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『俺、ラノベの真似して勉強してるだけなんですけど、なんで東大判定出てるんですか?』  作者: さらん
第一部:一年生

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3/10

■第3話 努力を裏切るのは、いつだって「睡眠不足」だ

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


 夏休み直前に行われる、全国規模の記述模試。


 予備校の生徒たちがこぞって受けるこの試験は、今の自分の立ち位置を測る「最初のボス戦」と言っても過言ではない。


 試験会場となった大学の大教室は、冷房がガンガンに効いているにもかかわらず、受験生たちの放つ異様な熱気で息苦しいほどだった。


「ふぁぁ……やば、昨日も三時間しか寝てねえ……」

「俺なんかエナジードリンク三本目だよ。心臓バクバクするわ」


 周囲の席からは、そんな会話が聞こえてくる。上のクラスにいる優等生たちですら、目の下に濃いクマを作り、限界ギリギリの顔で参考書に齧り付いていた。


(……馬鹿め。ボス戦の前に、わざわざ自分にデバフ(状態異常)をかけてどうする)

 俺は心の中で、ラノベの主人公・キースラインのように冷たく吐き捨てた。


 俺は昨日、いつも通り十二時に寝て、きっちり八時間睡眠をとってきた。体調は万全。頭の中には靄ひとつかかっていない。


 涼子は斜め前の席に座っていたが、その背中は試験開始前からすでに疲れ切っているように見えた。


『――それでは、解答を始めてください』


 試験監督の声と共に、一斉に問題用紙をめくる音が響く。


 俺も深呼吸をして、最初の科目である英語の問題に目を通した。


(……よし。分かる。読めるぞ……!)

 予備校のマニアックな授業を無視し、ひたすら「基礎の単語」と「よく出る長文のパターン」だけを反復してきた成果が、ここで爆発した。難解な単語は推測で飛ばし、文の構造だけをシンプルに拾っていく。


 そして数学。

 大問4の応用問題を見た瞬間、俺のペンが止まった。


(……なんだこれ。条件が複雑すぎる。今の俺のレベルじゃ、どう足掻いても解けないぞ)

 以前の俺なら、ここでパニックになり、「どうにかして解かなきゃ」と無駄に時間を浪費していただろう。だが、今の俺は違う。


(……この問題にかける時間は『無駄』だ。捨てる)

 俺は一切の未練なく大問4に大きくバツ印をつけ、余った二十分の時間を、大問1と大問2の「絶対に落としてはいけない基礎問題」の見直し(検算)に全振りした。結果、二つの計算ミスを発見し、修正することに成功した。


(完璧だ。取れる点数は、一滴残らず回収した)

 試験終了のチャイムが鳴った時、俺はかつてないほどの静かな達成感に包まれていた。

 斜め前の席で、涼子が真っ青な顔をして机に突っ伏しているのには気づかないフリをした。


 ***


 それから一ヶ月後。夏期講習の真っ只中の予備校で、あの模試の成績表が返却された。


 ロビーの隅で、俺は自分の封筒をペリッと破った。

 志望校判定の欄を見る。


【第一志望(国立大):C判定】

【第二志望(私立大):B判定】


「……っし!」


 俺は思わず、小さくガッツポーズをした。

 春の模試では、どこを書いても「E判定(合格可能性20%以下)」の底辺だったのだ。それが、基礎を徹底し、取るべき問題だけを確実に取るという「当たり前の戦略」に切り替えただけで、一気に合格圏内にまで肉薄した。


(キースラインのやり方は、現実でも間違ってなかった……!)

 俺が静かに興奮を噛み締めていると、不意に背後から声をかけられた。


「……陽太。あんた、判定どうだった?」


 振り返ると、涼子が幽鬼のような顔で立っていた。

 その手には、くしゃくしゃに握りしめられた成績表が握られている。


「俺は……まあ、C判定。前回よりはマシになったかな。涼子は?」

「…………」


 涼子は答えず、ギリッと唇を噛み締めた。そして、泣くのを我慢するように上を向き、震える声で言った。


「全部、E判定。……偏差値、春より下がってた」

「え……」

「毎日、夜中の三時まで勉強したのに。予備校の宿題だって、一回もサボらずに全部やったのに……なんで」


 涼子の目から、ついに堪えきれなくなった涙がポロポロとこぼれ落ちた。


「陽太はいつも早く帰って、自習室でも休んでばっかりだったじゃない! なんで、サボってた陽太の方が成績上がって、ずっと頑張ってた私が落ちるのよ! そんなの、理不尽じゃない……っ!」

「涼子……」

「私、バカなのかな……。才能、ないのかな……」


 周囲の目も気にせず、ボロボロと泣き崩れる幼馴染。


 俺は、成績が上がって浮かれていた自分を恥じた。俺が「効率化」のゲームを楽しんでいる間、彼女はずっと、出口のない迷路を全速力で走らされて、ボロボロになっていたのだ。


(……キースラインなら、こういう時どうする?)

 あいつは冷徹だけど、仲間のピンチを見捨てるような奴じゃなかったはずだ。


「……バカじゃないよ、お前は」


 俺は、できるだけ落ち着いた、普通の言葉で彼女に語りかけた。


「お前はバカでもないし、才能がないわけでもない。ただ、『やり方』が間違ってるだけだ」

「やり、方……?」

「そうだ。人間は機械じゃないんだ。睡眠を削って頭がフラフラの状態で、無理やり難しい問題集を百ページやったって、脳みそには一ミリも記憶されない。……努力を裏切るのは、いつだって『睡眠不足』と『無駄な完璧主義』なんだよ」


 俺は、涼子の手からくしゃくしゃになった成績表をそっと抜き取った。


 そこには、俺と同じように「基礎問題の計算ミス」や「長文の読み飛ばし」による失点が無数に記録されていた。頭が働いていなかった証拠だ。


「予備校の宿題なんて、全部やる必要ない。お前が今日からやるべきなのは、八時間きっちり寝ることと、自分が間違えた基礎問題だけをやり直すことだ。応用問題は全部捨てろ」

「でも……そんなことしたら、予備校の授業に追いつけなく……」

「追いつかなくていい! いいか涼子、俺たちの敵は予備校の先生じゃない。入試問題だ」


 俺は涼子の両肩をガシッと掴み、真っ直ぐに彼女の目を見た。


「お前のその根性はすげえよ。俺には絶対真似できない。だから……その根性を、正しい方向に使え。俺が、お前の勉強のペース配分を全部考えてやるから」

「陽太……」

「今日はもう帰って、寝ろ。明日から、自習室の席は俺の隣だ。俺と同じペースで休んで、同じペースで勉強しろ。……絶対に、E判定から引き上げてやるから」


 痛いラノベのセリフじゃない。

 ただの幼馴染としての、不器用だけど本気の提案だった。


 涼子は驚いたように俺を見つめた後、ぽろぽろと涙を流したまま、何度も、何度も強く頷いた。


「……うんっ。うん……っ!」


 こうして、中二病のコスプレから始まった俺の「最適化」は、一人のボロボロになった優等生(幼馴染)を巻き込み、二人三脚の本格的なプロジェクトへと移行していくのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、

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それでは、次回もどうぞお楽しみに!

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