接触
佐木は櫻田と自然に接触するべく、休み時間に彼女が在籍するA組を張り込んでいた。
狙うは櫻田が一人になった瞬間。
友人を連れているのはNG。
ごく自然な形で遭遇し、話すきっかけを作り仲良くなる。
そして、彼女を通して、宮間との距離をぎゅっと縮めていく作戦だ。
だがしかし、この完璧な作戦には大きな問題がある。
「あっ、来たっ」
櫻田がA組の教室から一人で出てきた。
方向からしてトイレに向かっていると推測した佐木は、彼女の後を急ぎ足で追った。
櫻田がトイレに入っている間、佐木は洗面台の鏡の前に立って髪型をチェック。
スマホで時間を確認していると、櫻田が奥のトイレから出てきて、佐木の隣の洗面台で手を洗い
にやって来た。
『…よしっ。今だっ!』
佐木は、スカートのポケットからリップクリームを取り出し、わざと櫻田の方へ落とした。
「あっ!」
ころころ転がるリップクリーム。
櫻田は佐木の声で「ん?」と呟いた後、自分の足元に丸い物が転がってることに気づく。
「ごめんなさい」
佐木は慌てた振りをして櫻田の足元にあるリップクリームを取る。
「いえ…大丈夫です」
接触して話すことは出来た。
ただ問題はこの後である。
櫻田は手を洗い終えると、佐木に軽く頭を下げて教室へと戻ってしまう。
「あっ、待ってっ!」
佐木は後を追いかけた。
「ねぇ。貴女、何組?私、S組なんだけど」
「…A組です」
「A組!?じゃあ、お隣さんだね」
「…そうですね」
櫻田はトイレでちょっと会話しただけの佐木に、若干鬱陶しく感じていた。
それに木崎・宮間以外のS組の生徒と話したことがないのにも原因がある。
「あっ、ごめんね。初対面なのに馴れ馴れしく話しちゃって……嫌だった?」
「…いえ。そんなことはないですよ」
正直に言ってしまえば、相手が傷つく。
櫻田は優しい嘘をついた。
「ありがとうっ!あっ、良かったら名前教えて?私は佐木愛だよ」
「…櫻田柳です」
「櫻田さんね。お隣さんだから、たまに休み時間に遊びに来てよ。いつでもウェルカムだから」
「いっ、いや…それは遠慮します」
「どうして?」
「入りづらい」
これは本音。
「大丈夫だよ。皆優しい子ばっかりだし、噛みついたりしないよ」
「いや…そういうことじゃなくて…」
櫻田は初対面の人間に自分の事情を話すのがめんどくさくなった。
一方佐木は、S組に来てもらわなきゃこちらの作戦が進まないと少しばかりイライラしていた。
しかし、ここで二人に救世主が現れる。
「櫻田」
「「っ!?」」
名前を呼ばれたのは櫻田だが、佐木も反応する。
なぜなら呼んだ声の主が、宮間だったからだ。
「「宮間君!?」」
「お前、佐木さんと知り合いだったのか?」
「いえ、違いま…「さっきばったり会って、私達仲良しになったの!」
櫻田の言葉を遮り、佐木が宮間に説明する。
だが、櫻田は仲良しになった覚えはない。
「宮間君こそ、櫻田さんと知り合いだったの?」
「あぁ」
「へぇ~そうなんだ。偶然だね!」
全然偶然ではない。
これは彼女の意図的な計画である。
「櫻田。そろそろ次の授業が始まるぞ」
「あっ、はい。じゃあ、また」
「ばいば~い」
櫻田が自分の教室へと戻るのを見送った後、佐木は宮間に「私達も帰りましょ」と可愛く
言ってさりげなく彼の腕を掴もうとした。
だが、宮間は「そうだな」と短い返事をして一人先にS組の教室へ戻ってしまう。
掴まれる前に避けられたことで、佐木の思考は止まる。
「…大丈夫。まだ、これからよ」
誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟いた後、佐木は宮間を追いかけて行ったのだった。




