17.調整
そんな経緯で女神さまと以前より仲を深めることが出来た。俺の自己主張が強くなりすぎて彼女を酷く傷つけてしまわないかと恐ろしくもなったが、女神さまは無尽蔵に湧き出る湧泉の如き母性で俺を受け止めてくれた。
今はもう彼女を母のように感じることが多く、ふとした時に『母さん』と呼ぶ体になってしまった。学校や職場などの特殊な空間で、教師や上司を『お母さん』と呼んでしまう現象に似ているかもしれない。
しかし女神さまはそんな俺をも喜んで受け入れてくれる。最近話の中で気づいた事だが、どうやら自分の世界に存在するものを"創造物"ではなく"わが子"のように認識しているようだ。
"神"でありながら"母"たらんとする女神さまの包容力と強さに、俺は以前よりも深く感じ入ってしまった。彼女にすっかり虜になってしまい、日々信仰を絶やさずに過ごしている。
まあ信仰は心の中で捧げているのみで、表立った行動としては今まで通りなのだが。
俺が積極的に彼女を喜ばせようとすると大体困らせることになってしまう。この前の新しい世界とのスキンシップも俺は満足だったが、女神さまは恥ずかしすぎたのか滅多に触らせてくれなくなった。
正直に言えばああいうことがもっとしたい。しかし彼女が嫌がるのであればしょうがないだろう。ならば彼女が望む日々を滞りなく過ごして信頼を勝ち取っていくのが正道というものだ。
俺は女神さまの膝枕に頭を預けながらそんなことを考えていた。
『女神さま。今日もなんにもない素晴らしい一日ですね』
『そうですね。大海さんは退屈じゃありませんか?』
『いえ、女神さまと一緒にいられると充実感がありますね』
心からそう思っている。女神さまとの会話は大体俺が経験したこと、もしくは知識として知っていることを一方的に話す形になる場合が多い。
女神さまは穏やかな微笑を浮かべて俺の話を真摯に聞いてくれる。そして楽しければ笑ってくれるし、興味を持ったら食いついてくれるのだ。打てば響くような反応が本当に心地いいと感じる。
『あなたにそう言ってもらえると嬉しいですね。……実はですね。二人でもっと色んなことがしたいと思って、新しい世界の調整をしているところなんです』
女神さまはそう話した。その表情には少しの緊張と悪戯っぽさが見て取れる。表情からして俺を驚かせたい、喜ばせたいという意図が感じられた。
『そうだったんですか。嬉しいです。調整と言いますとどんな感じなんでしょうか?』
『大海さんが話してくれた初期の地球みたいな環境を作れたらと思いまして。水の中を微生物が泳いでいて、そこから植物が生まれるみたいな感じです』
『そうなんですか……』
地球にはそういう時代があったことは知っているが、どんな風だったのかを想像するのは難しい。俺が住んでいた時代と比べてあまりにも環境が違いすぎるからだ。
『もしよければ一緒に見に行きませんか?危ないことはないようにしますから』
女神さまは満面の笑みで俺を誘ってくる。とても楽しそうなのは調整された世界が見たいだけではないだろう。
子供のような同居人のような、いまいちあやふやな関係の俺と一緒に見に行きたいからこんなに楽しそうなんだと思う。
一人より二人の方がいい。それは神でも人でも変わりないということだろう。
『はい。俺も興味がありますので一緒に行きましょう』
『よかった。それじゃあ早速準備しますね』
そう言うと女神さまは、いそいそと新しい世界を見に行くための準備を始めた。




