一緒に中間考査の勉強をしよう作戦
その日のHR。各学年のクラス担任は中間考査の日時と各教科の試験範囲が書かれたプリントを
配り、受け持ちの生徒達に数分ほど注意事項の説明を行った。テスト一週間前に入る今日から各
部活動はお休みになり、生徒は早く帰って勉強しろと言われるある一部の生徒達にとっては嬉しい
ような苦しいようなこのテスト期間を利用して、佐木愛は再び行動に出る。
一時間目の授業が終わると、佐木はすぐにA組の教室を訪れて櫻田に声を掛けた。
「こんにちは、櫻田さん」
「佐木さん…こんにちは」
二度目の挨拶を交わした後、佐木は櫻田が持っている試験範囲のプリントを手に取る。
「中間考査もうすぐね」
「そうですね」
櫻田は短い返事で答える。
とてもじゃないがこのままでは話が続かない。
佐木はなんとか話を自分の手に持っていこうと考える。
「私、今回の中間自信ないのよねぇ~。先生がすごく難しいところ出してきて」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。本当、もうちょっと優しい問題も出してって感じで~」
「S組は大変ですね」
これも話が続かない。
佐木は大ピンチに陥った。
こうなったら最後の手段だと、佐木は定番の手に出る。
「そうだわっ。櫻田さん、私と一緒にテスト勉強しない?分からない所があったら私教えら
れるし」
定番中の定番。テスト一週間前になって勉強するものの自信がない。そんな時、助けになるの
は友達同士での教え合い。即ち一緒にテスト勉強である。櫻田が佐木のことを友達と思っている
かどうかはともかく、佐木は特進クラスのS組、櫻田はA組で佐木の方が断然成績は上なことは
確定済み。櫻田も頭の良い佐木の誘いを断るはずも……。
「ごめんなさい」
ない…はずだった。
「実は私、放課後残って他の人と勉強会するんです」
「あら、そうだったの。もしかして…宮間君と?」
「ええ。そうですけど」
櫻田の正直な回答に佐木は数秒の間、意識が飛んだ。
宮間が少人数教室を利用して勉強しているという噂を耳にしたことはあるが、実際本人から
そのことを聞きだすタイミングと荒矢谷のこともあり、確証を得なかった。しかし、こうして
証人がいるのだから、彼が少人数教室で勉強しているのは間違いない。佐木はますますこの
チャンスをものにしたいと考えた。
「じゃあ、私も混ぜてもらおっかな。宮間君とは同じクラスだし、櫻田さんとも一緒に勉強
出来るから一石二鳥だよね」
勉強会へ参加することで、宮間との距離を一気に縮めようとする作戦。彼女が求めるものは
櫻田柳ではなく、宮間結斗の心一筋。友情よりも自分自身の恋を優先する、それが
今の佐木愛を動かす原動力!
「えっと…私は構いませんけど。宮間君さえよければ」
櫻田の許しは得た。これで宮間から許可を得れば、佐木の勉強会参加が決定する。
「OK。じゃあ、宮間君に話してみるわ。ありがとう」
「あっ、はい…」
佐木は急いでA組の教室を去って行った。その様子を見ていた稲井が櫻田に声を掛ける。
「櫻田さん。大丈夫?」
「…あぁ、うん。大丈夫」
「あの人、宮間君の話になると目の色変わったね。もしかして…宮間君のこと好きなのかな?」
「えっ?そうなの?」
「いや、分からないけど…たぶんそうじゃないかなって」
「そっか。なるほどね」
櫻田は自分が利用されている可能性にようやく気がついた。そうなると、東間の言った通り、
宮間と木崎のクラスメイトだからといって遠慮する必要はもうないなと…そう思うようになった。
S組に戻った佐木は、早速宮間の元へ歩み寄り、勉強会の交渉を行った。先程の櫻田の話を
聞いて勉強会のことを知り、彼女の承諾は得たと話す。
「そんなに悪い話じゃないと思うの。どうかな?宮間君達の勉強会に私も混ぜてもらえない?」
美少女の武器をプラスして、櫻田の承諾。これほど強い武器を持っての交渉に宮間の返事は…。
「佐木さんの成績なら勉強会に参加しなくても問題ないでしょう。むしろ、しなくていいと
言ってもいいくらいです」
一刀両断で却下された。だが、話はそれで終わりではない。
「成績が悪い・ろくに勉強していない連中をこの一週間という短い期間にどれだけ己の頭に
叩きこめるのかの瀬戸際ですから、逆に優等生の佐木さんが参加することで多少は良くなる
可能性はありますが…勉強会には櫻田だけじゃなく、道久も参加するので」
「えっ、道久君も参加するの?」
ここで佐木の想定外の人物名が浮上したことで、思わず驚いてしまう。
佐木が教室を出た後、畑本が宮間を訪ねてきた。話を聞けば、担任教師に中間考査で赤点を
取ったら期末の成績に関係なく夏休みは補習行きと言われてしまい、慌てて宮間に助けを求め
たと言う。
「あれでも僕の友人なので、見捨てるわけにもいかなくて」
「そっ、そうなの…」
「それに佐木さんには先約がいるのでは?ほらっ、いつも一緒にいる荒矢谷君と」
「あっ、あれは別にそんなんじゃないわよ。勘違いしないで」
「僕がどうかしたの?」
佐木と宮間が話しているところに、荒矢谷が割り込んでくる。先程まで姿が見当たらなかった
というのにいったいいつからいたのだろうか…。
「僕の勉強会に参加するより、彼と一緒に勉強した方がはかどるでしょう。同じクラスで仲良
いんですから」
「えっ、ちょっと待って。みや…」
「僕も佐木さんと試験勉強したい気持ちもありますが、僕には…彼らがいるので」
「あっ……」
佐木は遠回しに断られ、作戦は失敗。
だが、これで諦めるつもりはなく、また一から新しい作戦を練り直すことにしたのだった。




