第12章-17 驚き
「アカネさまは素敵な方ですわね。私たちが突然現れて、驚かれ、緊張されたと思うのですが、礼儀正しく対応してくださいました。本当に、貴婦人のようでしたわ。仕草も優雅でしたし、どこで身につけられたものでしょう」
「さあ」
ライモンは首をひねった。
「あんな母さんは初めて見た。たぶん、結婚する前、娘時代に身につけたものだろうとは思うけど」
でも、もうずいぶん昔のことだろうしなあ、とライモンは続けてつぶやいた。フヨウはそれに微笑む。
「身に染み込むほど覚えたものは、案外と忘れないものだと聞いています。年月が経っても、身体自体が覚えていると。アカネさまもそうだったのでしょうね」
「かもなあ。ほんと、びっくりした」
はあっ、吐息をついて嘆くライモンに、フヨウは小さく声をたてて笑った。
「なんか、ここのところ、驚くことばかりだ」
「きっと、これからもっともっと驚くことがあるでしょうね」
まるで未来を予知したかのような、フヨウの言葉に、ライモンは彼女を見やった。それに気付かぬように、フヨウは牧場を見ていた。
「ここは、きれいなところですわね」
唐突なフヨウの言葉に、ライモンは虚を突かれた。一瞬の間をおいて、ライモンは答えた。
「え、ああ。ありがとう、ございます」
何と言っていいかわからず、ライモンはただそれだけ言った。
「いずれ、ライモンさまはここを出ていかれるのでしょう。次期になられたからには、ここに引きこもってもいられませんでしょうから」
「そうですね」
ライモンはまだ腑に落ちないような感じでうなずいた。
「今はまだ動けませんが、この事態が落ち着いたら、ここを出ていかなければならないと、わかってはいます」
「そうですわね」
フヨウは牧場に向けていた視線をゆっくりと巡らせ、再びライモンを見やった。
「ここを出て、王都に向かわれれば、何事も初めてのことばかりでしょう。それこそ驚くことばかりではありませんか」
そう言われて、ライモンはそれこそ驚いたように彼女を見つめた。そうして、苦笑にも似た笑みを浮かべる。
「そうですね」
ライモンは彼女と同じように牧場のほうを向いて言った。その瞳に映るものが、彼のすべてだった。そう、今までは。
だが、これからはそうではない。今まで慣れたこの世界から出て、知らないところに行く。
そこで待ち受けているのは、なんだろうか。少なくとも、今までの知識だけでは通用しない世界だろう。
そこに踏み出す決心をしたのは、だが、ライモン自身だ。歩んでいくしかない。たとえそこが初めてのことばかりで、驚くことしかないとしても。




