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牛飼いと守護精と  作者: 久保 公里
第12章

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第12章-29 今朝のこと

 フヨウはふっと吐息をつくと、ゆっくりとライモンを見やった。微笑みながら。そんな彼女の髪を、風がさらっていく。


 「世界はどこまでも広いと思いましたの。その中で私が知ることができることなど、ほんのわずかなこと。今までわたくしは王宮の中のことしか知らなかったことを思い知らされたのですわ」


 ライモンは、なんとなくフヨウが思ったことが分かったような気がした。それは、ライモンがここ数日思っていたことと似たようなことだろう。


 「それに、今朝も……」


 言いさして、フヨウは手を口元において押し黙った。ライモンはそっと先を促す。


 「今朝も?」


 あ、と小さくつぶやくと、フヨウはライモンを振り返り、微笑みを浮かべた。だが、その微笑みは今までのとは違い、どこかよそよそしく感じられる。


 「由ないことを申しましたわ。お忘れください」


 「そうですか?」


 ライモンの言葉に、フヨウは少し首を傾げた。ライモンはいたずらっぽく笑ってみせる。


 「言ったほうが楽になることもありますよ。俺でよければ聞きますよ、フヨウさま」


 フヨウは少しだけ呆気にとられたようにライモンを見やったが、すぐにかすかに笑った。さきほどのよそよそしさはみじんもない。


 「そうですわね」


 フヨウは意を決したかのように話し始めた。


 「この衣装、今朝、お借りしましたの。領主館に勤める方から」


 フヨウは今着ている服を指し示した。確かに、昨日のようすからして、フヨウが持っているような服ではない。借りたと言われれば、素直に納得できる。


 「それで」


 ライモンはゆっくりと先を促す。フヨウはひとつうなずいて、言葉を続ける。


 「借りると申しましても、わたくしはこの後、領主館を出立された陛下の後を追って、次の休憩地で合流する予定です。領主館には二度と戻ることはありません。借りてもお返しできないのです」


 今度はライモンがうなずく。


 それに勇気づけられたかのように、フヨウは言った。


 「それで、お礼もかねて、わたくしの手持ちの衣装の中でお好きなものを差し上げると申し出たのですが、拒否されました。一番良い衣装と聞いておりましたので、わたくしとしては、お借りした衣装の代わりにと思ったのですが、着る機会もないとおっしゃられて」


 フヨウは少ししょぼんとして目を伏せた。


 「それならば、売っていただいてもかまわない、と言ったのですが、このあたりでは売れないと。無理だから、いらないと言われましたの」


 国王の娘に対して、言いようというものがあるだろう、とライモンは思う。というか、その物言いは、ありなのか。下手をすれば、不敬として捕まるのではないかと不安に思うほどだ。


 だが、フヨウはそこを問題にはしていないようだった。


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