私にラブレターが届いたよ
その日は快晴で、洗濯物を干すには絶好日和だった。
休日であれば、朝から干せるのに残念であると櫻田は一人通学路を歩きながら思う。
そんな彼女に一人の女子生徒が声を掛けた。
「よっ、櫻田」
名前を呼ばれて振り返れば、東間だった。
「東間。おはよう」
櫻田はそっけないように挨拶すると、再び歩き出す。
それと同時に東間も彼女の隣に並んだ。
「なぁ、櫻田。昨日のドラマ見たか?」
「ドラマ…あぁ、あの恋愛ドラマか。見たよ」
二人が話しているのは、少女漫画原作の実写ドラマ。
地味で目立たない主人公の女子が、廊下でとある男子とぶつかり、彼の生徒手帳を拾ったこと
から彼女の人生が大きく変わっていく物語となっている。
「ひびき君の壁ドンやばくない?マジかっこ良かったんだけど」
「あー、それ真保も言ってたわ。僕はよく分かんなかったが」
櫻田はむしろ、あんなことをして手が痛くないのかと心配していて、二人のようにはときめか
なかった。
「はぁ~お前は分かってないなぁ~」
「悪かったな。分からなくて」
「あぁ…一度でいいからあんなことされてみたいよ」
「それなら力君に頼んでやってもらえよ、壁ドン」
「ちげぇよ!そうじゃなくて、彼氏!」
「へっ?」
櫻田は思わず変な声をあげてしまう。
「私、ひびき君みたいなかっこ良い彼氏が欲しいな~」
「そっ。僕はひびきのことあんまり好きじゃないけど」
「んじゃあ、お前は誰が好きなんだよ」
「…名前は忘れたけど、隣のクラスの男子だ」
「あー…あいつか。お前、変わってるな」
「僕はちゃらい男子より、優しい男子が好きなんだよ」
「優しいだけじゃつまんねぇーよ」
「いいんだよ。つまんなくて」
そこまで話をしたところで学校へ到着したため、二人は一度別れて自分達の教室へと向かった。
櫻田が自分の教室へ入り、教科書類を机の中へ入れいていると「櫻田ー!」と外から東間の声
が聞こえてきた。
いったい何事だと櫻田や他の生徒達も注目する中、東間はA組の教室へ入って来た。
「どうしたんだよ。そんなに慌てて」
櫻田は事情を聞こうとしたが、東間は彼女の左腕を強く掴む。
「いいから、ちょっと来て!」
腕を引っ張って櫻田を連れて行った場所は、いつも勉強会をしている少人数教室前だった。
「いったいどうしたっていうんだよ」
着いたところで櫻田は早速東間に事情を尋ねてみる。
すると東間は「じっ、実はな…」と、スカートのポケットから一通の手紙を取り出した。
「私の机の中にあったんだ」
「中身は見たのか?」
「見た」
「何て書いてあったんだ?」
「ざっと目を通しただけだが……らっ、ラブレターっぽいんだ」
「はっ?ラブレター?」
櫻田は東間の目を黙ってじっと見つめる。
「うっ、嘘じゃねぇーよ!疑うなら読んでみろよっ!」
「…では」
信じられないが、櫻田は手紙の内容に早速目を通してみた。
それから数秒の沈黙後…。
「確かに、本物みたいだな。疑ってすまなかった」
櫻田は東間に頭を下げて謝罪した。
それに対し東間は「分かればいい」となぜか威張っていた。
だが、そんなことをしている場合ではない。
「しかし、お前にラブレターだなんて夢みたいな話じゃないか」
「私だってそう思ったさ。なんせ自分の机の中にラブレターが入ってるんだからな」
どうやら本人が一番驚いていたようだ。
「差出人の名前は書いてなかったが、どうするつもりなんだ?」
手紙には今日の放課後に屋上で待っていると書いてある。
もちろん行く行かないはこの手紙をもらった東間が決めることだ。
「櫻田、一生のお願いを聞いてくれるか?」
「なんだよ」
「お願いっ!一緒についてきてっ!」
「…そういうと思ったよ」
櫻田はもちろん彼女の一生のお願いを承諾した。
手紙の送り主がいったいどんな人間なのか、この目で見てみたいという気持ちがあったからだ。
「あと、このことは私とお前だけの秘密な」
「あぁ、分かったよ。誰にも言わない」
「絶対だぞ」
「分かった、分かった」
その日の授業が終わり、放課後になると東間が櫻田のいるA組まで迎えにやって来た。
櫻田は稲井と話していたが、東間に引っ張られてスタスタと屋上へ向かう。
「じゃあ、行ってくる」
「健闘を祈ります」
東間は櫻田からの励ましをもらうと、重い扉を開けていざ出陣。
ところが…。
「櫻田。お前もこいっ!」
「えっ、どうしたんだよ。おいっ!」
もう話は終わったのかと思ったが、なぜか東間は櫻田を連れていく。
いったいどうするつもりかとドキドキしていたが、櫻田の目に映ったのは彼女達が良く知る
一人の後輩だった。
「あっ、こんにちは…」
「力君!?」
「まさか力君が東間にラブレターを出したの?」
「はっ、はい…」
「えっ?まさか力君、東間のことを…」
「ちっ、違いますっ!誤解ですっ!これにはいろいろわけが」
「ほぉ。どういうわけがあるんだね?力」
「そっ、それは…その…」
「詳しく聞かせてもらおうか」
「じっ、実は…」
茅野瀬の説明では、部活の先輩(二年生)に東間と同じクラスの女子生徒に手紙を渡して
ほしいと頼まれたらしい。しかし、直接その女子生徒に渡すのは恥ずかしいので、彼女の机
の中に入れることを考えた。ところがいざ、入れた場所は東間の机。途中でそのことに気が
ついて、茅野瀬は東間にそのことを伝えようと休み時間に教室へ向かったが、東間の様子を
廊下側から見て言うに言い出せなかったらしい。
「東間にラブレターなんておかしいと思ったんだよ」
「もうそのことは言うな…あぁ……ひびき君のような男子が来るかもってちょっとは期待
してたのになぁ…」
「すみません。そういうことなんで、その手紙返してもらっても良いですか?」
「あぁ、いいとも。ただし、条件があるがな」
「なっ、なんでしょう。東間先輩」
「好きな女子に告白するなら人の手を借りず、自分で動いて告白しろってその二年生に伝
えろ。それが条件だ」
「…分かりました。伝えておきます」
「よろしい」
茅野瀬は東間から手紙を受け取ると頭を下げて屋上から去って行った。
その翌日、東間の伝言を聞いた二年生は、好きな女子に自ら告白してあっさり振られてし
まったと二人は茅野瀬から失恋の報告を受けたのであった。




