第12章-24 癖なのです
ライモンは質問の意図がわからず、フヨウの言葉を繰り返す。フヨウは少し焦れたようだった。
「ええ、チーズを専門に作る、そうですわね、職人と言っていいかもしれません。そんな方たちはいらっしゃらないのですか」
その問いに、ライモンは少し考え込んだ。それから、ゆっくりと首を横に振る。
「あまり聞いたことはないです。ここのチーズは牧場を営むものが自分のところで食べる分を作るくらいで、そりゃまあ、余れば俺みたいに街に持っていって売りますけど、チーズだけを作る人はたぶんいないです」
「そうですか」
今度はフヨウが考え込む。ライモンはそんな彼女の顔をこっそりと覗き込んだ。
フヨウはぶつぶつとなにかつぶやいているようだった。考えをまとめるのに、そうしているみたいだ。
「あの、フヨウさま……」
ライモンが戸惑ったように呼び掛けると、フヨウははっとしたように顔を上げた。焦点の合わない瞳がゆっくりとライモンを映し出す。
「ライモン……さま……?」
「大丈夫ですか。ずっとなにかつぶやいてましたけど」
「え、あら、まあ……」
フヨウはようやく現実に戻ってきたかのように、口元に手を当てて、慌てて立ち上がり、スカートのすそをつまんで一礼した。
「申し訳ありません。わたくしの悪い癖ですわ。考え事を始めると、他のことが耳に入らなくなってしまうのです。よく注意されるのですけど……」
「あ、いや、ちょっとびっくりしただけです。なにを考えていらっしゃったんですか」
「あ、ええ。このチーズやお茶などをどうやったらこの地方の特産品にできるかと、つい考えてしまいまして。私が考えても、仕方のないことですのに」
ライモンはその言葉に少し驚いたように眼を見開いた。
「そんなことを考えてらしたのですか」
「ええ、つい……」
ライモンにはよくわからなかった。フヨウはここには数日前に来たばかりで、何のかかわりもないはずだ。それなのに、どうして特産品のことなど考えているのだろう。
ライモンはたまらず、直接それを聞いてみた。
「フヨウさまは、どうしてそんなことを考えくださるのですか。フヨウさまは、こことは何の関係もないですよね」
「そうですわね」
フヨウは恐縮したように体を縮こまらせた。ライモンは困ったように頭をかいた。そんな表情を指せようと思って聞いたわけではない。
「あの、責めているわけではないんです。なぜ、フヨウさまがここまでしてくださるのか、それが不思議なだけで」
「申し訳ありません。癖なのです。こう、なにか良くなると思うとどうすればよいか、つい考えてしまうのです。ですが。わたくしに何ができるわけではなく、本当にただ考えるだけなのですが……」




