嫌と言えない
翌朝、櫻田は東間と一緒に学校へと登校していると…。
「櫻田さん」
「っ!?」
名前を呼ばれて驚いた、というわけではない。
振り返りたくはないけれど、櫻田は声の主に振り返るしかなかった。
「おはよう」
声の主は昨日知り合ったばかりの佐木愛。
東間は櫻田の隣で『えっ、誰?』と、ぽかんと口を開けて固まっている。
他の生徒は佐木の方をちらっと見た後、何事もなかったかのように校門をくぐって通り過ぎて
いった。
「おはようございます」
櫻田は佐木に挨拶を返すものの、テンションは低め。
「あっ、そっちの子は櫻田さんのお友達?」
「…はい」
「そうなんだ!初めまして。私、S組の佐木愛です」
「あっ…どっ、どうも…C組の東間美雪です」
「東間さんね。それじゃあ、またね」
「「……」」
佐木が何をしたかったのか、櫻田と東間の二人には全く理解出来なかった。
その後、二人は靴を履きかえて自分達の教室に荷物を置くと、すぐに少人数教室へと向かった。
理由は他の生徒に聞かれないよう、二人きりで内緒話をするためだ。
「なぁ?今朝のあれ、なんだったんだよ」
少人数教室前について早々に突っかかってくる東間。
「あれって?」
「決まってんだろ!今朝校門前で会った女のことだよっ」
「あぁ……佐木さんね」
「そう、そいつだよ」
お互いに自己紹介したはずなのに、東間は佐木の名前を早くから忘れていた。
覚えやすい名前だとは思うが、第一印象が悪かったせいかすっと出てこなかったらしい。
「木崎と宮間君のクラスメイト」
「それは知ってるっ。私が知りたいのは、お前との関係だよ!」
「昨日…トイレで知り合った」
「はっ?トイレ?」
東間は何を言ってるんだ?とばかりに呟く。
櫻田は話を続けた。
「手洗った時、彼女がリップクリームを落として、それを僕が拾った。それからなんか絡んで
きて……あーなった」
他の人間から見れば、東間が櫻田をいじめているようにしか見えない絵面だ。
誰かいれば勘違いして教師を呼ばれて注意されていたかもしれないが、幸いに通行人はおらず、
そこには彼女達しかいなかった。
だからといって、いじめやそれに疑わしい行動をするのは絶対にだめなことである。
まぁ、それはともかく、櫻田から事情を聞いた東間は深いため息をついて…。
「櫻田。嫌なら嫌ってはっきり言った方がいいぞ」
あまり詳しい説明ではなかったが、東間はだいたいのことを把握して櫻田に真面目な顔をして
言い放つ。それに対し櫻田は目を逸らして小さな声で「分かってるよ」と呟く。
東間は櫻田のことを心配して言ってくれたが、それがなかなか言えないのが現状だ。
この小さな返事に東間はますます彼女のことが心配になってしまう。
「木崎君達のクラスの子だからって気を遣ってんじゃねぇぞ」
「あぁ…ありがとう、東間」
櫻田と東間はそう話した後、自分達の教室へと戻って行った。
だがしかし、二人が去ったのを確認してどこかから姿を現す一人の生徒がいたことを彼女達
は全く知らなかった。




