ファッション雑誌
12月が終わった後はお正月。
「櫻田。あけおめぇ~」
「東間。あけおめ」
東間が櫻田家を訪ねてきた。
ちなみに家には柳しかおらず、他の家族は出かけていた。
「なぁ。冬休みの宿題終わった?」
部屋に入ると、東間がそう尋ねてきた。
冬休みも残りわずかなので、その話になるのも分からなくはない。
「あぁ…終わったよ」
「えっ、マジでっ?早くね?」
驚いている東間。
櫻田は『こいつ、まだ終わってないな』と心の中で思う。
「というより…終わらされた」
「へっ?どゆこと?」
東間はさっぱり分からないというような顔をしたので、 櫻田はそうなった事情を詳しく説明する。
「あららぁ~それは櫻田にとって災難だったね」
一通り説明し終えて、東間の口から出た言葉は『災難』だった。
「うん。ほんとそれだ」
思い返せば、本当にその言葉の通りだと思う櫻田。
「けどさ。宮間君にもそういうとこあるんだね。意外だわ」
東間が言っているのは、年賀状の件である。
年賀状の話が非常にうけたらしく、東間はまだ少し笑っていた。
「たぶんだけどさ…木崎君んちに行くついでに年賀状持って行って忘れたんじゃないか?」
「それ、僕も思った」
「うん。で、木崎君んちか道久君んちで気づいて…って感じじゃね?」
東間はまた笑う。
「そうかもな。有り得る」
用事で出かけるついでに、あそこに寄ろうと思っていたのに忘れてしまったと言うパターンだ。
「だろ?きっとそれだ、それっ」
真実は分からないが、きっとそうに違いない。
櫻田と東間は数分間その話に花を咲かせていた。
本人にそのことを知られたらタダでは済まなさそうだが、それでも彼女達は止まらなかった。
「あぁ、そうだ」
ふと何かを思い出した東間は、自分の鞄から本屋の袋を取り出す。
「ほれ。頼まれもの」
櫻田は東間から袋を受けると、「サンキュー。助かったよ」と早速中身を確認する。
「東間、レシートは?」
「ん?中に入ってるだろ?」
「ん。…あぁ。あったあった」
袋の中からレシートを発見し、櫻田は財布から小銭を取り出して東間に支払う。
「…なぁ、櫻田」
代金を受け取った後、東間が櫻田に言いにくそうに話しかける。
「ん、なんだ?ちょうど払っただろ?」
代金はしっかりおつりのないように、きっちりと揃えたはずだ。
櫻田はそう思っていたのだが、東間が言いたかったのはそういうことではなかった。
「いやっ、そうじゃなくて…お前、その本どうするつもり?」
東間は袋に入ってある本のことを尋ねた。なぜならその本は…。
「どうもこうも、参考に読むんだよ。ファッション雑誌なんだから」
家に来るついでに本屋でファッション雑誌を買ってきてほしいと頼まれた東間。
電話だったので東間は思わず、「えっ…今何て?」と聞き返してしまうほど驚いてしまう。
出来れば聞き間違いであってほしいと願うほどに…。
「いやっ、そうだけど…そうだけどさ。お前、ファッションに興味とかなかっただろ?」
「あぁ、ないよ」
即答されてしまった東間は困った顔をする。
そんな東間の顔を見て、櫻田は少し間を空けてから次のように話した。
「これには…いろいろと事情があるんだ。悪いが、まだお前には話せない」
「…そうか」
「ごめん。東間」
「いや、いいよ。お前にも言えないことはあるだろうしな。気にしない」
東間は笑顔で話すが、本当のところどう思っているのか…櫻田には分からなかった。
心が読めれば苦労はしないのだが、彼女はそんな超能力は持っていない。
しかし、人間誰しも隠し事の一つや二つ持って当たり前で、友人や家族・恋人でさえも秘密にして
いることだってあるのだ。もし、他人の心が読めるようになってしまったら…それはそれで自分に苦
を与えるかも。
「せっかく私が買ったんだからな。しっかり勉強しろよ?」
「おいおい、あんまプレッシャーかけないでくれよ」
「まぁ、頑張れって。応援してっから」
「…うん」
どういう意味での応援かはともかく、櫻田は東間の言葉を聞いて『頑張ろう』と思った。
たかがファッション雑誌を買うだけで大げさかもしれないが、これは櫻田柳にとっては大きな一歩な
のである。




