岬と勇
夕方になり東間が帰ってしばらくした頃、勇が家に帰って来た。
「ただいま~」
「おかえり、勇君」
「げっ!?あっ、兄貴帰ってたのかよ?」
いつもなら妹の二人がお出迎えしてくれるのだが、なぜか兄が出て来たために思わず驚いてしまう勇。
「今日の昼頃帰って来た。それより、勇君。こんな時間までどこへ行ってたのかな?」
「えっと…友達ん家で勉強会を…「そっかそっか。勇は大学受験だもんなぁ~頑張れよ。死ぬ気で」
「はっ…はい」
岬が弟を君付けにしている場合は、お願いをする時か怒っている時の二つである。そのため、勇は明ら
かに怒っているのだと悟る。理由は恐らく妹達に留守番をさせたことだろう。友達の家で勉強会をして
いたというのは本当のことだが、実際には午前中までやって午後からはゲームをして遊んでいた。岬は
妹のことだけでなく弟の事も良く見ているので、そこもしっかり予想は付いていた。だから、最後に
「死ぬ気で」と付けたのである。中学や高校受験も大変だが、大学受験ならそうもいかないだろう。現
役大学生の兄が言うのだから、勇もさすがに堪えた。これでも兄は自分よりも頭が良いから。
「もうすぐしたら柳達が飯作るらしいから、たまには手伝え。普段任せっきりなんだろ?」
「へーい、分かりましたよ。ちなみに何作るんだ?」
「カレーだってさ」
「マジかよ…こんな暑いのに「柳と真保が作った料理に文句付けんのか?」
「…すみませんでした」
例え家族だろうと親戚だろうと、それが親しい友人であろうとも妹達の悪口や文句を付ける人間には容
赦しない。彼の優先順位は…1番は妹(柳と真保)・2番に自分・3番に弟・父・4番は友人・その他
となっており、自分よりも妹達のことを最優先し弟と父は自分の次という何とも言えないものである。
「兄貴いつまでここにいるの?」
「何?俺がいちゃいけないの?」
「いやっ、そんなこと言ってねぇだろ?急に連絡もよこさねぇで帰って来たんだから気になるだろ?」
「3日ぐらいはいるつもり。その間は柳達と戯れる」
「兄貴その言い方、絶対に外でやるなよ?変態扱いされんぞ?」
この妹バカが言う「戯れる」はこの言葉の本来の意味とは弱冠異なる。現役大学生は忙しいので妹達に
なかなか会えないのがとても寂しく、ほとんど頭の中は妹のことでいっぱいいっぱい。それでもしっか
り大学生活を送れているし、背は低いがこれでもモテる。だが彼女は作らない。なぜなら彼女なんて作
ったら妹達に会える時間はなくなるし、どうしても妹と比べてしまうのでかわいそうになってくるから
と言うのが最大の理由。昔から彼のことを良く知る友人達は「お前以上に妹のことを大事に想っている
奴はいねぇよ」と口を揃えて言う。本人は褒め言葉だと受け止めているが、それは褒め言葉ではなく、
ただオブラートに包んでいるだけでその言葉の本当の意味に全く気付いてない。いいや、気づいていた
としてもポジティブなので他人にどう言われようが気にすることなく「うちの妹は世界一可愛いし、む
しろ他の男の嫁になんて出したくない」と言いそうな勢いなのである。
「心配しなくても言わねぇよ」
「それだったらいいけど…」
だが、それでも勇は岬のことを心配していた。大学に入ってからますますシスコン化していく兄の将来
が…。




