第12章-46 アカネの想い
アカネはシラフジを振り向いた。シラフジもまた小さくうなずく。彼女もまたそれを感じ取っていたのだろう。
「母さん……」
「果たされるかもしれない、破られるかもしれない。そんな約束よ。たわいもない、あいさつ代わりの約束。それはフヨウさまも分かっていらっしゃったと思うわ。それでも、またね、という言葉を必要とされていたと思うの、フヨウさまは」
ライモンはただ黙ってアカネの話を聞いていた。
「だから、私はそれを口にした。もしかしたら、私は噓をついてしまったのかもしれないわね。でもね、それでもいいと思うわ。またお目にかかれればいいとは思うけど」
ふふ、とアカネは小さく笑った。
「じゃあ、母さんはまだ迷っているんだね」
ええ、とアカネはうなずく。
「あたりまえじゃない。昨日の今日よ。そんなこと、数日で決められるものではないでしょう。もう少し考えさせて、ライモン」
アカネはライモンに微笑んで見せる。その隣にシラフジが並んだ。
「でも、私はアカネが王都に来てくれると嬉しいですけどね」
シラフジの言葉に、アカネは少し目を見開いて、それから笑みを見せた。
「嬉しいことを言ってくれるのね、シラフジ」
「ええ、私はあなたを気に入ってますからね」
ふたりは笑いあった。
ライモンは不思議な心持でふたりを見やった。ここ数年、正確に言えば、ライモンの父が亡くなってから、アカネのあのような笑顔を見たことがなかった。よほど気が合うのだろう。
だが、シラフジはいずれいなくなる。アカネの体調を気遣ってここにいてくれるのは承知しているが、体調が良くなれば彼女は治療師の長だ。王都に戻ってしまうだろう。
ライモンもまた、いずれはここを去る。次期として生きることを決めた以上、ここに留まることはできない。
できれば、ライモンとしては王都に行ってほしいと思う。ライモンは学びの塔とやらで様々なことを学ばなければいけないらしいから、共に暮らすことはできないかもしれない。けれど、近くにいると思えば多少は安心だ。
だが、それはライモンの都合だ。アカネの思いではない。
ここで暮らすか、それても王都に行くか。
それを決めるのはアカネ自身だ。ライモンは懇願することはできるかもしれないが、強要することはできない。
ライモンもまた、自分の行く道をアカネに相談することなく決めたのではないか。
なにも言えず、ライモンは母屋のほうに歩いていくアカネとシラフジふたりを見やっていた。
いつの間にか、モエギがライモンのそばに来ていた。ライモンを慰めるかのようにそっと袖に触れた。ライモンは視線を守護精に向けた。




