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牛飼いと守護精と  作者: 久保 公里
第12章

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第12章-26 案内

 「皆様にお礼を申し上げます。わたくしの為に……。ありがとうございます」


 「いやいや」と、これはハシドイ。


 「フヨウさまの為だけではありませんよ。この地方に良いことだと思われたわけでしょう。ならば、それを提案してみることはよいことだと思っただけです。それに、これからどうするかは領主の仕事でしょうし」と、これはライモン。


 フヨウは少しうるんだような瞳で、皆を見つめた。


 「さあさあ」


 ぱん、とひとつ手を叩いて、アカネが言った。皆の注目が一瞬にして彼女に集まる。アカネはにっこりと微笑んでいた。


 「母さん……?」


 「フヨウさまたちは時間があまりないのでしょう。ライモン、まだフヨウさまにここをお見せしていないのでしょう。案内して差し上げてはどうかしら」


 アカネの言葉に、ライモンは一瞬呆気にとられた。だが、フヨウが両手を合わせて顔を輝かせた。


 「まあ。ここを見せていただけるのですか。それはぜひお願いいたします、ライモンさま」


 「え、ええ。そうですね。フヨウさまが見たいのであれば。あまり面白いものではないと思いますが」


 「あら、そのようなことはないと思いますわ。わたくしにとっては、初めて見るものばかりですもの。ぜひお願いしますわ」


 満面の笑みを浮かべてフヨウに言われると、ライモンにはそれ以上何も言えなかった。


 「あ、じゃあ、こちらに」


 ライモンが先に立って歩きだすと、フヨウがそれに続く。こころなしか、足取りが浮くように軽く見えた。それに、先ほどからついてきている若者が続く。


 「あんたもか」


 「ぜひ」


 否定することもなく、若者はふたりの後ろをついていく。フヨウの護衛ということもあるのだろう。若者がついていくことに、ハシドイたちもなにも言わない。ただ微笑ましそうに三人を見やるだけだった。


 ライモンはため息をついて、ふたりを牛舎に連れていく。清潔に保つように心がけてはいるが、どうしても牛たちの臭いがこもっている。だが、フヨウは興味津々の態で、そのようなことはあまり気にしていないようだった。


 牛たちを表に放牧に出しているため、がらんとしているが、フヨウと若者は次々とライモンに質問してくる。ライモンは戸惑いながらも、それに答えていった。


 それから鶏舎やヤギのところなどを回っていく。鶏舎では、中に入ってライモンの指示で卵を取り、驚いたような表情をしていた。


 掌の中の、たったひとつの卵。それを初めて見るかのように、フヨウは瞳を輝かせて見つめていた。おそらく、これまで彼女は料理され、食卓に出された卵しか見たことがなかったのだろう。それを生む鶏さえ。



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