③食堂で親友と
学院の食堂でランチをとっていると、隣の女の子がキャーキャー騒いでいるのが見えた。
「それでね、彼が『びっくりしたけれどきてくれてうれしいよ』って。抱きしめてくれたの!」
「キャー! サプライズ成功ね」
「ロマンチック!」
「あこがれるわあ~」
恋する乙女たちの話に思わず耳がダンボになってしまうグレイスと違って、向かいの席に座るウエンディはしらっとしている。
ウエンディは幼なじみでグレイスの母や弟とも面識がある。我がトルライド家の内情を知る唯一の友人だ。
「ウエンディは彼にサプライズはしないの?」
「しないわよ。私の場合はあくまでも婚約者“候補”であって、まだ正式な婚約者じゃないもの」
そう言いながらウエンディが向けた視線の先には一つ上の学年のマクウェインがいた。
彼は男ばかり八人もいる集団の中心に座っている。「速い、旨い、安い」の三拍子そろった食堂名物「焼肉定食」をほおばりながら、友人同士でワイワイと盛り上がっているようだ。彼は、こちらの視線に気づくと、手を振ってきた。
ウエンディはそれに笑顔で応え、「それに男同士でつるんでいる方が楽しい人だしね」と続けた。
「そんなこと言っても彼、優秀でしょう? 昨年の剣術大会なんて、並み居る強者を押しのけて二位だったじゃない」
グレイスたちが通うオーラルート学院は十四歳から入学でき、十八歳で卒業を迎える四年制の教育施設である。グレイスは今、二学年に在籍中だ。
生徒たちは、騎士コース、領主コース、一般教養コースのいずれかのコースを履修中することができる。そして、それぞれのコースにおける必修単位の修得をクリアすることが、卒業要件なのだ。なお、自分の選択したコース以外の授業を受講する自由も認められている。
ウエンディはサンバリーダ侯爵家の長女で一人っ子であるため、領主コースに籍を置き、実父により将来のお婿さん探しを課せられている。今のところ最有力はマクウェイン。
彼は既にサンバリーダ侯爵のお気に入りなのだ。
「まあたしかに優秀ね。二年生が二位というのは快挙だったわ」
「彼、頭脳も明晰なんでしょ? 外見もウエンディの好みから外れていないじゃない」
まあね、と返すウエンディの頬はほんのり紅色に染まっていた。
気の強い美人が照れる姿はいい! グレイスはニマニマしてしまう。
何よ! と睨んでくるが、かわいいだけである。
コースが分かれてしまったから学院内ではあまり会えないけれど、こうしてお昼ごはんは一緒に食べることができるし、時間をみつけてはサンバリーダ邸に招いてくれるウエンディに、グレイスは感謝していた。
「それはそうと、マイケル様と交流はあるの?」
気づかわし気なウエンディを安心させるようにグレイスは笑顔を返す。
「三日前に来てくれたよ」
「なら、いいんだけれど……。最近あまり、その、いい噂をきかないものだから」
その時もらった花束のことや学院の話をねだられたことなどを伝えると、彼女はうなずきながらもどこか浮かない様子である。
だからグレイスも、思い切ってマイケルの事をたずねてみることにした。
「どんな噂?」
「グレイスにとっては、あまり気持ちの良くない話なのだけれどね。マイケル様が浮気をしているっていうの」
グレイスを気遣いながらも、ウエンディはそう言い切った。
「そっかあ。まあ、マイケルはモテるし、そんな噂がたつのも分かるよ。だから、ウエンディは気にしないでね。むしろ、言いにくいのに教えてくれてありがとう」
「変なこと言ってごめん。でも、なんかあったらいつでも相談にのるからね? また家に遊びにきてもいいんだから」
ウエンディは小さいころ、グレイスが母であるカトリーナに冷たくあたられている場面を何度か目撃したことがある。その度に、「うちに遊びにきてよ」と誘い出してくれたのだ。
カトリーナは貴族意識が強いのか、侯爵家の継嗣であるウエンディには下手にでる。
「うん。お泊り会は楽しいから、何もなくても行ってもいい?」
いたずらっぽく微笑むグレイスに、ウエンディは口角をあげて応じた。
「うちの家族はグレイスならいつでも歓迎よ? お母さまなんか、娘がこんなにしらっとしたタイプなものだから、グレイスが来るのを心待ちにしているのよ。着せ替えごっこが始まるかもしれないけれど、付き合ってあげてちょうだい」
二人は楽しそうに微笑みあった。
次回、マイケルの浮気現場です。
以降の話はお昼ごろ投稿予定です。読んでいただけたら嬉しいです。




