第12章-28 世間知らず
フヨウは本当に驚いているようだった。だが、ライモンは実際、そのように言う人を何人も見てきている。エニシダも街育ち故か、ここに来てもめったに動物たちに触ろうとしなかった。
だが、フヨウは違った。恐る恐るといった態だったが、動物たちに触れ、興味津々だった。元々、好奇心が旺盛なのだろう。臭いも軽く鼻にしわを寄せてはいたが、特に文句も言わなかった。
「あれほどかわいいのに。ヤギの仔は毛並みもやわらかくて、とても気持ちよかったのですもの……」
そう言って、フヨウは手に残った感触を確かめるかのように、掌を見やった。
それから、ふいにまっすぐに前を向いた。真摯なまなざしで、宙を見やる。
「フヨウさま……?」
ライモンが戸惑うように声をかけると、フヨウは振り向いて少しだけ微笑んだ。
「わたくし……わたくし、この度で自分がいかに世間知らずであるかを思い知りましたわ」
「世間知らず?」
「ええ……」
ライモンはフヨウの言葉の続きを待った。彼女が言わんとしていることが、よくわからなかった。
そんな彼の想いをわかっているかのように、フヨウはわずかに体を彼のほうに向ける。
「わたくしは王宮で生まれ育ちました。王宮の奥深く、王の娘として」
その言葉に、ライモンはうなずくしかない。なんとなく、そうなんだろうな、としか思えなかった。
「ずっとそこで過ごしてきましたわ。ほぼ王宮での暮らししか知りません。都の街に降りたのも、数えるほど。お忍びで、短時間だけでしたわ。そうね、毎年お祭りでお父様と当代さまと並んで、城壁のバルコニーから皆に手を振ることはありましたけど、街中の人と触れ合えるわけではありませんでしたわ」
少し寂しそうに、フヨウは言う。ライモンは黙って聞くことにした。
「そう、この行幸に同行するのも、お父様に頼み込みました。渋々ながらも、応じてもらえたのですけど。驚きましたわ。わたくしにとって、王都すら広くて大きいと思っていましたが、王都の外がこれほど広大だとは想像もしていませんでした。空はどこまでも果てしがなく、大地はその下でどこまでも続いていくようでしたわ。わたくしはその狭間で、とてもちっぽけに感じました」
フヨウはついと空を見上げた。
少し薄めの青い空が広がっている。そこに白い雲が刷毛で刷いたように浮かんでいた。
ライモンがずっと見上げていた、変わりない空。
だが、それさえもフヨウにとっては違うものに見えたのだろう。
「石造りの王宮の中で、わたくしは空を見上げたことすらなかったような気がいたしました。時折、窓の外を見て、窓枠に切り取られた狭い空しか見ていなかったことに、気付いたのです」




