帰り道
大富豪を2、3回ほどし終えると、時刻はすっかり夕方になってしまった。
「じゃあそろそろお暇させてもらうよ」
「あっ。途中まで送りますよ」
「お前は夕飯の支度があるだろ?」
「でも…「それともまだ俺にいてほしいか?」
「…」
柳は言葉を失った。自分はそんなつもりで言ったわけじゃない。ただ送ってもらったから、なんとなく
自分も途中まで送らなければいけないかなと思っただけなのに…。
「何て顔してるんだ。冗談に決まってるだろ」
それはまるでからかっているかのようにも見えた。
どんな顔をしていたのかは分からないが、どうやら彼は柳が何を考えていたのかだいたい予想がつい
ているようだ。だが、『冗談』と聞いてしまうと柳はなんだか寂しい気持ちになってしまう。それが
いったいどういう意味での寂しいかは分からないまま…。
「お姉ちゃん、夕飯の支度なら私がやっておくよ。今日はお父さんもいるし」
「えっ…?」
姉達の会話を黙って聞いていた妹は、空気を読んだ。そして『自分が夕飯の支度をしておく』と言っ
た後に『父がいるから』と付け足して、姉が宮間を送れるように配慮する。正直ここまでされてしま
っては『いや、送らない』なんて言えず、柳は宮間を途中まで送ることにした。父親に『宮間君を
送ってくる』と一言告げてから、柳は宮間と共に家を出た。
家を出てから少しして、宮間は柳に話しかける。
「予想以上にいい気分転換になった」
「それは…良かったですね」
これは素直に喜ぶべきなのだろうかと彼女は悩む。だがご機嫌が良いことは間違いない。ここで
悪い方向へ行かせないため…「次の気分転換には東間の家とかどうですか?」とさりげなく聞いてみ
る。すると宮間は少し間を空けて「あぁ。それも良いかもしれないな」と答えたので、柳は心の中で
『よしっ!』と叫ぶ。
「だが、その前に中間考査の対策だ」
「…ですよね」
だが、喜びと同時に現実が突き刺さった。勉強という名の試練+現実だ。
柳は勉強会のことをすっかり忘れていたわけではない。今日は宮間が櫻田家に来たことで長男が
帰って来たこともあり、少しだけ勉強という言葉が頭から離れていただけ。中学の頃ならそんなこと
全然考えていなかったのに…。
「櫻田」
宮間に呼ばれた瞬間、身体がビクッと反応し「はいっ!?」と大きな声を出した後、「なんでしょ
う」と尋ねる。すると宮間は足を止めて「もうここでいいぞ」と彼女に答えた。そこは昨日二人が
帰りに分かれた場所の近くだった。どうやら考え事をしていたため気づかなかったらしい。
「あっ…はい。じゃあお気をつけて」
「あぁ」
柳は宮間に軽く頭を下げた後、来た道を戻って家に帰った。宮間は彼女の姿が見えなくなるまで、そ
の場を動かなかった。




