第12章-30 金貨
「わたくし、困ってしまいました。このままでは、あの方の衣装を奪ったようではありませんか。なにかお礼と思いまして、金貨を差し上げたのですけど、たいそう驚かれて」
そうして、フヨウは大きくため息をついた。ライモンは驚いた表情で彼女を見やった。
「金貨、金貨ですか」
「はい……。一応受け取ってはいただけたのですが、なぜか怯えたような表情になられて……」
困ったように、フヨウは再びため息をつく。ライモンはどちらかと言うと、娘の気持ちのほうがよく分かった。
「それとも、金貨一枚では少なすぎたのでしょうか……」
自信なさげにフヨウが言う。ライモンは一瞬驚いて固まり、それから我に返って首を激しく振った。
「え、いやいや、逆です、逆。フヨウさま」
「ぎゃ、く……?」
ライモンの言葉に、フヨウはきょとんとして彼を見やった。
「たぶん、それ多すぎます。えっと、俺は女の人の服の値段はよくわかりませんけど、今フヨウさまが着ている服でしょう。多分だと思うんですけど、その服、銀貨一枚もしませんよ」
「えっ!」
ライモンの言葉に、フヨウの目が点になる。それから慌てたように、口早に話し始めた。
「そうなのですか? わたくしもよくわからなかったのですが、一番良い衣装とお聞きしたので、それならばと思ったのです。もしかしたら、足りないくらいかも、失礼に当たるかもと思いながらだったのですが。わたくし、間違ってしまったのですね、恥ずかしい……」
フヨウは赤く染まった頬を両手で包み込んだ。そうすると、手の白さが際立つ。よく手入れされているのだろう、指の爪は薄い桜色で、かすかに光っているようだった。
「そう言えば、あの方、最初は驚いて、あきれていらっしゃるようにも見えました。それからとんでもないと首を振られて。でも、わたくし、なにかお礼をしたかったのです。わたくしの衣装を受け取っていただけなかったから、せめても、と思ったのですが、わたくし、押し付けてしまったのですね」
「でも、受け取ったのですよね」
「ええ。ハナナさんが、わたくしの好意だから、受け取るようにとおっしゃってくださって。それでようやく受け取っていただけましたの」
フヨウはまだ両手で頬を押さえていた。それが可愛らしくて、ライモンはつい笑みを浮かべた。
「ひどいですわ、ライモンさま」
フヨウが拗ねたように言った。ライモンはだが、さらに笑みを深くする。
「わたくしがこれほど困っているのに、笑うなんて」
「ああ、すみません、フヨウさま。つい……」
そう言うと、ライモンはようやく笑みを収めてまじめな表情をした。フヨウをまっすぐに見つめる。




