのほうを見る。
「いや、命令じゃないから。ただ、気楽にしてくれっていう意味だから」
「はい」
セイジュは満面の笑みを見せてうなずいた。
「わかりました。次代さまも、よろしくおねがいします」
今度はモエギに軽く一礼したセイジュだった。顔を上げるとにっと笑ってみせる。
「で、なにをすればいい? 手伝えることがあれば、なんでもしますよ」
笑いながらセイジュが言う。ライモンは思わずため息をついた。
「来いよ。まだ仕事はあるんだ。その前に、どこで寝るかだな」
「あ、俺、扉の前でも寝られますから、気にしないでください」
ライモンは別棟に向かって歩き出した足を止めて、セイジュをまじまじと見やった。それから大きく息を吐きだす。
「俺の家で、そんなこと、させるか」
ライモンはそう吐き捨てると、足早に別棟に向かう。そのあとをモエギとセイジュが追う。
ライモンとアカネ、そしてロウゼンの三人だけの静かな生活が、いつもと同じ日常が、決定的に終わりを告げた日だった。
永遠に。




