⑬買い物の練習
その日、アメリーとサミュエル、ドレイク以下護衛たちは、トルライド家の南側にある広い空き部屋に来ていた。
アメリーの書いた学習予定を見ながら、その場にいる者全員で学習の準備をしていく。
ふかふか絨毯をひいてその上にクッションを置き、壁には大きな文字盤を設置する。そして、休憩用テーブルセットと水分補給用のポットを準備して。
「さあ、サムくん。始めましょうか」
アメリーは部屋の真ん中に陣取った。大きなソファを自分の対面におき、サミュエルを手招きする。
市場に行って買い物学習をするには、お金の価値について触れておかなければいけない。
そう思ったアメリーは、練習の場を設けることにした。
「ここに銀貨、銅貨、鉄貨があります。これは全部お金よ。サムくんは見たことある?」
アメリーが小さなトレーに四種類のコインを乗せて見せていた。サミュエルに問いかけると、彼は元気に手をあげて答えた。
「ある! おんまのおにいたんが、みせてくれたの」
サミュエルが見たことがあると言ったのは、茶色いお金の銅貨。因みに「おんまのおにいたん」とは、トルライド家の厩舎で働いている馬丁見習いである。
「サムくんがお馬のお兄さんにみせてもらったこれは、「銅貨」といいます。この銅貨をたくさんあつめると、「銀貨」になります」
アメリーは、銅貨と銀貨を両手に一まいずつ持って見せた。
「わあ! いろがちがう」
「そうなの。こっちの銀貨の方がピカピカしているでしょ? これは高いお金の証拠なの」
「たかい? おっきい?」
サミュエルが立ち上がって背伸びをする。
「そうね。おおきいし、「多い」のよ」
アメリーは大きな袋を取り出した。中からはジャラジャラ音が聞こえてくる。
袋を逆さまにしてサッと中身を出せば、銅貨の小山ができた。
「銅貨百まいで銀貨一まいと同じ価値があるの。百数えるのはまだ難しいから、この小さいお山と、この銀貨は同じとおぼえてくれればいいわ」
「このおやまとピカピカはおなじ?」
「そうよ。ピカピカはつよいでしょ?」
「つおい!」
サミュエルの瞳は銀貨をとらえ、らんらんと輝いている。
「そして、これが「鉄貨」といいます。この鉄貨とさっきの銅貨では、どちらがつよいでしょう?」
「こっち! おっきい!」
サミュエルは銅貨を指さす。
「正解! 鉄貨をたくさん集めると、銅貨になります」
アメリーは先ほどと同じように袋から鉄貨をザっと出した。鉄貨の小山を作って見せる。
「このお山と、この茶色の銅貨一枚は同じ強さなの」
「つおいね! ちゃいろつおい!」
「じゃあこの中で、一番強いのはどれでしょう?」
アメリーは銅貨、鉄貨、銀貨を一枚ずつ、サミュエルの前に置く。
彼はうーん、と悩んだ後で、銀のコインをとった。
「これ! ピカピカはつおい!」
「正解! じゃあ、これとこれでは、どっちが強い?」
鉄貨と銅貨をみるサミュエル。これは難なく銅貨を選ぶ。
「こっち! 大きいから、つおい!」
「サムくん、よくできました! このピカピカさんは大人の買い物でよく使うのだけれど、今日の買い物では、この茶色さんを使います。お店の人が『銅貨一枚です』って言ったら、一枚渡してね。じゃあ、やってみましょうか」
アメリーは、置いてあったついたての後ろに回り、大きな袋を持ってきた。そして中からりんご、みかん、バナナ、ぶどう、クッキーの袋などをとって並べていく。
これから店員さんとお客さんとの「ごっこ遊び」をするのだ。
「いらっしゃいませ! そこのカワイイ男の子。うちの果物なんてどうかねえ。買っていかないかい?」
アメリーが老婆の様に声色を変えて言うので、後ろに控えているドレイクたちは、その芸達者ぶりに横を向いて笑いをこらえている。
「これ、くだしゃい」
「そのぶどうはおいしいから、銅貨二枚だよっ」
サミュエルは銅貨の山から二枚とってわたす。バッチリ正解である。
「毎度あり! っとこういう感じ。サムくん、できたじゃない」
「もっとやりたい!」
サミュエルからのリクエストに、アメリーは笑顔になる。
「いいわよ? じゃあ、さっきより難しくしようかしら」
わざと目を細めて挑発するようにサミュエルを見れば、彼は「ぼく、できる!」と大きくうなずいた。
アメリーはこほん、と咳をしてのどの調子を整える。イメージするのは、ねじり鉢巻きの威勢のいいおじさんだ。
「さあ、買った、買ったぁ! うちの店は安いよぅ。クッキーなんかも大サービス中でぇい。お兄ちゃん、一つどうだい?」
「そのクッキーおいしいでしゅか?」
「おう! あったぼーよぅ、ほっぺたが落ちるってぇもんよ。銅貨五枚でどうだい?」
「うーん。おまけしてくだしゃい」
「かわいい子にいわれちゃあしょうがないな。銅貨三枚でいいよ!」
「ありがとうごじゃいましゅ」
今度も間違えることなく銅貨三枚を選び取るサミュエル。教えてもいないのに値段交渉を始める利発さに、いつの間にか後ろの観客たちから拍手がおくられていた。
アメリーは声をかえての熱演により少々疲れていたが「サムくん、すごいわね」とたくさんほめたのだった。
拙作を読んでくださる皆さん、ありがとうございます。流行りの要素があまりない作品ではありますが、鉱山関係の事件は思ったより根深く、登場人物の心の葛藤も続きます。ゆるやかに進む物語に、どうぞお付き合いくださいませ。




