妹からの相談
その日の夜のことだ。夕食を取り、風呂・歯磨きと済ませた柳は自分の部屋で中間考査のテスト勉強
をしていた。午後11時30分になったところで、「さぁ~て、そろそろ寝ようかな」と椅子から立ち
上がろうとした時、扉からコンコンとノックの音が聞こえた。
「お姉ちゃん、起きてる?」
声は妹のものだった。柳はすぐに扉へと駆け寄り、ドアノブを回してガチャンと開ける。
「どうしたの?」
妹の顔を見てから柳は優しく尋ねる。
「ちょっと相談したいことがあって…いいかな?」
こんな遅い時間に自分に相談?と柳は思ったが、「いいよ。おいで」と真保を部屋の中へと招き入れ
る。先程まで座っていた椅子に妹を座らせ、自分は床へと座り込むと「それで相談ってなに?」と
尋ねる。
「…実はね。進路のことなんだけど」
「うん」
恋愛相談でなくて安心する。それだと全然力になれない。
「私、勇お兄ちゃんがいる高校に行きたいって考えてて」
「へぇ~」
初耳だった。公立高校だろうなとは考えていたが、まさか次男と同じ高校に進学することを考えてい
るなんて柳は思ってもみなかった。いや、ただ自分が進路に関して無関心すぎただけかもしれない。
「でも、担任の先生に今の成績じゃ無理だって言われて」
「そうなの?担任って誰だっけ?」
「みっ、光寺先生」
「…男?女?」
「女だよ」
それを聞いた柳は「あぁ~あの石頭眼鏡か」と変な顔をして答える。真保は「そうそう」と同意する
ように首を縦に振る。
「あの人、女子に厳しいんだよなぁ~。僕も一度言われたことがある。で…その光寺先生に無理だっ
て強く言われたのか?」
「…うん」
「そっか」
「私…すごく悔しくて…。でも、それだけならまだ良かった」
「ん?」
「お姉ちゃんみたいに私立に行けばどう?って言われちゃったの。専願で」
その言葉に柳はカチンときた。妹の成績は自分よりもいいはず。それなのにどうして自分が出てくる
んだと思った。明らかに筋違いだ。光寺玉恵は柳が中学二年生の頃にやって来た
外見40代前半から40代後半ぐらい、身長は150cmほどの低身長で眼鏡を掛けた女性だ。柳が
男性か女性かを聞いたのは、男性教員に光寺という苗字を持つ人間がいたから。だが血縁関係はない
赤の他人、外見50代ぐらいの男性である。
「そのこと、お父さんに話したの?」
真保は無言で首を横に振る。
「そっか…真保と僕とじゃ、全然頭の良さが違うのになぁ~最低だな」
「…」
真保は下を向いていたため、姉が今どんな顔をしているのか分からなかった。このまま自分の胸の中
に閉まっていればとも思ったが、やはりそんなことは出来ない。黙っていられるはずがなかった。自
分は知っているのに姉だけがそのことを知らないというのが耐えられなかったのだ。それだけ真保は
姉である柳のことを慕っている。学力や周りなど関係なく…。
「でも、本人が言ってることも正しいんだよね。今の成績じゃ不合格になるってさ。それなら専願で
私立高校を受験した方が良いってなる。それだけなら…まだ許せたんだよね?」
「うん」
「僕と比べてることで真保は腹が立ってる?」
「当たり前じゃないっ!お姉ちゃんがバカにされたんだよ?腹が立つに決まってるよ」
「…そっか」
真保は良い子だなぁ…。
「分かった。お姉ちゃんに任せといて」
柳は立ち上がり、妹にそう宣言した。もちろん真保は自分の姉が何をしようと考えているかなんて
分かるはずがなかった。




