16.鼓動
世界へのソフトタッチと女神さまの反応に因果関係を見出した俺は、女神さまに確認を取る前にもう少しじっくりと弄ることにした。
断じてスケベ心が命じたという訳ではなく、知的好奇心が俺を突き動かしているのである。
世界にさまざまな角度から触れるか触れないかのフェザータッチをすると、女神さまもくすぐったそうに体をビクビクと震わせる。
『ふーむ……なるほど』
『ぷっ……ふふふ……ちょっと大海さん。くすぐったいですよ』
少し恥ずかしそうな様子の女神さまにやんわりと制止される。俺は名残惜しいながらも世界から指を離した。
『申し訳ありません女神さま。もしかして世界と女神さまは感覚を共有してたりするんですか?』
『はい。予想以上にこの世界への愛着が湧いてしまいまして。自分で自分の行動に少し驚いています』
どうやら女神さまは自発的に世界と自分との感覚を共有することにしたらしい。そしてその行動を起こす原動力になったのは愛着からのようだ。
非常に嬉しい気持ちが胸を満たしていく。それはつまり女神さまが嬉しさや楽しさや喜びなど、俺との関係にポジティブな気持ちよさを見出していることの証左であると言えるだろう。
俺が積極的に関わったわけではないが、結果的に好ましい人を楽しい気分にさせられたという証でもある。
『俺との間にできた世界を大事に思ってもらえて嬉しいです』
『私もです。優しく触ってもらえて……くすぐったかったですけど、嬉しかったですよ』
『ありがとうございます。……なんだか気分が昂って、また世界と触れ合いたくなったんですがいいでしょうか?』
『はっ、はい。それじゃあ、どうぞ……』
女神さまは恥ずかしさが増したのか、顔を真っ赤にしておずおずと世界を差し出してくる。羞恥を感じながらも俺に応えてくれる女神さまがいじらしかった。
『最初は手を触れて、そのまま動かさないでおきますね』
『撫でないんですか?』
『まずは触れ合っている感じを確かめ合えたらと思って。女神さま、目を閉じて触れられてる感覚に集中してもらってもいいですか?』
『はっ、はい。目を閉じて、集中……』
女神さまは俺の言葉を受けて目を閉じる。しばしの間女神さまを見守りながら、俺も世界から鼓動のような感覚が返ってこないか集中して確かめていた。
『どうですか?触られてるのがわかりますか?』
『……なんだか……目を閉じてると感覚が鋭くなるみたいで……はい、なんとなくですがわかります』
『恐くはないですか?』
『はい、大丈夫です』
『それじゃあゆっくりと指でなぞっていきますね』
指先をねっとりと動かして世界の表面をなぞっていく。女神さまは先ほどのくすぐったさとは違う困惑の表情を浮かべていた。
『なんだか……さっきまでと全然違いますっ……!』
『恐くなければそのまま身を委ねてもらっていいですよ』
世界と女神さまとの感覚がリンクしているとわかった以上、それを踏まえた触れ合い方もできるようになる。
俺が今やっていることは彼女の感覚を鋭敏にすること、そして信頼関係を形成して仲をより深めるためのテクニックだ。
女神さまに楽しんでもらえていたらいいのだが。
『あっ……はうっ……すっ、ストップ!ストーップ!!』
女神さまは顔を真っ赤にして片手を上に持ち上げる。それに従って世界も"ふわっ"、と俺が触れられない位置まで昇っていった。
『申し訳ありません。お嫌でしたか』
『いっ、いえ!恥ずかしかったけど嫌ではなかったです。……ただ、急だったので心の準備ができていなかったんです』
『そうでしたか。急に前回と違うことをしてすみませんでした』
『はっ、はい……。今度は事前にやることを言っていただけると、心の準備が出来るので助かります……』
女神さまは真っ赤になって顔を伏せながらも俺を受け入れてくれる。彼女の無垢でありながらも素直に受け入れてくれる性質は非常に好ましく、俺はそんな彼女に夢中になりつつあった。
『はい。女神さまを楽しませたいと思っているので気を付けます』
『ありがとうございます』
『それでなんですが。俺が触れる部分からも女神さまの鼓動なんかが感じられるようになると、もっとお互いに楽しめるようになると思います』
『そっ、そうなんですか……?』
結局俺が触れている部分から女神さまの鼓動を感じることはできなかった。温もりはあるが、それだけでは少し物足りなかったのは事実だ。
『というか、俺が女神さまの鼓動を感じたいんですよね。検討していただけると嬉しいです』
『わっ、わかりました。検討してみますね……』
女神さまの表情には困惑と羞恥が混じったような色が浮かんでいる。だが、同時に興味もそそられているようだ。
世界に触れていた自身の指先を見つめると、先ほどまで感じていたぬくもりを鮮明に思い起こすことが出来た。
俺はいまだに困惑した様子の女神さまを眺めつつ、彼女の初々しい反応と新しい世界のぬくもりをじっくりと想起していた。
卑猥な表現ってどこまで大丈夫なんだろう




